第十話『思いが交差するとき』1
事件から二日後の朝。
俺は瀬那先輩に呼び出されていた。
恐らく監視の件だろう。
「失礼します、瀬那先輩」
「おう、来たな」
「ふふっ。朝から問題児君に会えるなんてやっぱり私って運がいいかも」
「姉さん、余計な事を口にするな」
「はいはい、分かってるわよ」
俺が風紀委員室に入ると瀬那先輩だけでなく姉の瀬那生徒会長もいた。
まあ、一大事だから当たり前か。
瀬那先輩は姉の言動に注意をした後、真剣な表情で語り出した。
「監視のことだが……風紀委員全員で監視することに決まった。司が監視して欲しい人物である七瀬は私達がしっかりと監視する」
「そうですか。ご協力ありがとうございます、瀬那先輩」
どうやら俺の頼みは聞いてもらえたようだ。
ひとまず俺は安心する。
とはいえ、解決してわけではないが。そもそも七瀬が内通者という証拠もない。
柊が何か掴んでいると思って聞いたが、一瞬顔を真っ青にしてだけで何も教えてくれなかった。
いったい柊は何を知ったのだろうか。俺には分からない。
それでも、何か知っているのは分かった。
ここばかりは柊が自分から話すまで待つしかないな。
とりあえず、準備は整った。
「あの、生徒会の方はどうでしょうか?」
「うん。もちろん、生徒会の方も協力するわ」
「そう仰っていただけて嬉しいです。ありがとうございます」
「さて、その監視している七瀬だが今の所何かを仕掛ける素振りは見せていないとの報告が入っている。まだ、監視を始めてから二日目だから何とも言えないが……」
瀬那先輩は少し難しそうな顔を浮かべる。
風紀委員での監視は特に異常なしか。訓練中も特に何もなかったからな。
俺は瀬那生徒会長を見る。
「生徒会の方も特におかしなことは起こっていないわ」
「ご報告ありがとうございます。俺の方も異常ありません」
「神人の件も犯人が分かっていないし、内通者だと確かめられる証拠もなしか…………。これじゃあ、八方塞がりだな」
瀬那先輩は椅子にもたれながら、そんな事を呟いた。
「そうね……」
生徒会長も同じ意見のようだ。
確かに今の所何も掴めていない。
暁教官からも情報が一切入って来ていない。
瀬那先輩の言う通り八方塞がりかもしれない……。
「とりあえず、一週間程は続けてみるがもしそれでも何も異常がなければ監視を中止するからな」
「はい、分かっています」
「分かってるならいい。これだけの報告で呼び出してすまないな、司」
「いえ、全然構いません。新たな報告を待っています」
俺は一礼し風紀委員室を後にしようとする。
すると、突然俺のスマホの音が鳴り響く。
「……!! すいません、瀬那先輩。お電話のようです」
「ここでいいぞ、司」
「はい、ではお言葉に甘えて」
俺はスマホの電話に応える。
電話は暁教官からだった。
「もしもし? 暁教官ですか?」
『ああ、そうだ。そんなことより緊急事態だ、司君』
暁教官の声を聞くととても焦っている様子だった。
いったいどんな緊急事態だ……?
俺は非常に気になり、暁教官に尋ねる。
「何が緊急事態なんですか、暁教官?」
『心して聞いてくれ、司君。私の優秀なエージェントが得た情報だ。今日、君たちの町神庭町に神の作り手が奇襲を仕掛けるそうだ……』
「神庭町にですか!! それは本当ですか、暁教官!!」
そんな俺達の住んでいる街にあいつらが……。
俺は拳を強く握りながら、心して話を聞くのを続ける。
『ああ、本当だ。どの支部が仕掛けてくるまでは分かっていない。だが、君の町が危険な目に遭うのは確かだ』
「そうですか、分かりました。それで俺はどうすれば……」
『ああ、その事だが司君にはなるべく内密に事を終えてほしい。私としては無関係な住民は巻き込みたくないのだ、君は巻き込む事になってしまうが……』
暁教官は少し後ろめたそうな声で俺に伝えた。
「内密にですか……分かりました。最善を尽くします、暁教官」
『そう言ってくれてありがたい。では、心して掛かってくれ。決して死ぬなよ、司君』
「もちろん、承知しておりますよ」
『それが聞く事が出来て安心した。では、頼むよ』
少しほっとしたように言葉を口にすると、電話は切れた。
俺はスマホを自分のポケットに入れる。
視線を前に移すと、瀬那先輩達は深刻そうな表情をしていた。
「なあ、司。今の話はもしかして……」
「はい、あいつらです」
「そうか、ついにあいつらが……。司、どうするつもりだ?」
俺は心配そうに瀬那先輩に尋ねられる。
そんな風な表情をするのは昔から俺の事を知っているからだ。
俺が死にそうになった時も瀬那先輩は俺と一緒にいた。
瀬那先輩として心が痛い事なのだろう。
「監視と別にこれは俺が片付けます。瀬那先輩達は七瀬の監視をお願いします」
「危険だ、司!! 司が行くなら私も……」
「駄目です、瀬那先輩。先輩は監視を頼みます……」
俺は瀬那先輩に強くそう言った。
それを聞いた先輩は「でも……」とうつむきながら、黙ってしまった。
酷い言い方だったかもしれないが、どうしても巻き込みたくない。
俺にはその思いがあった。瀬那先輩は先輩としてだけでなく、大切な幼馴染なのだから。
「あら、問題児君。もしかして、私達の実力を知らないのかしら? 伊達に生徒会長はやってないつもりだけど」
今の様子を黙ってみていた生徒会長は俺を見てそう言った。
確かに瀬那先輩達が実力があるのは重々承知している。
でも、それでも俺は巻き込みたくない……。
「先輩方が実力があるのはもちろん分かっています。ですが、駄目です。瀬那生徒会長は危険な事であることがお分かりになられないのですか?」
「分かっていないのはあなたよ、問題児君」
俺の言葉を聞き、生徒会長は強く言い返す。
俺はその気迫に負けてしまい、言葉が詰まる。
その様子を見た瀬那生徒会長は話を切り出す。
「別に私達は死にに行くわけじゃないのよ。あなたと一緒に戦いたいの。みんなを守りたいのよ。そんな思いが持って、あなたに参加しようとしているのにあなたはそれを邪魔するのかしら?」
生徒会長の表情はより真剣になる。
「別にそういうわけではありません……。ただ、心配なだけです」
俺が答えると優しく俺に言葉を掛けてくる。
「そんな心配、必要ないわ。私達を信じて」
信じてか……。
俺は少し考える。そこまでの決意が先輩達にあったのは知らなかった。
それなら、俺が断る必要もないな。
「分かりました。そこまでおっしゃるのなら協力お願いします」
「それを聞きたかったわ、問題児君!!」
生徒会長の表情が少し軽くなる。
そして、瀬那先輩の元に駆け寄り、
「良かったね、真央ちゃん」
少しからかうように呟いた。
「えっえっ!? あっ、まあ。信じてくれるなら嬉しいけど……」
瀬那先輩は恥ずかしそうに答える。
とにかく、今回も大変そうだな。
俺は瀬那先輩達を見ながら、そう思った。
「司」
「はい、何ですか?」
「必ずこの町を守るぞ」
「はい、分かっています」




