第八話『思惑の中で』2
早朝。私――柊成実はいつものようにどの生徒よりも早く学園に登校していた。
早くに学園へ来ているのはもちろん自分を強くするためだ。これは私の日課になりつつある。
「よし、今日も誰もいないわね……」
私の他に生徒がいない事を確認し、学園の門の中へと入っていく。
中に入ると、いつものように食材の仕込みをしている蒼さんがいた。
「おはようございます、蒼さん」
「おはよう、今日も早いね」
こうして蒼さんと挨拶を交わすのも当たり前になってきた。
いつもなら、挨拶を軽くしてすぐに訓練場に移動するのだが、今日は私の事を蒼さんはじっくりと見ている。
私をじっくりと見た後、蒼さんは嬉しそうに頷いた。
「どうかしましたか?」
「いや、最近柊ちゃん楽しそうだなと思ってさ」
私が楽しそう……?
表情に出ているのだろうか。自分では全然気付かなかった。
まあ、確かにあいつと出会ってから色々と変わったけど。
人が気にする程変化していたとは思っていなかった。
「そうですかね? 私はいつも通りだと思いますけど……」
「いやいや。前は何か柊ちゃん、少し怖かったよ。でも今は本当に楽しそうで可愛いよ」
「そっそっそうですか……!?」
蒼さんとはいえ、自分が可愛いと言われるのは初めてだ。
今まで可愛げが無いと言われてきた。私は戦闘にはそういうのは必要がないと思っていたので、まったく気にしなかった。
少し普通の少女になれたのかな……?
私は心の中で考えた。
蒼さんは私がそんな事を考えていると少しにやける。
「はは~んさては、好きな人でも出来たのかな?」
「すっすっすっ好きな人!? ちっちっ違いますよ!! そんな顔で見ないでください、本当ですから……」
私はとんでもない事を蒼さんに言われ、顔を真っ赤に染めてしまう。
そんな好きな人なんて……絶対ないわよ…………絶対よね?
自分でもよく分からなくなってくる。
「またまた、そんな事言って~。本当はいるんじゃないの? 例えば、司君とか?」
「…………!!!! あっあっありませんよ、あんな奴が好きになるわけないじゃないですか!!」
というか、どうして蒼さんがあいつの事を知ってるのよ。
私はもう沸騰寸前だった。何で……あいつの事なんか……考えてるのよ、私。
落ち着きなさい、落ち着こう私。
私は深呼吸をして落ち着こうとする。
「私はそんなんじゃ……」
「なるほど。柊ちゃん、あなたはツンデレね?」
「ぜっぜっ絶対違いますからね!!!!」
もう、私もこんなにどうして取り乱してんのよ。
朝から凄い調子が狂うわ。
蒼さんは私の事をからかってとても楽しそうだし……勘弁して。
「じゃあ、私はもう行きますから!!」
私は自分の鞄を背負い直し、今日の訓練場所へと走っていく。
「もう、素直じゃないんだから……」
走り際に蒼さんのそんな言葉が聞こえたが、私は何とか無視した。
あいつの事なんか……全然気にしてないんだから……!!
× × ×
今日の訓練場所である第一訓練場に着くと、私は訓練の準備をした。
ここはあいつと初めて会って、そして負けた所。しかも一瞬で。
今でもその時の事は鮮明に覚えている。
そしてそこから私の真の訓練が始まった。あいつには感謝している。けど、別に恋愛対象だとは思ってない……思ってないはず。
とにかく、今は目標がしっかりと出来た。私はそこに向かうだけだ。
あいつの言葉を思い出す。
「確か、柔軟に物事を考えろ……常識にとらわれるな……だったわね」
言われるまで気付かなかった私の弱点であり私が最弱の理由。
これを直すために今日もしっかりと訓練するつもりだ。
私は軽く体慣らしをした後、細剣を構える。
「さて、そろそろ始めるか」
そう呟き、戦闘兵を出現させる。
『訓練用戦闘プログラムを発動します』
そんなアナウンスが流れ、戦闘兵が動き始める。
今回は戦闘兵にも戦う意思が入っている。
つまり模擬戦が出来るのだ。
最近取り入れられたプログラムで、とても人気だ。まあ、朝は誰もいないから独り占め出来るけどね。
私自身もこういう訓練が必要だと思っていた。
数は二体。少ないかもしれないけど、これはあいつの指示だ。
私には戦闘兵は二体充分らしい。
今までは意思がない戦闘兵と戦っていたので、少し気を入れ直す。
戦闘兵は私の攻撃を今か今かと待っている。
「じゃあ、そろそろ行くわよ!!」
私はそう口にしながら、戦闘兵に攻撃を仕掛ける。
キュイイイインンン……!!
さすがは意思を持つ戦闘兵。そう簡単には攻撃を喰らわないか。
でも、面白い。二対一。
少し不利かもしれないけど、そんな事関係ない。
今の私なら勝てる。私はそう思った。
「はあぁぁぁぁ!!!!」
私は力いっぱい戦闘兵に攻撃をした。
しかし、
「なっ……!!」
一体で駄目なら二体でか……。
私の攻撃は二体の戦闘兵により塞がれる。
くっ……。一筋縄ではいかないわね。
でも、良い訓練にはなる。今までになかったものだ。
想像以上の成果が出そうだ。
私の攻撃を受け流すと、今度は戦闘兵が攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……!! なかなか……威力あるわね……」
戦闘兵とはいえ、実力は普通の人間以上だ。
並の人間なら勝つ事は難しそうね……。
でも、あいつなら…………って!! 私は訓練中にいったい何を考えてるの……?
私の一瞬の隙を戦闘兵は見逃さなかった。
「まっまずい!! まさか、技まで使えるの!?」
戦闘兵の持っている剣が光り出す。
あれは……間違いない!!
私は急いで防御態勢に入る。
そして、発動した。
――光速切り。
光の刃が私に飛んでくる。
だけど、何とか私は光の刃を弾き返した。
よし……。
「どう? 私だってやれば…………ってえっ?」
私が戦闘兵の技を防いで、気が緩んでいるともう一体の戦闘兵が技を放ってきた。
「ちょちょ!? 連続はなしだってば!! いやぁぁぁ!!」
私は二回目の技は弾ききれず、まともに喰らってしまった。
悲鳴を上げてしまって、自分でも情けない。
私は床に座り込んでしまった。
まさに油断大敵とはこのことね……。
その様子を見た戦闘兵は突如活動止め、消えていった。
『訓練用戦闘プログラムを終了します』
そして、ボロボロになった私を残して最後にそんなアナウンスが鳴った。
はぁ……。
「どうして、私はこんなに弱いんだろう……」
天井を見上げながら、私は呟いた。
追記
諸事情の為、一日置きたいと思います……。




