第一話『最強と最弱』2
「……998、……999、……1000っと!!」
太陽が照り付ける学園一広い庭。
そんな所で俺――涼風司は練習用の剣を用いて、素振りをしていた。
「ふぅ~……。今日はこんなもんか」
俺は今日のノルマを達成すると、近くのベンチに腰を掛けた。
まだ、四月半ばというのに、暑さを感じ始めていた。
地球温暖化のせいなのか、現在の気温は当たり前のように、30度を超えている。
しばらくここにいたら、倒れてしまいそうだが、その心配はない。
この学園の庭は植物が異常な程多く、緑のカーテンとして役立っている。
それ以上に、ここには神人によって作り出された気温制御装置が設置されている。
形や仕組みは空気清浄機と同じようなものだが、人間や神人に適した気温にしてくれる優れ物だ。
人間や神人が暑いと感じれば涼しく、寒いと感じれば暖かくしてくれる。全く、便利なものだと改めて思う。
恐らくここに庭は、学園の中で一位や二位を争うほどのベストスポットだろう。
だが、そんな人気スポットに今、いるのは俺だけだ。
なぜかって? それは今、授業中だからだ。
そう、俺は三時間目の休憩時間にこっそりと教室を抜け出し、四時間目をサボっている。
別に授業が面倒くさいわけではない。
ただ、くだらないと思っただけだ。
人間は神人には追い付けないと分かっておきながら、今もなお必死に勉学に励んでいる。
今、俺たち――人間が座学として、学んでいるのは国語、数学などももちろん、戦闘についてが主だ。
しかも、それは神人が学習し終えている範囲だ。
神人は人間が扱う事が出来ない、魔法について学習している。
ここまで差が出ているのになぜ学園の者は人間が遅れているのにも関わらず、魔法などについて学習しようとしないのか。
学園の偉い人間でさえ、神人に負けているのだ。
だから、俺はくだらないと思う。
最初は真面目に受けていたが、戦闘については当たり前のように知っているようなことばかりであった。
他の教科は家でも学習出来る。だが、戦闘だけはここでしか出来ない。
このような考えを持って、俺は授業をサボり、訓練をしている。
まあ、そんな話を聞いて俺に共感してくれる奴はまずいないだろう。
おかげで、この学園の私有物を二度壊しただけで問題児と言われるようになってしまった。
確かに、俺も悪いが最近は修復技術もある。
別に壊しても大丈夫ではないか。
だが、他の人たちはそれを許そうとはしなかった。
今も教室から俺の事を睨んでいるかもしれない。
それに風紀委員長にも捕まるしな。
まあ、いいや。
俺が考えてもしょうがない事だ。
俺は深く考えるのを止め、ベンチから立ち上がった。
「さて、今日も仕上げに入るか……」
俺は練習用の剣を構え直す。
ちなみにこの剣は木で出来たものなので、危険はない。
とはいえ、力を出せないものでもない。
「…………」
俺は精神をこの剣に注いだ。
すると、剣が淡い黄色に光りだし、徐々に強くなっていく。
よし、今日もいけそうだな……。
俺はいつも通りに力が入っていることを確認し、少し安堵した。
さて、ここからだ……。
体の重心が傾かないようにしっかり姿勢を直す。
よし、これで……。
場所は……あそこの樹木でいいか。
「おりゃあぁぁあ!!!!」
俺は力の限り、声を込めながら樹木に力を放つ。
かまいたちのように切り出されたこの技、光速切りは神人にとっては初歩的なものだが、人間にとっては相当凄いものらしい。
放たれた光の刃は、曲がる事なく樹木に直撃する。
「よし!!」
俺は軽くガッツポーズをした。
樹木にもだいぶ傷を付けられるようになったな。
少しずつ上達しているのが、よく分かった。
『樹木に傷が発生。修復開始します――――』
樹木に付けられた傷は見る見るうちに消えていく。
先ほど言った通り、最近は傷が一つでもあれば修復する。
だから、実質上俺は何も壊していないのだ。
俺が自分の行いを正当化していると、学園のチャイムが鳴った。
昼休みか……。
「さて、戻りますか……」
俺は片付けを始め、庭から去ろうとしていた。
だが、その時――。
『エラー、樹木の傷が修復できません。エラー、修復できません……」
えっ?
どういう事だよ?
すると、先ほどまで修復出来ていた所に痛み始めていた。
まずいな……。
どうやら、俺は木の生命である――源を破ってしまったようだ。
最近は神人によって作られた源が色々な物に組み込まれている。
普段なら、それを壊す事はあり得ないのだが……。
今回は今まで以上に力を発揮してしまったようだ。
だが、喜んでいる場合ではない。
何とか、しなければ……。
しかし、対策を考える暇もなく……。
俺がターゲットとした巨大な樹木が倒れてきた。
「えっ? ちょっと待って!!!!」
ドンッ!!!!
潰されると思ったが、ぎりぎり避ける事が出来た。
だが、まずいなのはここからだ。
こんなに大きな音が鳴ってしまったら……。
俺は急いでその場から離れようとした。
だが、残念な事に。
カチャ。
俺に銃口が向けられる。
「事情を聞こうか」
こんな怖い声で、俺に銃口を向けてくるのは一人しかいない……。
「せっせっ瀬那先輩……」
「さあ、来てもらおうか!!」
「はい……」
俺は案の定、連れていかれてしまった。
はぁ~……。今日の俺はついてないな……。