第一話『最強と最弱』4
色々と補足や追加をしました。
「ねぇ? あれ、あの有名な問題児でしょ?」
「うそ~……。しかも人間でしょ」
「そうそう。私たち、神人の所は来ないで欲しいわ」
「ホントホント」
くそっ。
好き勝手言ってくれるな、あいつら。
瀬那先輩と歩いていると、俺に対しての悪口、罵倒が飛んでくる。
「司の問題児っぷりはどうやらここまで広まっているようだな」
瀬那先輩は少し呆れながら、そう呟く。
別に俺だって好きでこうしてわけではない。
「まあ、人の噂も七十五日って言うし、我慢しろ」
「まず、誤解を解いてくれないんですか?」
「当たり前だ。問題児と言うのは事実だろうが」
「もう、勘弁してくださいよ。はぁ~……」
俺は呟きながら、ため息を漏らす。
「それにしても、人間と神人の格差がここまで広がっているとは……」
瀬那先輩も俺と同じ人間である。
こんな風に見下されているのは良い気分ではないだろう。
ここ、女神学園でも人間と神人では格差がある。
まずは、授業内容。
これは前も話をしたが、俺達――人間は異常な程、神人と学習内容が遅れている。
神人は今や、魔法について学習である。
次に、生活環境。
ここの学園には学生寮があり、そこに1万人以上の人が住んでいる。
割合としては神人が9割、人間が1割だ。
何故かは、察しの良い方は分かるとは思うが、人間が住めるのはせいぜい二十部屋ぐらいで、しかもとても窮屈だ。
それに比べ、神人は人間の十倍以上の部屋があり、しかも広い。
そのせいで、人間は学生寮にはほとんど住んでおらず、普通の家やマンションに住んでいる。
俺もその一人だ。まあ、俺はそんなに気にしていないが。
最後に、位。
もちろん、神人が上だ。
この学園には位付けがあり、神人には制服にコスモスの紋章が刻まれる。
それに対して、人間は同じく制服にコスモスの紋章が刻まれるのだが、半分しか刻まれない。
ようは、俺たちは欠陥品だと、言いたいのだろう。
制服の着用は義務付けられているので、見たら一瞬で神人か、人間かと分かる。
全く嫌な制度だ。
随分と長い話をしたが、それを瀬那先輩は風紀委員長として気にしている。
だから、こんな悲しそうな顔をしているのだろう。
「今は、仕方がない事ですよ……」
俺は励ましついでに瀬那先輩に声を掛ける。
「今回の指導がそれを解消出来たら良いんだが……」
「まさか、もう一人は……」
「そうだ、神人だ」
少しばつが悪そうに答える。
まあ、確かに神人と人間がチームを組むなんて今まで聞いた事がない。
まさか、その為に俺を……。
少し間が空いた頃、瀬那先輩が扉の前で立ち止まる。
「着いたぞ、ここだ」
「えっ……。ここですか?」
瀬那先輩が立ち止った部屋は扉からして古そうで、しかも木製だった。
今時、木の家なんてそうそうないし、もちろん木の部屋なんてない。
それなのに俺の前にそれが存在している。
さすがにこれは差別の次元を超えている。
というか、ここは神人の部屋のはずだ。
「何、ぼけっとしているんだ。入るぞ」
瀬那先輩の一言でようやく入ろうとする。
俺は扉に手を掛け、開ける。
ギィィィと今にも壊れそうな音を出しながら、扉はゆっくりと開いてゆく。
ようやく部屋の中が見えるようになった。
「柊、待ったか?」
瀬那先輩はこの部屋には似合わない美少女に声を掛ける。
その美少女は背もそこそこ高く、スタイルも良い方だ。それに薄いピンク色の綺麗な長髪が普通の少女とは違っていた。
ちなみに瀬那先輩は青い色のショートヘヤーである。あんまり言うと殺されるのでここまでにしておく。
辺りを見渡すと、部屋の中には長机が一つ、椅子が四つほどあるだけだった。
それに全てぼろい。
唯一輝きを見せるのは長机においてある細剣ぐらいだ。
「いえ、全然大丈夫です。それより、その今にも問題を起こそうな人は?」
