第七話『問題児好きの少女』3
転校生実力披露会から少し時間が経ち、昼休み。
俺は昼食を終え、瀬那先輩にいる風紀委員室に向かった。
恐らく、朝の件だろう。事故だったとはいえ、俺が悪い事には変わりない。
諦めて瀬那先輩に怒られるしかない。
「さて、入るか……」
俺は風紀委員室をノックする。
「入っていいぞ」
瀬那先輩の許可が下りる。
じゃあ、入るか。俺は深呼吸をし、中へと入った。
中に入ると、相変わらず機嫌が悪そうな瀬那先輩が座っていた。
瀬那先輩に座っている場所には溢れんばかりの書類が置かれている。
本当に大変そうだ……。
「失礼します……」
「やっと来たか、遅いぞ」
「そうですか、結構早めに来たつもりですが……」
いつもよりは早めに心掛けたつもりだが、どうやら瀬那先輩にとっては遅いらしい。
瀬那先輩の視線が鋭くなる。
「貴様、これで何回目だ?」
「そうですね……十一回目ではないですか?」
前回の伊吹の分を含めば、これで十一回目になる。
もう、二桁更新ですか……。我ながら、恥ずかしい事だ。
俺の返答に瀬那先輩は頷く。
「貴様はついに二桁か……」
「いいじゃないですか。十一なんてゾロ目じゃないですか」
バンッ。俺の首元近くを銃弾が通る。
扉のある部分に穴が開く。
瀬那先輩は今にも爆発しそうだ。
「貴様、死ぬ覚悟は出来たか?」
「ちょっちょっ勘弁してください……いや、本当に銃を向けないでください…………!!」
「はぁ……まあ、いい」
瀬那先輩はため息を吐き、肩に掛けていた銃を下した。
あれ? いつもなら、ここで俺は銃で撃たれるはずなのに……。
転校生の件で疲れているのだろうか。それなら、俺は幸運だったな。
俺はそっと胸を撫で下ろす。
「どうしたんですか? 先輩らしく……いえ、ありがたいです」
再び銃を向けられ、言葉を訂正する。
見た様子だと、本当に疲れているようだ。
「朝の件はもういい。それより、他の件で司を呼んだ」
「他の件で、ですか?」
俺の質問に瀬那先輩は首を縦に振る。
いったい俺に他の件とは何だろうか。
今日の朝以外、問題は起こしていないので特に見覚えがない。
「司に話がある人がいる」
「えっ? 俺にですか?」
「そうだ。今、私の風紀委員長室に待たせている」
どうやら、先客のようだ。
俺に話がある人か……。恐らく、柊あたりだろうな。
「隣の部屋にいるから、入るぞ」
「あっ、はい」
俺は言われるままに、瀬那先輩と一緒に隣の部屋へと移動する。
どうせ柊とかだろう……と思っていたが、いたのは予想外な人物だった。
「七瀬、連れてきたぞ」
「はい、ありがとうございます」
「おっおっお前は……」
俺の目の前に立っているのは、金色の髪に三つ編みの少女だった。
まさか、転校生実力披露会の時の……。
俺を見て、その少女は笑顔で答える。
「初めまして、司君。私は転校生の七瀬唄です。ずっとあなたみたいな人を探していました」
「探していたって俺をか……?」
「はい、だって……」
すると、七瀬は顔を染めて楽しそうに答える。
「私、問題児が好きなんです!!」
「……はぁ?」
正直、今何を言ったのか俺には理解出来なかった。
別に聞いていなかったわけではない、言葉自体がおかしいのだ。
俺の少し引き気味の表情を見ると、問題児について七瀬が訴えかけてくる。
「どんなルールがあっても、それに縛られず生きているなんてかっこいいじゃないですか!!」
「お前……何、言ってるんだ? それに、俺は問題児じゃない」
「またまた御冗談を……転校生実力披露会で司君はVIPルームを独断で使ってたじゃないですか~」
カチャ。俺の背後に銃が向けられる。
「貴様、それは本当か?」
