第五話『決戦』5
凄い……あの優勝候補に勝つなんて……あり得ない……。
私――柊成実は心の中であいつの事を強く賞賛していた。
最初、会ったときはあいつの事を何とも思ってなかったのに……。
とても不思議な気分だ。言葉通り、あいつは強かった。
それを私は目の前で目撃した。
一戦目の勝利は嘘ではなく、現実なのだ。伊吹もあいつを信じて戦っていた。
そして、勝ち伊吹は大満足している。しかも負けた側も満足げな表情を浮かべている。
「どうだ? 司は強いだろう?」
「瀬那先輩!! いつの間に居たんですね……」
私が一人で感心していると、瀬那先輩が隣に居た。
どうやら荒井先輩から解放されたようだ。
「今さっき、来たところだ。それより、どうだ?」
再び瀬那先輩が同じ質問をする。
その答えをどうしても聞きたいらしい。
「そうですね。最初は信じられなかったですけど、今ではあいつが強い理由が分かった気がします」
「ふっふっ。分かってくれて嬉しいよ」
私の答えを聞くと、瀬那先輩は微笑ましい光景を見たかのように笑った。
瀬那先輩は昔からあいつの事を知っているのかもしれない。
今度、聞いてみようかな。
私は心の中でそう思いながら、あいつと伊吹が居る方向に視線を戻す。
「さて、次は私ですね」
「ああ、そうだな。頑張れよ」
いよいよ二戦目だ。私の試合だ。
今までの事を見返すチャンスでもある。
この試合はたとえ相手が優勝候補だからと言って負けるわけにいかない。
絶対に勝つんだから……。
「おお!! 司と伊吹、お疲れ」
「本当に疲れましたよ……」
「僕も疲れました……」
気付けば、あいつと伊吹が戻って来ていた。
二人ともお疲れのご様子だ。
さて、私は行かないとね。
私は闘技場の中へと歩き出す。
「柊、頑張れよ」
私があいつとすれ違う瞬間、あいつの声が聞こえた。
あいつが私の事を頑張れと?
ふっ。面白いわ、絶対勝ってやるわよ。
「うん、頑張るわ」
私はそうあいつに言葉を返した。
こうして、応援し合うのはこれが初めてかもしれない。
絶対勝つわ……司。
× × ×
闘技場の中に入るとやはり生徒の数は尋常じゃなかった。
こんなに注目されるのはこの学園では団体戦しかないだろう。しかも今日は最終日だしね。
でも、私はこんなぐらいで緊張しないけど。
私は審判員からペンダントを受け取る。
そして、私は目の前の相手――紫月葵へと視線を向ける。
いよいよ始まる、試合が。
相手の武器は銃か。私の細剣と相性が悪いかもしれない。
でも、負ける気はない。
「両者、武器を構えて下さい!!!!」
私と紫月は審判員の合図とともに武器を構える。
えっ? 二丁拳銃なの……?
まさか、そこまでの銃使いとは知らなかった。さすが、優勝候補だわ。
でも、面白いわ。
最弱の私がどこまで紫月を追い詰めれるか、楽しみだわ。
「両者始め!!!!」
審判員が高らかに合図すると、試合が開始される。
さあ、ここからが私の勝負よ……。
相手からは攻めてこないようね……。
「なら、こちらから行くわ!!」
先手必勝だわ、これなら……と思っていたがそんなに優勝候補は甘くなかった。
バンッッ!!!!
「くっ!!」
私の先制攻撃は見事なまでに正確な射撃で、崩れる。
私は細剣で何とか防いだ。
「…………」
紫月は何も喋らない。
それで、次に何をするつもりなのか予測出来ない。
とんでもない相手ね、まったく。
私は心の中で思った。
「なら、後ろから攻めればいいだけよ!!」
「……!! ……面白い……」
一瞬、そのような言葉が聞こえた。
そして、銃弾が私の視界に入る。
まずい、やられる……!!
なら、こうするしかない!!
「とりゃあぁぁぁ!!!!」
私はあいつの技、光速切りを発動する。
もちろん、普通ではない光速切りよ……!!
「……あなた、面白いわね……」
私の細剣から出た光の刃が分裂し、二弾の銃弾を粉々にした。
この技はあいつの技の応用だ。以前に、見せてもらってから必死で練習した。
おかげで今こうして放つ事が出来た。
それを見た紫月が初めて笑った。
紫月も私と戦うのが楽しそうだ。
なら、私はそれに答えるしかない。
「そう? なら、これもくらいなさい!!」
私は細剣から先ほどとは違う光の刃が放つ。
「……!? 先ほどとは刃が違う!!」
「そう、これが私の技――星光斬りよ!!」
放たれた光の刃は光の剣となり、紫月を攻撃する。
よし、これなら……。
「……でも……甘いね……」
その声と笑った表情には余裕があった。
高速で、銃弾を変え四弾の銃弾を撃つ。
それは、光弾なの?
