第十一話『少女は、仲間か復讐を選択する……』3
放課後。俺は闘技場へと向かった。
もちろん向かった目的は七瀬に会うためだ。
闘技場の前に着くと謎の緊張感に襲われた。
というか何で俺は緊張してるんだよ……。
俺は心の中で自分に突っ込みながら精神を落ち着かせる。
別に緊張する必要ない。俺らしく俺らしい様子でいればいい。
七瀬にもそれを理解して欲しいからな。
さて、入るとしますか……。
俺はそっと闘技場の扉を開ける。
中には天井を悲しそうに見上げている七瀬がいた。
「七瀬!!」
「司君!!」
俺が大声で七瀬に呼び掛けると七瀬は俺の存在に気付き少し嬉しそうな表情をする。
「すまん、待たせたな」
「いえ、大丈夫です…………どういうつもりですか、司君」
俺の後ろにいるもう一人の存在に気が付くと七瀬は嬉しそうな表情から冷たい表情に変わる。
そう、俺は一人で闘技場に来たわけではない。
確かにこういう呼び出しは一人で来た方が本当はいい。だけど、今回だけはあいつも一緒に来てほしかった。
「俺達の話にこいつも必要だと思ってさ。そうだよな、柊?」
「ごめん、七瀬。どうしても司と七瀬の話が聞きたかったの」
俺の隣にいる柊は真剣な眼差しで七瀬に理由を話す。
その言葉を聞き、七瀬は少し警戒を解いた。
だが七瀬の表情はほとんど変わっていない。
「そういう事なら構いませんよ。そもそも柊さんにも関係している事ですから」
「七瀬……」
柊は辛そうな表情を見せる。
俺は柊のことを心配しつつも話を始める。
「それで七瀬。どうして俺を呼び出したんだ?」
「余計な理由なんて必要ありませんね……。単刀直入に言います、私達の計画に協力してください」
「神人を復讐する計画にか?」
「はい。その目的の為に司君の力が必要なんです」
「無理だと言ったら?」
「力ずくでもついてきてもらいます……」
七瀬は強く答え俺に二つの銃を向ける。
「七瀬……あなた!!」
「止めろ、柊。剣を下せ」
七瀬の行動に怒りを覚えた柊は細剣を構えるが俺によって止められる。
ここであまり行動に移されると困るからな。
俺は心の中でそっと安堵した。
「さあ、答えてください……司君。私達の計画に協力しますか? それとも協力しませんか?」
「協力しない」
「では……」
「だけど俺は七瀬と戦う気はない!!」
「……!!」
俺は七瀬の言葉を遮るように心を込めて力強く言い張った。
七瀬は俺の力強い意思に動揺した素振りを見せる。
「どうして戦わないですか……? 抵抗しなければあなたは……」
「理由なんて簡単さ。七瀬は俺たちの仲間だからだ」
「仲間……? くだらないですね。私はあなた達のことを仲間なんて思ったことはありませんよ」
「本当にそうか? 本当に俺達のことを仲間と思っていないのか?」
「何を言ってるんですか……。本当に私はあなた達のことを一切仲間と思っていません」
「なら、どうして『手紙に助けて下さい』なんて書いたんだ?」
俺はそう言い手紙を取り出す。
「……!! ふっ。そんなの司君を同情を誘うために書いただけに過ぎませんよ」
「嘘だ。今も本当は迷ってるんじゃないか? 自分のしてることに罪悪感を覚えてるじゃないのかよ」
「そんな…………そんなわけないじゃないですか」
「そうか。そこまで信念を貫けるのならここで俺を殺せ」
「……!!」
「司!! あなた、何を言ってるのか分かってるの!!」
「分かってる、柊。だから柊は黙っていてくれ」
俺は柊にそう答え武器、防御用の道具など全てを下に置いた。そして手を広げた。
「さあ、七瀬。その信念が本物なら俺を殺せるはずだ。本物ならな……」
「……!!」
七瀬の銃は俺から降ろされる気配はない。しかし撃つ気配もない。
