第十話『思いが交差するとき』4
「あいつ、何やってるのよ……」
私は頬杖をつきながら向かい側の店にいる司と七瀬を見た。
あいつは何で愉快に会話してるのよ、まったく。
窓越しからでもあいつが楽しそうにしているのが分かる。
あいつは……あいつは……いったい何を考えてるの……?
「あの、お客様? ご注文は?」
「柊さん、注文」
「あっ。すいません。えっと……このマンゴージュースで」
ウエイトレスの存在に気付いた私は慌てて注文をする。向かい側に座っている伊吹が少し不安そうに私を眺めていた。
少し考えすぎたわね……。
私は少し反省し、再び窓の向こうに視線を戻す。
「他にご注文はございますか?」
「いや、ありません」
「承りました。ただいまご注文をしたものをお持ちしますので、少々お待ちください」
伊吹が笑顔でウエイトレスに答え、ウエイトレスは私達から離れて行った。
「本当に司の後をついてきて良かったの?」
伊吹が心配そうに尋ねてくる。
まあ、伊吹がそんな表情をするのも無理ない。伊吹がこういう事で罪悪感を覚える事は知っている。
だけど、今回は別に悪い意味であいつを尾行しているわけじゃない。
「心配しないで、伊吹。あいつはまだ気づいていないから」
「そういう事を聞いているんじゃなくて……」
「べっべっ別にあいつをつけようと思ったのはただ気になっただけよ。変に思わないでよね!!」
「それは分かってるよ、柊さん。でも、そんなに顔を真っ赤にして怒る事かな?」
「別に真っ赤にしてないわよ!!」
「だったら、どうして?」
もういったい私はどうしちゃったのよ……。何であいつのことを考えるとこんなにドキドキするの……?
ああ、もう訳が分からないわ!!
私は心の中で邪念を払い、伊吹に理由を話す。
「あいつを追いかけてきたのはどうしても心配だったのよ……」
「心配?」
「事情は話せないけど、とにかくあいつには危険な目に遭って欲しくないの」
そう、これはただの尾行ではない。あいつに七瀬が神の作り手の一員であることを伝えなければいけない。
そうしないとあいつは……。
これはただの心配。決してあいつのことが気になっているわけではない。せめて前回の恩返しくらいはここでしたい。
私にはその思いでいっぱいだった。
詳しくは伊吹に話さなかったけれど、伊吹なら私の気持ち分かってるくれるよね……。
私は心の中でそう呟きながら伊吹を真剣な表情で見つめる。
伊吹はその表情に驚いたのか首をかしげた後、考え込んでしまった。
まさか、伝わっていないのかしら……。少し不安になる。
数十秒後。伊吹は何か閃いたように手を打つ。そして口を開いた。
「そういうことだね!! 分かったよ、柊さん」
「分かってくれてほっとしたわ」
何とか伝わったようで、私は安堵する。
しかし安堵したのもつかの間、伊吹がとんでもないことを発言する。
「うんうん。でも、まさか柊さんが七瀬さんに嫉妬していたなんて意外……って、あれ?」
「全然分かってないじゃない!!!! なっなっなんであいつの事で七瀬に嫉妬しなければならないのよ!!!!」
私は盛大な声で大否定し、机を強く叩いた。
その様子に伊吹は怖がっている。
「ひっひっ柊さん、落ち着いて。だって今の話からじゃこれしか解釈出来ないってば!! それに僕は司の事を話して……」
「同じことじゃ!!!!」
「ひぃっ。お願いだから僕にフォークを向けないで。それに口調変だよ!!」
「覚悟しなさい……伊吹……」
私はフォークを右手に強く握りしめ伊吹に近付く。伊吹は頑張って逃げようとするが伊吹が座っているのはちょうど角なので逃げる場所がない。
「お願いだから……勘弁……。きゃあぁぁぁぁ!!」
「男のくせに女の子みたいな叫び声を上げてるんじゃないわよ!!」
私が伊吹が飛び掛かろうとした瞬間違う場所から声が聞こえた。
「お前達!! 何やってるんだ!!」
「まずい……ってあれ? 瀬那先輩じゃないですか」
声がする方を向くとそこには瀬那先輩が立っていた。