嘘でしょ……。そんな銃弾まで所持しているなんて。
優勝候補はここまで強いの……。
私のような光系の技は光系の技とぶつかった時、打ち消される。
つまり、今の銃弾で私の技は塞がれる。
視線を前へ移すと、平然と立っている紫月がいた。
やはり打ち消された。
「……楽しかったよ……」
「くそっ……こんな所で!!」
再び紫月は高速で銃弾を入れ替え、そして私に撃つ。
火炎弾ね……。
広範囲に放たれ、炎の渦が生まれる。私は身動きが取れなくなる。
「ここまでなの……?」
私はここで終わりなの……。
いや、違う!!
こんな所で負けるわけにはいかない。
でも、どうしたら……。
『お前は常識とらわれ過ぎなんだよ……もう少し柔軟になれ』
はっ……!!
そうだ、私は常識が邪魔なんだ。
だったら、常識ではあり得ない事をして勝つ!!
私は辺りを見渡す。
「あれは……?」
僅かではあるが、あそこに隙間がある。
「ここよ!!!!」
私はその隙間に星光斬りを放つ。
紫月は恐らくここから奇襲を仕掛けてくるはず……!!
「くっ!!!! ……うそ……!?」
「よし、ビンゴね!!」
私の技がその隙間から侵入しようとしていた紫月に直撃する。
だが、優勝候補はまだ倒れない。
それもそうね。
だけど、ここからよ。
私は細剣を捨て、素手で紫月に突撃する。
「……武器がない!! ……そんな……捨て身で……!?」
紫月は予想外の攻撃に動揺している。
それも仕方が無い。今までで武器を捨てて、戦いを挑む人なんていないのだから。
まあ、私は神人だけど……。
私は動揺している隙を狙って、紫月の武器である銃を叩き落とす。
「おりゃぁぁぁぁ!!!!」
当たらなければ、ルール違反にならない。
私はぶつかるギリギリで攻撃を静止する。
その瞬間炎の渦が消える。
火炎弾の効果が切れたようだ。
目の前には銃を失った女子と素手で攻撃した女子がいる。
客である生徒達にはそう見えるだろう。
「終わりね……紫月。最弱だからって、舐めないでよね!!」
「…………凄い………!!」
私は紫月のペンダントを突き上げる。
そして、空に浮かぶペンダントを手にした。
「勝者、柊!!!!」
「うおおおおぉぉぉぉ!!!!」
審判員が試合終了の合図をし、それと同時に先ほどと同じような大きな歓声に包まれる。
やったわ、私。
ようやく勝てたわ、しかも優勝候補に。
「あっあっあの……?」
「うん? 何、紫月?」
気付けば、紫月が私の傍にいた。
どうやら何か言いたいようだ。
とても恥ずかしそうに私を見ている。
何だろう……?
「私と友達になってください!!」
「えっ?」
私の手を握り、紫月は頭を下げる。
私はいったい何が起こっているのか、よく分からなかった。
「あの……あんなに……大胆に攻撃する人……初めてで……惚れました!!」
「えっ? えぇぇぇぇ!!!!」
紫月の意図が全く理解出来なくなる。
どうして、そんなに顔を赤くしてるの……?
私にそういう趣味はないのに……。
まあ、友達ならいいか。というより、紫月は友達がいないのかしら……。
「よっよっよく分からないけど……友達ならいいわよ」
「本当に!! じゃあ……私の事……あっあっあっ葵って呼んで!!」
どうしたんだろう……本当に。
でも、喜んでいるみたいだし。
「よろしくね、葵」
「……葵……葵って呼んでくれた!!!! 嬉しい…………」
「ちょっと大丈夫!?」
葵は変に興奮して、倒れてしまった。
まるで、私が悪い事したみたいになってるじゃない。
今の瞬間、男子は嬉しそうだけど……。
私が、あいつの方を見るとあいつは苦笑いをしていた。
「こっこっこれが私の初勝利なの……?」
私は勝負には勝ったはずなのに、何か大事なものを失った気がする。って、私が悪いの、これ!?
初めての勝利は私にとって少し苦いものとなった。




