第一話『最強と最弱』3
現在、俺は風紀委員室にて、高校生には見えない女の子に睨まれている。それも、右肩に銃を背負いながら。
まあ、そんな女の子は一人しかいないのだが……。
「司、貴様これで何度目だ?」
「はて、何度目でしょうか?」
バンッ。
瀬那先輩の撃った弾が俺の顔を横切る。もちろん、その銃弾はおもちゃではなく本物である。
まあ、もし当たったら死ぬだろう。
怖いです、瀬那先輩。
「これで、9度目だ」
「次で二桁更新ですか!!」
「真面目に人の話を聞け!!」
先ほどよりも表情が怖いので、もう止める事にしよう。
次は本当にやりそうだ。
「すいません。今回は悪ふざけが過ぎました」
俺は潔く謝る。
「はぁ~……。まったく、司はただの問題児じゃないから困る」
すると、ため息交じりに瀬那先輩は話す。
さすが、幼馴染だけあって理解するのが早い。
とはいえ、瀬那先輩までに問題児扱いされるのは少し心外だが。
「問題児って……。実質、高校の私有物を壊したのは今回だけですが?」
俺が今まで壊しそうになった物は全て修復され、元通りになっている。
まあ、今回だけは、そうはならなかったが。
「そういう問題ではない。壊そうとした事が、問題なんだ」
「そう言われましても……」
確かに風紀委員は、今回のような事が起こらないのように、未然に防ぐのが仕事だ。
だが一種の事故であり、それを俺に咎められてもどうしようもないのだ。
「まあ、司の気持ちを分からないわけではない。だから、ほれ」
俺は瀬那先輩から一枚の紙を受け取る。
「これは……いったい?」
「見ての通りだ」
俺が受け取った紙には、瀬那先輩が俺の指導役に就いたという事が書かれていた。
えっ? 俺の指導役?
俺の中には様々な疑問が浮かんだ。
「それは、学園長の命令なんだ。司も私も逆らえない」
まるでやらされているような言い方だったが、瀬那先輩の表情を見てそれがよく分かった。
「なぜ、瀬那先輩が俺の指導役を?」
「それを、私に聞くな」
俺の質問に非常に困っているご様子なので、俺は質問を打ち切る。
それにしてもえらい急な話だな……。
「そうそう、私が指導するのは司一人じゃないぞ」
「へ?」
俺は瀬那先輩が言った言葉に驚き、聞き返す。
「だから、もう一人も私が指導するという事だ」
「それも、学園長の命令ですか?」
「いや、私の判断だ」
先輩の判断って……。
少し不安なのだが。
「俺と一緒に指導されるのは誰なんですか?」
俺は聞かずにはいられなかった。
すると、瀬那先輩が立ち上がり、
「それは、直接会った方が良いだろう」
「会うって今からですか?」
「もちろん、そうだ」
えっ。
俺、昼食食べてないんですけど……。
何とかごまかさなければ。
「実は、俺……この後用事がありまして……」
「嘘を吐け。いつも暇なくせに……」
くそっ。
さすがにこれぐらいじゃ無理か……。
「さあ、行くぞ」
そう言い、瀬那先輩は部屋を出て行こうとする。
まずい。どうにかして止めなければ……。
そうだ、こういう時は……。
「そんなせっかちだから、先輩はいつまでたっても幼児体型ままなんですよ……」
「貴様、今なんと?」
瀬那先輩の背中から殺気が漂ってくる。
これは本当にまずい。
俺はどうやら慌てて瀬那先輩の禁句を言ってしまったようだ。
瀬那先輩は昔から幼児体型を気にしている。
昔、小学3、4年時に俺に身長を抜かされて本気で泣いていたくらいだ。
それから、身長は伸びたもののそれでも大人のような体型ではない。
ここは、ごまかすしかない……!!
「だっだっだっ大丈夫ですよ、瀬那先輩!! 胸が小さくても、全然大丈夫ですよ」
俺はさらに言ってはいけない禁句を言ってしまう。
口は禍の元とはまさにこの事だな。
まあそんな悠長な事、言ってられないが。
「どうやら、死にたいようだな……」
先輩の表情がより一層、怖くなる。
「ちょっと待って!! 先輩、お気を確かに!!」
「黙れ!! 消えろ!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」
痛々しいので、閑話休題。
『部屋から異常が確認されました。修復開始します』
いつも通り、修復のアナウンスと共に風紀委員室が元に戻っていく。
ついてでに、俺も修復してくれよ……。
俺はボロボロになった制服を払いながら、そう思った。
「まさか、本当に撃つなんて……先輩は鬼ですか!?」
「黙れ、司。火炎弾に変えていただけ、ありがたいと思え」
いや、火炎弾でも死にそうになったですけど。
まあ、とりあえず機嫌が直って良かった。
次からは気を付けよう。
「まあ、いい。やっぱり司は問題があるな」
「えっ? 何がですが?」
カチャッ。
「貴様、もう一度死にたいか?」
「いえ。もう勘弁してください……」
「全く、女性にそういう事を聞くんじゃない。……私ってやっぱり幼児体型なんだ……」
「えっ? 何か言いました?」
最後がよく聞こえなかった。
そんな悲しそうにされてもな。
俺は別に幼児体型でも気にしないのだが。
べっべっ別にロリコンじゃないぞ。
「なっなっ何でもない!! とっとっとにかくだ!! 今から、移動するぞ。もし、逃げようとしたら死ぬと思え……」
「はい……」
結局、強制かよ。
「ほら、今度こそ行くぞ!!」
「はいはい。分かりましたよ」
俺は渋々、瀬那先輩と共に部屋を出た。
今日の昼休みはどうやら、食事にありつけないらしい。