第八話『思惑の中で』1
俺は伊吹を家まで送った後、柊と別れ自分の家へと帰った。
さすがに、今日はやり過ぎたと少し反省している。
明日も瀬那先輩が来られないらしいし、訓練はどうするか。
次の団体戦までまだ一週間ちょっとある。前回よりは少し余裕がある。
なるべく、負担にならないようにしないとな……。
そうこうしている内に、家の前に着いた。
俺の家は貧乏でも裕福でもない普通の家だ。まあ、少し裕福に近いぐらいだ。
この町――神庭町の住宅街の端にある所だ。
俺はいつものように扉を開ける。
「あっ!! やっと帰って来た。遅いよ、お兄ちゃん」
玄関にいたのは俺の弟の涼風渚だ。
俺に比べて身長が低く、華奢な体付きをしている。それでいて、童顔だが、男だ。
俺の母親が渚のような感じで、つまり渚は母親似という事だ。ちなみに、俺は父親似であまり渚と似ていない。
なぜ、男の子になのに俺の事をお兄ちゃんなんて言うのは母親の影響だ。
今の立ち振る舞いも女の子のようだ。伊吹を見て、精神が大丈夫なのはこの為だ。
「悪い悪い、渚。今日は訓練が長引いちゃってさ」
まあ、最終的には片付けを七瀬に任せてしまったわけだが。
俺は靴を脱ぎながら、渚に謝る。
すると、ふと気になるものを見つける。
いつもより靴が多い気がする。
「今日、お父さんかお母さんが来ているのか?」
「うんうん、違うよ。何だかね、お兄ちゃんにどうしても話をしたいんだって」
「おい、まさか入れたのか?」
俺の質問に渚は嬉しそうに頷く。
俺と渚は二人でここに暮らしている。父親と母親は海外で働いている。
たまにここに帰って来るぐらいだ。つまり、ほとんど俺の家に訪問をしてくる者は中々いない。
寂しいという気持ちも分かるが、さすがに家に入れるのは止めてほしかった。
俺が困った表情をすると、渚は慌てた様子で説明した。
「だっだっ大丈夫だよ!! お兄ちゃんに用がある人は不審者じゃなかったよ。最初は入れようか迷ったけど……ずっと待っているものだから……ごめんなさい」
渚は昔の事を思い出し、泣きそうになっている。
昔から渚は騙されやすい性格で人を疑う事をしない。
だから、一度不審者を入れてしまった事がある。その時は俺やお父さんがいたからいいものの、もし一人でいたらどうなっていたか。
今でも冷や冷やする話だ。
でも、少し成長したらしい。今、自分がしている事をしっかりと反省している。
まあ、渚がこう言うんだし信じるか。
「別に気にするな。もし危険な人だったら、俺が守ってやる」
俺はそう言いながら、渚の頭を撫でる。
「うん、ありがとう」
「さて、中に入るか」
俺と渚はリビングへと向かった。
中に居たのは、意外とラフな格好をした男性だった。
だが、体付きを見て戦闘を幾度も経験しているように思える。俺は一応警戒する。
俺がそうしていると、その男は着けていたサングラスを外した。
「久しぶりだね、涼風司君」
「……暁教官!! お久しぶりです」
俺は警戒を解く。そして、安心する。
この人は大丈夫だ。渚を信じて良かった。
俺が挨拶をすると、ばつが悪そうに暁教官は頭を掻く。
「教官なんて止めてくれよ。君はもう私より強いんだぞ」
「いえいえ、俺なんてまだまだですよ。本気で戦ったらまだに教官には勝てません」
「謙遜か、まったく……」
「謙遜ではありませんよ」
俺がそう言うと、暁教官は笑った。
それを見た渚はほっとする。
「ほら、大丈夫だったでしょ」
「ああ、そうだな。まあ、知り合いだから」
「飲み物を用意しますね」
俺の話を聞いた渚は一言暁教官に言い、キッチンへと移動した。
「可愛い弟だな」
「はい、まったくです」
