第五話『決戦』1
団体戦四日目。いよいよ俺たちの試合まで残り一日となった。
今日は、戦うメンバーの確認と作戦の為、柊の部屋へと集合していた。
ちなみに、今日は珍しく瀬那先輩も来ている。
「はぁ~……。ずっと仕事というのは疲れるな……まったく」
瀬那先輩は愚痴程度に呟く。
確かに、表情から大変さがよく伝わってくるしな。
「お疲れ様です、瀬那先輩。それにしても、よく抜け出せましたね」
「人聞きの悪い事を言うな。ちょっと後輩を脅し…………お願いしたら許可してくれたんだよ」
「もっといけない事をしてますよ……」
恐らく、俺のみたいに拳銃を向けられたのだろう。
瀬那先輩の後輩さん、可哀想に……。
とはいえ、瀬那先輩にはどうしても今日は来てほしかったので、抜け出せて良かったと思う。
「そんな話はいいだろう。それより、話と言うのは何だ?」
「俺たちが、優勝候補と当たるのは知ってますよね? その件で少し話があります」
俺がその件を話そうとすると、瀬那先輩が苦虫を噛み潰したような顔をした。
幼馴染とはいえ、ここまで嫌そうな顔をしている瀬那先輩は初めて見た。
「瀬那先輩、どうかしましたか?」
「すまん、昔ちょっとな」
そう言い、渡しておいた紙を差し出し、とある人物を指さした。
荒井崇人……確か、瀬那先輩と同じ高校二年生で同じくチームの指導役と務めている人だったか。
その荒井先輩と昔何かあったらしい。まあ、深追いはしないでおこう。
「話を続けますけど、とりあえず一戦目は俺と伊吹のペアで行きます。これで、いいですか? いいよな、伊吹?」
柊と共に話を聞いていた伊吹にも一応許可を取っておく。
伊吹は頷いているようだ。瀬那先輩も先ほどの紙を確認して、頷く。
「それで、二戦目は柊という事か?」
「はい、そうです。構わないよな、柊?」
「ええ、いいわ」
無事、柊も了承してくれた。
ある程度は柊も俺の事を信頼してくれるようになったな。
「とまあ、対戦順番はこんな感じです」
俺は説明を終える。
だが、瀬那先輩は気になる事があるらしく微妙な表情をしている。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「はい、何ですか?」
「司、どうしてお前が一人で戦わないんだ?」
瀬那先輩にはそれが引っ掛かってたらしい。
まあ、俺は普通一人でこういうのは戦ってきたからな。昔から俺の事を知っている瀬那先輩が疑問を持つのも無理ないか。
とはいえ、引く気はないが。
「今回はこれで、勝てるからです」
俺は即答する。
それを聞いた瀬那先輩は驚いた素振りを見せる。
「言っておくが、相手は強いぞ? 本当に勝てるのか?」
「はい、勝てます」
瀬那先輩は相手を知っているからか、やけにいつもより心配しているご様子だ。
でも、俺は諦めない。
柊が一人でいいんだ。そうではないと、柊が強くなれない。
「そうか……。そこまで、言うのならもう何も言わない」
「ありがとうございます、瀬那先輩」
俺は礼を言う。柊や伊吹も一礼する。
すると、瀬那先輩がばつが悪そうに頭を掻いている。
「よっよっよしてくれ。私はそういうのは苦手なんだ」
恥ずかしそうにそう答える。
「それにしても、順調そうでほっとしたよ」
「そうですね、問題児にもいい奴がいるという事がよく分かりました」
「急に話し出したと思えば、俺の悪口かよ……」
「でも、司は問題児だよ」
「伊吹までそう言うか……ひどすぎる……」
俺の事を信じているんじゃないのかよ……。
少しショックしつつある。
まあ、でも明るい雰囲気なので気にしないでおこう。
「良い奴らじゃないか。良かったな、司」
人をからかうような顔で言われても全然嬉しくないです。勘弁してください、もう。
俺たちがそんな他愛ない話をしていると、突如ドアがノックされる。
「ちょっといいかな?」
扉から、少し大人びた男性の声が聞こえる。
俺たちに何か用か?
