第十話『思いが交差するとき』3
「さて、どうしたもんかな……」
七瀬と一緒に神庭町に来たものの、俺にとっては初めての事なので何をしようか戸惑ってしまう。
それにこれはただのデートではないしな。七瀬の正体を確かめるためのものだ。
「私、ここの事何も知らないので案内してくださいよ~」
「ああ、そうするつもりだけど……」
七瀬は俺を急かすように声を掛ける。案外七瀬はこういう事に関しては積極的なんだな。
七瀬の性格がまた一つ分かったところで辺りを見渡す。
西か、東かどうしようか……。
ここ、神庭町は俺たちの学園である女神学園と同じように西エリアと東エリアがある。
西エリアは今の時代とは珍しい古風な街並みがあり、とても和を感じるエリアだ。それとは逆に東エリアは最先端の施設が充実しており、科学の力の結晶とも呼べるエリアである。
ちょうど俺と七瀬が立っているのはその分岐点だ。それで俺はどちらにしようか迷っている。
さて、本当にどうするか……。
俺は深く考え込む。そもそも、神の作り手がどちらを襲撃してくるかだよな。
一応瀬那先輩姉妹の努力あって、どちらのエリアにも風紀委員や生徒会、警察の手配をしている。
準備万端と言えば準備万端だが、どちらに来るかが確証がない。もしかしたら、両方のエリアかもしれない。
それなら、なおさら今の決断は重要になってくる。
「司君、早く行きましょう?」
「ああ、少し待ってくれ」
俺が考えに考え続けていると、七瀬が少し不満そうに言ってきた。
まずいな。七瀬に怪しまれたら本末転倒じゃないか。
……ったく。仕方が無い。ここは腹を決めよう。
俺は苦渋の決断をして、そのエリアの方向を指差した。
「……東エリアですか?」
「ああ、こっちの方がデートにいいかもしれないしな」
「確かに、そうですね!!」
七瀬は嬉しそうに俺の意見に同意した。
とりあえずは一安心だな。俺は心の中でそう呟く。
「じゃあ、行くか。東エリアに。まあ、ここから東エリアだけどさ……」
「はい!! デート楽しみです!!」
「そっそっそうか? 楽しみにしてくれて俺は嬉しいよ。行くか」
先ほどよりも楽しそうに七瀬は頷いた。
俺はそれと同時に東エリアに歩き出す。
そのエリアに踏み出せば、先ほどまでとは全く別世界だ。
そんな風に感じるエリアだ。そびえ立つ近未来のタワー。食の祭典とまで称される大きなレストラン。誰でも気軽に楽しめるテーマパークの様なデパート。
ここ、東エリアに何でもある。
まさかこんな所でデートすることになろうとはな……。
俺にとっては予想外でしかない。
まあ、今日は気が休まらないと思うが。
とにかく何事もなければいいけどな……。
俺が心の中でそう思っていると、一瞬視線を感じた。
「……? 誰かが俺達を見ている」
「どうかしましたか、司君?」
「いや、何でもない」
俺は何事もなかったように七瀬と共に歩き出す。
今、そんな事気にしている場合じゃないしな。
どうせ大したことではないだろう。きっとそうだ。
とりあえず、今は進むしかないな。
再び心の中で確認し、東エリアを歩いていく。
「わぁ……。凄いですね、ここはな」
「まあ、伊達に近未来なエリアだって名乗っていないしな」
辺りを見渡せば大きなタワーやレストラン。
七瀬が驚くのも無理ない。てっきり俺は七瀬はこういうのは体験しているものだと思っていたところだ。
俺は七瀬の話に合わせながら、そんな事を考えていた。
「とりあえず、まずはここだな」
俺はとある場所で立ち止まる。
そこは女子に嬉しいデザート沢山の店だ。テレビでもよく挙げられている人気な所だ。それに財布にお優しいお手頃な値段だ。
俺にとっても大助かりな店なのである。反対側にも店があるがこちらでいいだろう。
「どうだ、七瀬? ここでいいか?」
一応俺は七瀬の意見を聞く。
もしここが嫌でも七瀬に合いそうな店は沢山ある。
俺に聞かれた七瀬は数秒の間考えた後答えを出した。
「はい、いいですよ!! 私もこういうの嫌いじゃないので」
「なら、良かった。じゃあ、早速入ろう」
俺は店の扉を引いた。そして俺達は中へと入る。