私は急いで伊吹のそばを離れた。ちなみに伊吹の頬をつねっておいた。
「誰かと思えば……お前達か。まったく司と一緒に居る者は中々乱暴なんだな」
「あいつと一緒にしないでください!! それに私は乱暴ではありません」
「だったら、柊。この状況なんだ。どうして伊吹が泣き崩れているんだ……」
「あっ……」
瀬那先輩に言われ、伊吹の方へ視線を移すと伊吹が手で必死に涙を拭いていた。
しまった、少しやり過ぎたわ……。
「ぐすんっ……。酷いよ……柊さん。別に悪気があって言ったわけじゃないのに……」
伊吹はそう言いながら私と瀬那先輩の方に顔を向ける。
「……!!」
可愛い過ぎる……。本当に男子なの、伊吹。
これは反則過ぎる。目に涙を溜める今の伊吹は男子ではない、女子いや美少女のように見える。
伊吹の顔を見たら余計に罪悪感が覚えてきた。
「ごめん、伊吹。少しやり過ぎたわ。次から気を付けるわ」
「……本当?」
「ええ、本当よ」
私が全身全霊で謝罪すると伊吹はようやく泣き止んだ。
伊吹はもう一度袖で目を拭き、笑顔になった。
私はほっとする。
「まあ、事情は聞かないおくが……それよりどうして柊達がここにいるんだ?」
「それはこちらのセリフですよ、瀬那先輩。先輩こそどうして?」
「いや、ちょっとな……」
瀬那先輩はあまり説明したくないようだ。
何か大事な用事があるのだろうか。
「私達はあいつを追っかけてきたんですよ」
私はそう言いながら窓の向こうを指差す。
すると、瀬那先輩が窓の向こうを見つめる。
「ああ、何だ。お前達も司に用があったのか……」
「えっ? 瀬那先輩もあいつを尾行してきたんですか?」
「いやいや、まさか。私は司の様子を確認しに来ただけだよ。それに私が監視している司じゃない」
「……!! まさか……」
瀬那先輩は七瀬の正体を知っているのかもしれない。
私は瀬那先輩の方に答えを求めた。
「七瀬だ。私が監視をしているのは」
「やっぱりそうなんですね……」
「やっぱりって柊。お前何か七瀬について知っているのか?」
「はい、そうです」
「すまないが、詳しく教えてくれないか?」
「分かりました」
「あの、柊さんと瀬那先輩はいったい何の話を……」
伊吹がそんなことを言っている間に私は七瀬について瀬那先輩に全て話した。
途中驚きつつも瀬那先輩は最後まで真摯に聞いていた。
「まさかと思っていたが本当に神の作り手の仲間だったとはな……」
「はい、ですから早く対処しないと……」
「ああ。……!! みんな、伏せろ!!」
「えっ? どうしてですか?」
「いいから早く!!」
瀬那先輩が急に大きな声で危険を促し始めた。
いったいどうしたのだろう……と思っていた瞬間。
大きな爆音と共に店全体が爆発した。
「いったい何が……!!」
「みんな、大丈夫……くっ!!」
「瀬那先輩、大丈夫ですか!!」
私と伊吹は瀬那先輩のおかげで無傷だったが、瀬那先輩は右足を負傷していた。
「どうやら足に何かが刺さったようだな……。とにかくここからはや……」
「「瀬那先輩!!」」
瀬那先輩は気を失ってしまった。
伊吹はその様子を見て、青ざめている。
「瀬那先輩は大丈夫だよね?」
「ええ、大丈夫よ。瀬那先輩は気を失っただけ」
「そう、大丈夫ですよ」
「誰!!」
突如第三者の声が私と伊吹に聞こえる。
私は大声で声の主に問いかける。
すると、声の主はまるで幽霊のように姿を現した。
「おや、この状況で平然を保てるとは中々ですね……」
「何者なの、あなた」
「これはこれは自己紹介が遅れました。私は威力吸収の神人、レオスと申します」
黒いフードを被った男はご丁寧にお辞儀をする。
まさか、こいつがあの……。
「あなたはもしかして神の作り手の仲間……」
「いかにも私は神の作り手の七瀬グループの一員ですよ。くっくっ……」
最後にレオスと名乗った男は薄気味悪い笑い出した。
いったいどうなっているのよ……。
私はレオスを強く睨み付けた。