「いやいや、誤解ですって!! 俺の友達にお金持ちがいて、そいつが招待してくれたんですよ……だから、本当ですから!!」
また、撃たれる。
七瀬の奴なんて事言うんだ。
俺の命が持たんないから、本当に止めてほしい。
「というと……つまり、司君はその友達を脅したんですね」
「いや、全然違うから!!!!」
「ごめんなさい、冗談ですよ」
「冗談になってないからな、それ」
俺の必死さのおかげで、瀬那先輩の銃が下ろされる。
俺は再び安心する。
それにしても、こいつはいったい何なんだ。
「瀬那先輩、この人何なんですか? 問題児好きなんて、あり得ないですよ……」
「私に聞くな。私にも七瀬の考えている事がよく分からん」
分かっていないのに、瀬那先輩は俺を紹介したのか。
まったく、勘弁してほしい。
「やっぱり、司は最高の問題児です!!」
「だから、どういう事だ!?」
七瀬が俺の傍に近付いてくる。
近い近い……。その強調している胸のせいで、理性が保つの大変なんですけど。
俺は何とか七瀬を離そうとする。
だが、七瀬は離れようとしない。
何なんだ、こいつ。本当に困るな。
「七瀬、いったい俺に何の用だよ? まさか、俺に問題児好きだという事を言いたかっただけじゃないだろうな?」
「半分はそうですが……もう半分は違いますよ」
半分はそうなのかよ。
七瀬はとても珍しい女子のようだ。問題児が好きなんて、前代未聞だ。
聞いた事がある奴は是非教えてほしいものだ。
「司君、一生のお願いです。どうか……」
「おい、付き合ってくれとか勘弁してくれよ……」
「もう、そこまでいいんですか!?」
「いや、良くないし駄目だ。じゃあ、いったい何だ?」
七瀬と話していると、何か調子狂うな。
「私はあなたのチームに入れて下さい!!」
「へっ?」
予想外の返答に俺は間抜けな返答してしまう。
帰って来たのは意外としっかりとしたものだった。
どうするか……。性格はともかく実力はピカイチだ。それに、銃使いだ。俺のチームにはいないタイプだ。
「どうですか? 駄目ですか」
そんな目を潤して、言われてもな……。
瀬那先輩に一応視線を送る。
「別に、構わんぞ。勝手にしろ」
なら、いいか。
俺は決心し、返答する。
「いいぜ。これから、よろしくな七瀬」
「はい、司君!! …………私、嬉しいです……」
「そんな泣く事か……?」
俺の返答を聞き、七瀬は嬉し涙を流す。
こういうタイプは精神的に疲れるな。
なるべくなら勘弁してほしいが、まあしょうがない。
強くなるためだ。この際、気にしてられない。
「はい。私、嬉しくて嬉しくて……」
「分かったから、これで涙拭け」
俺は近くにあったティッシュを七瀬に渡す。
すると、すぐに笑顔になる。
こいつ、あざといな。
俺はそう思った。
「では、そうと決まれば訓練しましょうよ。今日からお願いしますね」
「えっ。今日からはさすがに……」
せめて一日ぐらいは置きたい。
俺の気持ちの整理も兼ねて。
だが、それは叶わないらしい。
「どうしても……駄目ですか?」
くっ。本当に何なんだ。
そんな涙目されたら、断れないだろうが。男子の気持ちを弄びやがって。
やっぱりあざといな。
「分かった分かったよ!! 今日から訓練しよう!!」
「はい、喜んで!!」
また、すぐに笑顔を向ける。
俺は精神的に疲れてしまう。
はぁ……。参ったな、七瀬には。
「まあ、司。頑張れ」
「そんな無責任な……」
瀬那先輩はほとんど俺に放り投げるかのように応援してくる。
本当に俺はついてない。
まさか、あの銃の凄腕がこんな性格だったなんて……。おかげで、驚きまくりだ。
だが、七瀬が何の為に近づいて来たのか、本当の理由を知るのはだいぶ時が経った後だった。