「いらっしゃいませ!!」
中に入ると中々美男美女な人達が俺達を迎えてくれた。
その店の中にはシャンデリアがあり、また色彩色豊かな花が飾ってある。
とても安いを売りにしている店とは思えない。
俺は隣を見ると、うっとりした七瀬がいた。たまにこういうの悪くないかもな。っていけないいけない。
今回はあくまで監視だ。浮かれている暇はないんだ。
でも、少しぐらいいいよな。そんな甘い気持ちが俺の中で出てきてしまった。
「お客様は二名ですか?」
「はい、そうです」
俺は質問に淡々と答えた。
「では、ご案内しますね」
中々美人な男性は俺たちを案内する。
こういう気品な所もこの店の良い所なのだろう。俺はそう思いながら七瀬と一緒についていく。
「こちらでどうぞ」
「ありがとうございます」
「本当に良い店ですね……!!」
初めてきたがまさかここまでとはな。
さすがに力を入れ過ぎような気もするが。
上品な机と椅子がそこにあった。
ちょうど向かい合わせになっている。
「メニューはこちらです」
俺達が座るとそれぞれにメニューが渡される。
なるほど。飲み物までも凄いな……。
まあ、俺はコーヒーにでもしておくけどな。
「ご注文があれば今すぐ承りますが、いかがなさいますか?」
「俺はコーヒーで。七瀬はどうするんだ?」
「私は……このモンブランとレモンティーで」
「コーヒー、モンブランとレモンティーですね? 分かりました、ただちに持ってきますので少々お待ち下さい」
俺たちの注文を聞くと、ウエイトレスは颯爽と去って行った。
さすが仕事が早い奴は違うな。
さてとりあえず最初はクリアだな。
俺は心の中で安堵する。
「それにしても……司君」
「何だ、七瀬?」
七瀬は少し頬を染めて俺の事を見ている。
何だよ……。そんな風に見られると俺も緊張するだろう。
「その、改めてこうして向かい合って話すと何だか変な気分になりますね……」
「まあ確かにな」
俺も中途半端な答えしか返せなくなる。
落ち着け、俺。
こんな事で浮かれてどうするんだ、まったく。ここまで自分が女子に対して恥ずかしさを持っていると思えなかった。
七瀬はともかく柊とはもう二か月少しずっと一緒にいるしな。
俺としては慣れたと思っていたがそうではなかったらしい。
「…………」
「…………」
その後、沈黙が流れてしまう。
これはまずい。俺は七瀬に声を掛ける。
「あのさあ、七瀬」
「何ですか?」
「どうして俺とデートしようかと思ったんだ? 別に俺でなくてももっと良い奴がいると思うが」
俺の中で一番気になっていた事を七瀬にぶつけた。
なぜ、七瀬が俺とデートしようとした理由が見当たらないしな。
俺の質問を聞いた後、先ほどよりも恥ずかしそうに七瀬は答える。
「それは……もちろん……司君は私にとって……大切な人だからですよ……」
「そっそっそっそうか……」
そう言われてしまうと俺も返す言葉がない。まさかこんなに正直に答えるとは……。
まったく、どうなってんだ今日は。
俺が気が動転していると、
「うおっ!!って電話か……」
ふいに電話が鳴った。
俺は視線で七瀬に許可を取る。
それを見た七瀬は頷いてくれた。
『もしもし、司か?』
「瀬那先輩ですか。はいそうですけど」
電話の主の瀬那先輩だった。
声からは真剣な様子が伝わってくる。
『今の所どうだ、七瀬は?』
「はい、今のところ特にはありません。瀬那先輩の方はどうですか?」
『私の方も同じような状態だ。一応聞いておくが七瀬とどこにいるんだ?」
「東エリアのすぐ近くにあるスイーツの店です」
『東エリアか……。分かった、ありがとう。じゃあ、引き続き頼むぞ』
「はい、瀬那先輩」
『相手が美人だからって浮かれるなよ、司』
「分かってますよ」
『ならいい。じゃあ』
瀬那先輩の電話は切れた。
俺はスマホをポケットにしまった。
「どうかしましたか?」
七瀬は俺の事を見ながら尋ねてきた。
「いや、なんでもない。それよりデザートが来るまで少し話をしようか」
「あっ、はい!!」
これは決してただのデートではない。
俺は心に強くしまいながら、七瀬との会話を始めた。