「俺って、そこまで問題児に見えるのかよ……」
開口一番、俺の事を問題児扱いしてくる少女はどうやら瀬那先輩の知り合いのようだ。
「こいつは、涼風司。お前と同じ一年生だ」
ああ、そういえば言い忘れていたが、俺はこの学園の一年生だ。
まあ、問題児として騒がれているのはこれが原因とも言える。
「涼風……涼風ってあの問題児の?」
「そうだ」
そこは否定してくださいよ。
俺は心の中でツッコミを入れる。
こんな人まで噂が広がっているようで、俺は悪い意味で有名人である。
勘弁してくれよ、まったく。
「ちょっと待ってください!! 俺は確かに問題児扱いされてますが、俺は最強です」
「最強って自分で言うのか……」
確かにそうだが、俺は最強なのは間違っていないはずだ。
ナルシストに聞こえるようだが、俺は負けた事がない。
「人間がね……」
「何だよ?」
どうやら、俺の制服を見て人間だと気付いたようだ。
その目は俺を見下しているのか……。
いや、違う。他の神人とは違う目をしている。
まるで、人間の事を嫌っているようだった。
「私は、柊成実。この学園の一年生で神人よ」
その少女、柊は神人の証であるコスモスの紋章を見せてくる。
うん? 待て、柊成実だと……。
俺はこいつを知っているかもしれない。
俺は今までの事を整理する。
あっ。あいつじゃないか。
「もしかして、お前。神人の中で最弱と言われている柊成実か?」
「どうして、それを知っているのよ……」
柊は俺に痛い所を突かれ、少し落ち込む。
そう、こいつ――柊は神人の中で最弱だ。
入学二日目からいきなり実技試験というものがある。
その中に模擬戦があるのだが、柊は十五戦して全敗だ。
しかも全てストレート負け。
なるほど、そういう事か。
これが原因でこの部屋にいるのだろう。
「でっでっでも!! 人間になら、負けないわ」
苦し紛れなのか、そんな事を言い始める。
これは俺も少し腹が立つ。
「神人の中で最弱が、俺に勝てるのか?」
「もちろんよ……絶対に負けないわ!!」
「だがな、柊。司をあまり舐めない方がいいぞ」
先ほどよりも真剣な眼差しで、瀬那先輩は警告する。
瀬那先輩とは昔から色々と訓練や模擬戦等で張り合っている。
最強と言っていて悪いが、瀬那先輩には今の所勝利した事がない。
すると、柊は少し怯みながら、
「先輩まで……。なら、人間!! 私と勝負しなさい!!」
「お前、人の話聞いてたか? 俺は最強だぞ」
柊は瀬那先輩の警告を無視し、そう宣言した。
瀬那先輩も少し呆れている。
どちらに呆れているのかは分からないが。
「構わないわ!! 私が勝って、私の方が強い事を証明してみせるわ」
「お前なぁ……。勝ちもしない試合をしてどうする? もうちょっと考えろ」
俺は最後の警告をする。
まあ、ここまで言って止まるわけないが。
俺もその部類に入るしな。
「よくも……そこまで!! 絶対にあなたを倒すわ!!」
案の定、柊は引き下がるわけなかった。
こいつ、本当に分かってないな。
「分かった。そこまで言うのなら、受けてやる」
ここまで言われてしまえば、断る理由なんてない。
俺は試合を引き受ける。
「いきなり、これか……。詳しい説明は……まあ、いい。模擬戦をする場所は用意しておく。とりあえず、もう昼休みが終わるから戻れ」
「なっなっ何だって!! 先輩、俺の昼食どうなるんですか!?」
俺は瀬那先輩に抗議をする。
「知るか、そんなもの」
だが、あっさりと受け流される。
そんな……。
すると、昼休み終了のチャイムが鳴る。
「必ずあなたに勝ってみせるわ!!」
そう言い残し、柊は去っていく。
「じゃあ、あたしもこれで戻る……」
瀬那先輩も部屋を出て行く。
ぐうぅぅ~……。
取り残された俺に鳴り響いたのは空腹という名の腹の鐘だった。
はぁ……。
今日は本当についてないな。
俺は心の中でそう呟きながら、部屋を出た。