談笑しながら、俺と暁教官はリビングにある椅子に座る。
暁教官とは昔からお世話になっており、中学生時代はよく鍛えてもらっていた。
今でも色々と情報提供等で力を借りている。
「それで、話とは?」
「ああ、話したい事とはまず四月に君の学園で起きた事だ」
確か、荒井先輩が暴走した時の事だな。
俺は思い出しながら、暁教官の話を聞く。
「荒井先輩の事ですね」
「ああ、そうだ。その少年が何者かに神の薬を飲まされた事が今分かっている。まあ、恐らく犯人はあいつらしかいないだろうが……」
暁教官はそう口にしながら、難しそうな顔をしている。
あいつら……神の薬を作り出した組織。
その組織の名前は……。
「神の作り手ですね」
俺の言葉に暁教官は頷く。
神の作り手……。神人以上の力を得る為に日々実験と研究をしている組織だ。
表向きは最先端医療や最先端施設などの開発だが、本当は力だけの為に日々犠牲を払っている。
そして、俺はそいつらに監視されている。
「とはいえ、今回は小規模で済んだ。君には感謝しているよ」
「いや、事件に途中まで気付けなかったのは俺の失態です。感謝される事は何もしていません」
それに、俺はただ柊や伊吹たちみんなを助けたかったから行動しただけなのだ。
ほとんど個人的な理由で事件を終わらせたのだ。
そんな事で感謝されるのは、とても申し訳ない。
「君は個人的な理由で動いたから感謝されるつもりないと思っているだろうが、それでも学園を救った事には変わりない」
「まあ、それはそうですけど……」
たまに俺の思っている事が暁教官にばれてしまう事に驚きつつも、俺は冷静に答える。
確かに、暁教官の言う通りか……。
どんな理由であれ、救っているのだ。
別に間違いではない。
「とにかく感謝しているよ、私は。だが、ここからの話は君にしか出来ない事だ」
「俺にしか……ですか?」
「ああ。実は君の学園に一人、神の作り手の内通者がいるらしいのだ」
「内通者が……!!」
俺はその情報に驚きを隠せなかった。
内通者が俺の通っている学園にいるのか……?
くそっ……!! 何で俺は気付けなかったんだ。
「すいません、一切気付けませんでした」
「まあ、無理もない。何故なら、その人物は転校してきたばかりだからな」
「……!!」
確かに、転校生ならすぐに気付くのは無理があるな。
でも、今年は二人だ。
つまりその情報通りなら、七瀬かもう一人の転校生が内通者だという事になる。
そんな、穴が今回あったなんて……。
想像だにしていなかった。
「他に情報はありますか、教官?」
「すまない、司君。我々もそこまで優秀ではない。情報はそこまでしか入っていない」
「そうですか…………。ですが、貴重な情報をありがとうございます」
「よせ、当然の事をしただけだ。これからは口頭だけでなく、書類等でも情報を伝えよう」
「はい、ご協力ありがとうございます」
とりあえず、転校生二人を警戒しなければならないな。
まったく、俺の休息はまだ遠そうだな。
「さて、私は帰るとしよう」
そう言い、立ち上がり暁教官帰ろうとする。
だが、キッチンにいた渚が急いで暁教官を止める。
「待ってください。折角ですから、食べて行ってください」
「でも、それは」
「食べて行ってください」
天使のような笑顔を暁教官に向ける。
その笑顔を見て、黙って帰る者はいない。
「……うむ。分かった。食事もしていこう」
そう言い、暁教官は再び座っていた椅子に座る。
「じゃあ、すぐに作りますから待ってくださいね!!」
渚は嬉しそうに口にして、キッチンへと戻っていった。
俺と再び対面した暁教官は少し困った表情をした。
「意外と強引な弟だな……」
「はい、まったくです」