「どうしたんだ、七瀬? 俺を殺さないのか? 実は俺さ、魔法使えるんだよ」
「まっ魔法を……!!」
「一つ見せてやる。炎の霧――ファイアミスト!!」
俺が高らかにそう唱えると空気上に炎の霧が現れる。そして空気上で小さな爆発を起こし消えた。
「俺も神人のような力を持っているんだ。七瀬を苦しめた神人がここにいるぞ。さあ、殺せ。それがお前の目的だろう」
「どうして……どうして……どうして分かってくれないですか!!!!」
七瀬は目に涙を浮かべながら強く俺を見て口を開いた。
「どうしてですか!! あなただって神人に散々嫌な目にあったはずです!! それなのに……どうして神人の味方をするんですか!!!!」
銃を強く握りしめた七瀬は俺に問いかける。
七瀬はやっぱり葛藤していたのだ。それが今改めて分かった。
「違う。俺は神人の味方じゃない」
「それなら私達に協力してくれないんですか?」
「それじゃあ何の解決にもならないだろう。もし神人の復讐が出来たとしても何の得があるんだ!!」
「うるさい!!!! 私は……神人に……全てを奪われたんですよ……復讐以外に何があるって言うんですか……?」
「だからって、柊や他の神人達は関係ないだろう!! 神人が七瀬から全てを奪ったとしても柊達がどうして苦しまなければいけないんだ!!」
「そんなの決まってるじゃないですか……。神人だからですよ。神人が存在するから私達を苦しめるのです。そんな人種が生きていいわけがありません!!」
その時。
バチンッ!!
柊が七瀬の頬を叩いた。
「分かっていないのはあなたの方よ、七瀬。人間だけが苦しめられていると本気で思っているの?」
「……!!」
「七瀬がどんな思いで過ごしてきた分からない。けれど七瀬だって私がどんな辛い事があったなんて分からないはずよ。私だってあなた達、人間に殺されそうになったのだから」
「……嘘です……そんなの嘘に……」
「本当よ」
「そんなのあり得ないです……。もしそれが事実なら、なぜ柊さんは人間を復讐しようと思わないのですか?」
「信じてるからよ……」
「信じてる……? いったいどこを信じられるのですか!!」
「確かにある時までは人間なんて一切信じていなかったし軽蔑もしていたわ。でも今は違う。人間の中でも神人を大切に想ってくれる人がいるんだって。だから、私は七瀬を信じてる」
「俺もだ、七瀬。俺も七瀬を信じてる」
そう、俺達は別に七瀬を苦しめようとしているわけじゃない。
信じているんだ。そして俺達を信じて欲しい。
ただ、それだけだ。
「分からないです……。私はあなた達を陥れようとした。苦しめようとした。それなのに私みたいな最低な人に信じてるなんて言葉が出てくるんですか?」
「そんなの決まってるだろう」
「「仲間だから」」
俺と柊の言葉が重なる。
柊も俺も同じ思いで七瀬に接している。
それを聞いた七瀬は銃を床に落とし、座り込む。
「やっぱり……分からないです……でも……なぜでしょう……とても心が温かいです……」
七瀬は溢れ出た涙を拭きながら俺達の方を見る。
「こんな……最低な……人でも……私を……仲間だと……思って……くれますか?」
「当たり前だ。そもそもお前は元々俺達の仲間じゃないか」
「そうよ、七瀬。私はあなたを仲間じゃないなんて思った事は一度もないわ」
「二人とも……ありがとう……本当に……ありがとう。そして……私を……助けて下さい」
「ああ、もちろん」
「ええ、いいわ」
すると、急に雨が止み綺麗な夕日の光が闘技場に差す。
「これからもよろしくな、七瀬!!」
「私もよろしくね!!」
「はい!! よろしくお願いします!!」
そして七瀬は今まで一番美しく輝いた笑顔で微笑んだ。