「はい、どう……」
「待って、入れるな!!」
柊が入室の許可をしようとすると、突如瀬那先輩が止めようとする。
どうしたんだ、瀬那先輩。
俺は不思議に思った。
「もしかして、真央ちゃん!!」
バンッ。
勢いよく扉が開かれる。そこに立っていたのは高身長で白衣を纏っている顔立ちも中々よい男子だった。
だが、今の表情ではあまりカッコいいとは言えないな。
「ひぃ、なぜここに来るんだ!!」
怖いもの知らずの瀬那先輩が珍しく怖がった素振りを見せている。
「それは、真央ちゃんに会うためさ」
「そんなクール顔で言うな!! 後、真央ちゃんは止めろ!!」
「うんうん。それでこそ、真央ちゃんだよね~。うん、最高」
そう言いながら、瀬那先輩に近付いてくる。
隣にいる柊はドン引きしている。伊吹も少し怖がっている。
「あの、瀬那先輩。その人はどなたですか?」
とりあえず、名前を尋ねる。
「ああ、そいつはな」
「どうも、荒井崇人です。真央ちゃんのこいび」
「変な事を言うな!!!!」
何かとんでもない事を言おうとした荒井先輩に、瀬那先輩は腹に全力のパンチを喰らわせた。
「ごふっ!!!!」
腹にパンチを喰らった荒井先輩は近くの壁にぶつかる。
この部屋、大丈夫か。もう本当に壊れそうだぞ。
「きっきっ貴様!! いったい何の用だ!!」
少し涙目になりながら、瀬那先輩は荒井先輩に問いただす。
そんなに嫌なのか、荒井先輩の事。
これは意外な弱点を知ってしまったな。
「ごめんごめん。少しお遊びが過ぎたね、本題に入ろう」
「最初からそうしろ!! まったく」
「真央ちゃん、次の試合僕が勝ったら付き合ってください」
「今なんて言った、貴様?」
恐らく何を言われたのか気付いているとは思うが、瀬那先輩は嘘だと思いたいのだろう。
だが、荒井先輩は本気のご様子だ。
すると、花束を出し、
「勝ったら付き合ってください!!」
「絶対に嫌だ!! 絶対にいやぁぁぁぁぁ!!!!」
今の状況に直面してほとんど悲鳴のような声を瀬那先輩は出してしまい、今にも泣き崩れそうだ。
このような一面が瀬那先輩にもあるんだな。
俺は遠目から瀬那先輩を見ながら、そう思った。
「司、助けてくれ……お願い……」
瀬那先輩は今にも泣きそうな顔をしながら、俺にお願いをしてきた。
さすがに助け船を出さなきゃ駄目か。
「荒井先輩、瀬那先輩が嫌がってるので止めてあげてください」
俺は荒井先輩を止める。
すると、俺を品定めするかのように荒井先輩は俺を見つめる。
「君は、真央ちゃんの恋人か?」
「そんなわけありませんよ。ただ、俺たちの指導役です」
俺は冷静にそう答える。
「と言うと、君たちが僕のチームの対戦相手か。ほう、それでこそ面白い」
「何が、面白いかは分かりませんが俺たちは負ける気はありませんよ」
「そうではないとな、恋人争奪戦は」
「何が、恋人争奪戦だ!!!! もういい加減にしてくれ!!!!」
「そういう所も真央ちゃんは可愛いな。まあ、ここで退散させてもらうね」
「早く行け!!!! もう、一生来るな!!!!」
瀬那先輩は無理やり荒井先輩を部屋から出そうとする。
「はいはい、出るよ。それじゃあ、次は会う時は恋人同士だね」
「絶対違うからな!!!!」
そう言い残し、荒井先輩は去って行った。
「優勝候補の指導役が、あんな人だったなんて……」
伊吹は今の出来事を見て、そう言う。
まあ、俺も驚きすぎてどうしたら良いか分からないくらいだ。
瀬那先輩は扉の前で、泣き崩れてしまった。
「瀬那先輩、大丈夫ですか?」
心配になった柊が瀬那先輩に駆け寄る。
すると、泣き顔がちらりとこちらに見えた。
涙を拭きながら、こちらを見ている。
一瞬キュンって来てしまった。これは心の中でとどめておこう。
俺が気持ちの整理をしていると、瀬那先輩が口を開く。
「……お前たち……明日の試合……絶対勝てよ……」
「「「はい……」」」
俺たちは瀬那先輩の必死のお願いにしっかりと答えた。
今日、俺たちは瀬那先輩の意外な一面を知ってしまい、瀬那先輩がとても可哀想だとみんなそろって思った。




