第二話『神人少女の願い』1
そんな……どうして……?
私――柊成実はまだ、人間である涼風司に負けた理由が分からず、混乱していた。
「ほら、だから司を舐めるなと言っただろう」
私の事を見かねて、瀬那先輩は声を掛けてくる。
確かに、あいつの事を舐めていた。
でも、それでも……。
「納得がいかないのか?」
「それはもちろんです!!」
瀬那先輩が私の事を察したように尋ねてきたので、私は強く答えた。
あんな一瞬で倒されて、納得がいってるはずがない。今でも、あれは夢であったと言いたい。
まさか、あいつは……。
私に一つ大きな疑問が生まれる。
「あの、一つ聞いていいですか?」
「ん? 別に構わん」
「彼は魔法が使えるのですか?」
あの異常な速さを生み出すには魔法が必要なはずだ。
だが、ここで大きな矛盾が生まれる。
それは、もちろん人間は魔法について一切の学習をしていない。
魔法については学園でしか知る事が出来ない。魔法自体、知らない人がいるのだ。
自分であり得ない事を、質問をしてしまった。
私は少し後悔する。
というと、まさか……。
私は真の答えにたどり着く。
「いや、司は魔法が使えるわけではないよ。もちろん、魔法についてもよく知らないはずだ」
「じゃあ、つまり……」
「そう。あの速さは司自身の身体能力だ」
分かっていたが、改めて聞かされると度胆を抜かれる。
まさか、あの速さはあいつ自身の力なんて……。普通の人間とは思えない。
それほど、あいつは努力をしているのだろうか。それとも天性の才能か。
考えれば考える程わけが分からなくなる。
「確かに、司は問題児でもあるが実力は充分にある。私が保証する」
瀬那先輩でさえ、こう絶賛するのだからしょうがない。
正直、先ほどから私は驚いてばかりだ。
一瞬で倒された事、あの速さ……どれも今まで経験したことない。
私はそんな人に喧嘩を売ってたの……?
「いいか、柊。確かに人間は神人に劣る。けれども、人間が神人に勝てないわけではない。今回の司のようにな」
「はい、そうですね……」
私はとんでもない勘違いをしていた。
確かに私は神人の中では最弱だ。
それでも、人間には負けないと思っていた。
だが、今回でそれは間違っていた事に気付いた。
「まあ、これで少しは人間に対して考え方が変わるんじゃないか?」
瀬那先輩は少し嬉しそうにそう言う。
瀬那先輩も人間だし、そうしてくれた方がいいのだろう。
でも、私は……。
「残念ですが、私はまだ、人間には好意を向けられません」
「そうか……」
瀬那先輩の表情は曇る。
悪い言い方だったかもしれない。
けれど、私はまだ人間に対して素直になれない。
私達――神人の生活を脅かした人間の事はまだ許せない。
「そうだ。言い忘れていたが、柊。お前は、司とチームを組んでもらうからな」
「えっ?」
瀬那先輩に指導されるのは良いけど……あんな人間とチームを組むなんて……。
嫌だ以外の何でもない。
「司にも言ってある。詳しくは明日話す」
「ちょっと待ってください!! 私の意思はどうなるんですか?」
「なにを言ってる? 負けた時はチームに入るって言っただろう」
「そんな事、一切聞いてません!!」
今、ようやく知ったところなのに。
この先輩は、いったい何を考えているの?
「そうだったか?」
「そうですよ!!」
瀬那先輩がとぼけるので、私は大きな声で答えた。
すると、瀬那先輩は笑う。
こういう時の先輩は私よりも幼いように感じる。
まあ、口に出来ないけど。
「司は最強なんだから、指導してもらったらどうだ?」
「わっわっ私がですか!?」
「そうだ。柊にとってはとても為になると思うぞ」
「そうですが……」
いきなり、喧嘩を売って負けた私の事を相手してくれるのだろうか。
今思うと、凄い恥ずかしい。
もしかして、それを考えてあいつはあんなことを言ったのかしら……?
それを考えると、余計に恥ずかしい。
何で、私は最弱なの!?
私は顔が真っ赤になる。
「そうそう。いつもの柊に戻ったな」
「どこがですか!?」
不敵な笑みを浮かべる瀬那先輩に顔を隠しながら、そう反論する。
でも確かに、先ほどよりも元気になった気がする。
さすが、先輩だと私は思った。
「それじゃあ、明日は柊の部屋に集合という事で大丈夫か?」
「ええ、構いません」
「よし、じゃあ私はこれにて帰るとするよ」
瀬那先輩は私に手を振りながら、去っていく。
「お疲れ様でした」
あいつとチームを組んで本当に強くなれるのだろうか。
少し不安な気持ちもあるが、楽しみでもある。
この時の私はそう思っていた。
「さて、私も帰ろうとっ!!」
私は支度をし、第一訓練場を出た。
途中、瀬那先輩が何やらあの体型になりたいとかもう少し身長を伸ばしたいとか言って嘆いたのを見かけたけど、まあ気にしなくていいよね……!!