第五話『決戦』2
「はぁ~……。いよいよ今日か……」
俺は試合当日になり、そんな事を呟いていた。
「そうね。それより、なんでそんなに面倒くさそうにしているの?」
俺の反応に疑問を思ったのか、隣にいる柊が聞いてくる。
どうやら面倒くさそうに見えたらしい。
「いや、別にそういうわけではない。何となくそうなっているだけだ」
「それが、一番僕は心配だけどね……」
柊の隣にいる伊吹が苦笑いをしながら、言う。
俺のこんな風に思うのは、昨日の瀬那先輩の事や相手チームの事を考えているからだろう。
変に緊張しているわけでもなく、別に体の調子が悪いわけでもない。
なぜかは知らないが、嫌な予感がする。そんな思いが俺の中を駆け巡っていた。
「まあ、いいわ。とりあえず、私たちの試合も近いし早めに昼食を取るわよ」
柊はそう言い、食堂へと歩き出した。
細かい事を気にしない性格は案外悪くないかもな。
俺はそう思った。
「分かったよ、そうしよう」
適当に相槌を打ち、俺と伊吹は柊の後ろを歩く。
少し柊の対応で落ち着いた気がする。
エントリーは済ませたし、今は特にすることはないはずだ。
後は、試合を待つのみだな。
× × ×
「うわぁ……また凄い数ね……」
団体戦初日から食堂全料理半額は続いているせいか、今日も相変わらず混んでいた。
恐らく、今日まではこのままだろう。
まあ、半額だからしょうがない。
「えーと、開いている席は……っと」
客の数に驚きながら、柊は席を探している。
こういう時はあいつに頼むか。
「柊、ちょっとついて来い」
「えっ!? まあ……いいけど……」
俺は柊を引き留め、伊吹と一緒に例の場所へ移動することにした。
伊吹もそれは賛成してくれたらしく、頷いている。
よし、移動するか。とは言っても、すぐに着くが。
俺は食堂の奥にある別の部屋VIPルームの前へと移動した。
「ここって、VIPルームじゃない!? こんな所、入れるわけないじゃない……」
とても落胆したような声で柊は言った。
そうか、あいつがお金持ちという事を知らないのか。
それだったら、しょうがない。
「まあ、普通ならな」
残念ながら、俺にそういう事が可能な奴がいるからな。
俺は扉をノックする。
「お~い皐月いるか?」
俺は扉越しにいるかどうかを確認する。
今週は皐月が全て借りているって言っていた。
だから、恐らく居ると思うのだが……。
「ん? その声は、問題児!!」
「だから、俺を問題児扱いするな」
扉越しに聞こえてくる声にツッコミを入れる。
もちろん、その声は皐月だ。
「はいはい、隣には雫ちゃんと……えっと……」
皐月は扉の向こうから誰がいるか確認しているらしい。
そうか、皐月は柊とはまだ会った事がないんだったな。
柊が少し不満そうな顔をしている。
「伊吹にいるのは、俺と同じチームの柊だ」
「柊……うん、柊ちゃんね。いいよ、入って」
すると、鍵が開いた音がした。
俺は扉を開ける。
相変わらず豪華な部屋だな、ここ。
「凄いわね……VIPルームって」
「そりゃあ、そうだよ~なんせ闘技場がこんな近くで見れるんだから」
柊の反応に自慢するかのように、皐月は答える。
皐月は隣にいたウエイトレスに話し掛け、そのウエイトレスは注文を聞くと厨房の方に移動していった。
「初めまして、柊ちゃん。私は司と同じクラスの皐月美花だよ、よろしくね」
皐月は柊に笑顔で自己紹介をする。
柊もその笑顔で警戒心が解けたらしく、少し表情が軽くなる。
「こちらこそ、よろしく。私は柊成実よ」
「それで、司たちはどうしてここに? もしかして、恋の相談とか~」
「そんなわけあるか、アホ。席が混んでいたからここに来たんだよ」
「もう、分かってるよそんな事は。相変わらず冷たいんだから、司は。とにかく、みんな席に座って」
相変わらずの会話をしながら、俺たちは席に座る。
「さて、質問。柊ちゃん」
「何、いったい」
「司とはどういう関係ですか~」
こいつ、なんて事聞いてるんだ。
予想外の質問に柊は慌てている。
柊も慌てるなよ、まったく。
「べっべっ別にただのチームメイトよ。ただ、それだけよ」
「う~ん、そうか。少し残念」
「お前は何に期待してるんだ……」
「さあ、何でしょうね? それよりも、柊ちゃんもう少し近く見ていい?」
皐月が真面目な顔で柊にお願いする。
こいつ、何がしたいんだ。
俺には想像が付かなかった。
「えっ? いいけど、どうして?」
「まあ、ちょっとね……」
少し理由を誤魔化すように言うと、柊を頭から足までじっくりと見始める。
柊は困った表情をしながら、終わるのを待っている。
「おい、いつまで見てるんだよ」
「ごめんごめん。さて、メニューも来たみたいだし選んで」
「もしかして、奢ってくれるの?」
柊も一日目の俺たちのように申し訳なそうな顔をしている。
まあ、急に奢るよと言われても困るしな。
「私を誰だと思ってる? もちろん、奢りよ」
「そうなら、遠慮なく注文するわ」
その一言で、柊はメニューをどれにしようか悩み始めた。
意外とそういうのは気にしないタイプなのかもな。
まあ、いいや。
さて、俺はどうしようかな。
「俺、サンドイッチで」
「僕はこのホットドックとハンバーガーで」
「君たち、もうちょっと高いの頼みなよ……奢りなんだからさ」
皐月は呆れながら、そう言う。
この食堂はほとんど料理がある。
その中でもパン系の料理は本当に美味しい。
だから、俺はサンドイッチがいい。
伊吹も俺と同じような気持ちだろう。
「まあ、こちらとしても助かるからいいけど。柊ちゃん、あなたは何にした?」
「私は勝利セット」
「お前、またそれ頼むのかよ……」
相変わらずカツが好きなようだ。
「まさか、本当に頼むような人がいるとは~」
「まあ、こいつだからな」
「ちょっと、軽く馬鹿にしてるでしょ?」
「そうだな」
「少しは誤魔化しなさい!!」
なぜ、怒るんだよ。
俺は柊の攻撃を避ける。
「まあまあ、僕は悪くないと思うよ」
「そうよね、勝利の為にカツを食べるのは悪くないわよね!!」
伊吹がフォローをすると、すぐに機嫌を直す。
「ほらほら、そんな事はいいから。話を聞かせてよ」
「ん? 何をだ?」
「ふっふっ……。それは色々に決まっているじゃない~」
何かを企んだ顔で皐月は答える。
嫌な予感しかしないのだが。
もしかして、嫌な予感ってこれの事かよ。
俺は心配して損した気分になる。
「まあ、別に話してもいい」
俺はそう答える。と言うか、そう答えるしかない。
こっちは奢ってもらってる側だしな。少しぐらいは付き合ってやろう。
「よし、じゃあ何から話してもらおうかな~」
「あんまり期待するなよ」
俺達は皐月に交代で色々と話をした。
何も嫌な事はなかったので、ほっとした。
だが、俺の嫌な予感はのちに本当に的中することになる。
それを今の俺が知る由もなかった。
次くらいでいよいよ決戦です……。




