第九話『信頼と迷い』2
第一訓練場の捜査終了後。俺を含め捜査に参加した人達は風紀委員室に集まっていた。
「結局、有力な手掛かりはなしか……」
脱力したように瀬那先輩は口にすると、他の者達は黙り込んでしまう。
捜査で分かったのは、二つだ。一つは被害にあったのは神人である事。もう一つはその犯人も神人である事だ。
今の所、魔法が使えるのは神人だけとなっている。まあ、俺が使える事を知ったらその常識は覆るが。
とにかく、この二つから分かる事は仕掛けてきたのは神の作り手だという事だ。
とはいえ、確証があるわけではない。だが、あの暁教官が渡してくれた資料は嘘ではないはずだ。
この学園にあいつらの内通者がいる……!! しかも今回転校してきた二人の生徒のどちらかが内通者。
でも、どうすればいい……。瀬那先輩達に監視をしてもらうか? いや、もし内通者に気付かれたら終わりだな。
俺はこれからどうするか深く考える。
瀬那先輩が口にしてから誰も未だに話そうとしない。誰もがこの状況を打開する策を出せていなかった。もちろん、俺もだ。
一応考えはあるが、それが最善の策かどうかまだ分からない。分からないまま提案をするのはあまりにも無責任だ。
でも、だからってこのまま黙っているのも……。
そう思っていた時だった。意外な人物によってこの沈黙が破られる。
「あの、少しいいですか?」
この沈黙の中で口を開いたのは、手掛かり探しを自分もすると言いだした柊だ。
瀬那先輩は少し意外そうな顔をしつつも、柊に尋ねる。
「何か、良い案でもあるのか、柊?」
「いいえ、そういうわけではありません。ただ、ここでこんな風に考えていても仕方が無いと思っただけです。なので、一度今日は解散にしませんか?」
柊の提案に部屋の中にいる誰もどよめく。俺も少し驚いた。
柊にしても意外な提案だな……。
だが、俺は今の状況下ではそれが最善だと思った。
「みんな、静かにしろ。…………確かに、柊の言う通りだ。今日はいくら考えても思い付かんだろう」
どうやら瀬那先輩も俺と同じ事を思っていたようだ。
柊は瀬那先輩の意見を聞くとそっと胸を撫で下ろす。
「私も疲れちゃったし……真央ちゃん。解散にしましょ?」
柊の意見に便乗するように、瀬那生徒会長は瀬那先輩に抱き着きながら、頼んだ。
「姉さんに言われなくても分かってる。みんな、今日は解散する。明日、またここに集まるようにいいな?」
瀬那先輩の言葉を聞き、全員が頷く。
姉の体を自分から離れさせ、終了の合図をした。
「では、今日は解散!!」
その指示でこの部屋に居る者は部屋から出て行く。
その中で一番に出たのは柊だ。
どうも焦ったご様子で、走りながら帰って行った。
あいつ、やっぱり何か隠しているだろ……。
俺は今の様子を見て心の中でそう呟いた。
柊の様子に驚いた者達もすぐに部屋から退出した。
今、残っているのは瀬那先輩姉妹と俺だけだ。
「みんな、帰ったか……」
「そうみたいですね」
「そういえば、司。さっきの話の続きだが、もしかしてあいつらの事か」
さっきの話って……ああ、あの事だな。
俺は思い出しながら、頷く。
「はい、話というのはこれです」
俺は暁教官からもらった資料を瀬那先輩に渡す。
隣に居た姉の瀬那生徒会長も瀬那先輩の横から除く。
そして、二人とも愕然としていた。
「…………まさか今回の転校生に内通者がいたなんてな…………暁教官の資料だから嘘はないだろう」
「これは一大事ね……」
二人とも険しい表情を浮かべていた。
生徒会長や風紀委員長だからこそ感じるものがあるのだろう。
どうする……お願いしてみるか? 俺は結論に迷う。
だが、今更躊躇っていてもしょうがない。
ここは一か八かお願いしてみるしかない。
「瀬那先輩達にお願いがあります」
「……? どうした、司?」
「転校生二人を監視して欲しいです」
「監視か……。止むを得ない、良いだろう。協力する」
「妹が言うのなら、私もいいわよ」
それは生徒会長としてどうかと思いますけどね……。
そんなツッコミは心の中にしまっておく。
「ありがとうございます」
俺は一礼する。
「よせよせ、昔から仲だから気にするな」
瀬那先輩は少し照れるように自分の髪に触れる。
こういう時の先輩は意外に可愛いものだな。
まあ、口にはしない。
「それで、どちらを監視するんだ?」
「一応二人を監視したい所ですが、一人に絞ります」
「まさか、もう犯人が分かっているのか?」
「いいえ、ただ引っ掛かる点がその人にはあります」
俺の心が痛む。
あまり人は疑いたくない。だが、そうしなければ俺たちは……。
まだ会ったばかりだったのにな……。
「監視する転校生は七瀬唄です」
「……!! 本気で言ってるのか?」
「はい、本気です」
俺が七瀬を疑ったのは理由がしっかりとある。
七瀬は被害があった場所に柊達と一緒にいなかった。そして、七瀬は神人に対して大きな憎しみを抱いている事だ。
例え、内通者でもなくても何か知っているはずだ。
俺はそう思っている。
ただ、賛同される提案ではない事は分かっている。
「言い忘れましたが、あくまで保険です」
俺は説明を付け足す。
まあ、それでも賛同してもらえるわけではないけどな。
瀬那先輩は俺の提案を聞き、俺の事をまじまじと見つめる。
「本当に保険だな?」
「はい、そうです」
「なら、協力する。あいつが内通者であるとは疑いたくないが……」
「ありがとうございます、瀬那先輩」
瀬那先輩は渋々賛同してくれた。
俺は心の底から瀬那先輩と分かり合える仲で良かったと思った。
瀬那先輩の返答を聞いていた瀬那生徒会長は俺の元に近寄り真剣な眼差しを向けた。
「ねえ、問題児君。ここからは、ただの出来事では誤魔化せなくなるわよ。それでも、あなたはやるのかしら?」
「はい、やります」
「……そう。なら、私もこの学園の生徒会長として協力するわ」
「瀬那生徒会長もありがとうございます」
これで何とか準備は整ったか。
後は、相手がどう仕掛けてくるかだな。
「では、俺はこれで。資料は瀬那先輩が大切に保管して下さい」
「ああ、分かった。またな、司」
「はい」
俺は扉を開け、廊下に出た。
ついに始まるんだな、あいつらとの闘いが……!!




