第四話『問題児と神人少女は勝利を目指す……』3
「あっ、やっと来た。遅いわよ、二人とも」
俺達が今日訓練する場所、第六訓練場に来ると、柊が近くに座りながら愚痴を言ってきた。
まあ、言われもしょうがないか。VIPルームで試合を見ていたわけだし。
「悪い悪い。それより、もう訓練していたのか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。ちょっと食べすぎちゃって……。あの、勝利セットを全部食べるのは辛かったわ……」
「本当に食べる人いたんだな……」
俺は呆れ気味でそう呟く。
まさか、本当に食べる人がいたなんて。しかもよりよって柊かよ。
「ねぇ、言ったでしょ? 案外、身近な人が食べてるって」
「おう、そうだな」
伊吹の不敵な笑みに少し驚きながら、俺は頷いた。
こういう時の伊吹も可愛い。
「ん? 二人とも、何話してるの?」
俺たちの様子を見て、おかしいと感じたのか柊が尋ねてくる。
まあ、話しても良い事だが時間の無駄なので適当に誤魔化しておこう。
俺は視線で伊吹に伝えた。
「うんうん、別に何でもないよ」
「本当に? 怪しいな~」
意外と食いついてくるな、こいつ。
俺も誤魔化すか。
「いや、本当に何でもないから。別に、柊を馬鹿にしていたわけじゃないからな? 馬鹿にしていたわけじゃないからな?」
「なぜ、二回言うの?」
「いや、別にあははは」
しまった、俺の悪い癖が。
俺は余計な事をよく言ってしまう。
それが、よりもよって今出てしまったようだ。
柊が少し不機嫌になる。
「まあ、いいわ。それより、今日はここで何をするの?」
ここで訓練しようと提案したのは他でもない俺だ。
この団体戦の期間中、瀬那先輩は団体戦の審判等で忙しい。
風紀委員長として、今も頑張っているだろう。
なので、結果的に俺が教える事になる。少し面倒だが。
今日、訓練する場所である第六訓練場は他の訓練場に比べて広い造りになっている。
訓練場によって造りが異なる為、訓練の内容によって場所を変える事が出来る。
ここは主に体力作りをしたい生徒達が利用する所だ。
体力は戦闘だけでなく、全てにおいて必要なものなので必然的に第六訓練場は人気訓練場になる。
いつもなら、使えないのだが今日は団体戦だ。
大抵の生徒は闘技場にいる。恐らく、俺たちみたいに訓練している生徒はほとんどいないだろう。
だから、今日は思う存分に使える。
柊が訓練内容を聞きたがっているので、さっさと話すとするか。
「今日の団体戦の試合を見ていたが、やっぱり体力は必要だと思ってな」
「ここで、体力作りと……はぁ~……」
当たり前のような訓練を聞かされ、柊は脱力しているようだ。
それと反対に伊吹はやる気満々だが。
柊は何回かここに来ているのだろう。
「そう脱力するなって……。ちゃんと考えているからさ」
「それで、何をやらされる気なの?」
「これだ」
俺は鞄に詰めていたお掃除ロボットを出す。
最近のお掃除ロボットは、折り畳み式なのでとても持ち運び便利だ。
しかも太陽光発電。まあ、全て神人のおかげだが。
「これってお掃除ロボットよね?」
「ああ、そうだ」
俺がそう言った瞬間、俺の首筋に剣先があった。
怖い怖い。目も怖いです、柊さん。
「ふざけてるの?」
「待て待て、人の話を聞け。頼むから、剣を下してくれ」
まったく、俺いつか殺されるぞ。
冷や汗を掻きぱなっしだ。
「ほら、最近のお掃除ロボットって高速で掃除してくれるだろう?」
「確か人間よりも二、三倍速いわね」
「そうだ、だから」
俺はある場所に飲み物をぶちまけた。
すると、
『ある場所が汚染されました。ただちに清掃を開始します』
お掃除ロボットはそうアナウンスし、すぐに清掃を開始した。
その時間、僅か三秒。
しかも前よりも綺麗にして。
「という事だ。俺が何をやらせたいか、分かったろ?」
「つまり、お掃除ロボットと一緒にここを掃除するという事?」
「ああ、そうだ。……だから、剣を向けるのを止めろ。まず、柊と伊吹はこれを持て」
そう言い、今の時代にはほとんど必要ないモップを渡す。
もちろん、俺の分もある。
さすがに、俺も体を動かしたい。
「今から、この場所全体を水で濡らす。それで、このお掃除ロボットと競争をしながら水拭きをしてもらう。いいな?」
「なるほど、これで体力と速さを向上させようとしたのね」
ようやく、柊は理解してくれたようだ。
伊吹も大丈夫のようだ。
それにしても一々説明しなければいけないのは骨が折れるな。
「よし、じゃあ始めるか。の前に全体を濡らさないとな」
結構時間掛かるな、これ。どうしようかな。
そう思っていると、
「それは私に任せて。私、神人だから」
そうか、こいつは神人なんだ。
神人は俺達人間が学習していない魔法を学習している。
なら、水の魔法もあるかもしれない。
「水の壁――ウォーターウォール!!」
そう言い放った、柊は地面に手を当てた。
すると、地面が水浸しなる。
うん、魔法便利だ。
これぞ、魔法だな。
「これで、いい?」
「ああ、充分だ」
俺はお掃除ロボットを作動させる。
今回はお掃除ロボットに水浸しも汚染状態に設定してある。
だから、
『ある場所が汚染されました。清掃を開始します』
そうアナウンスされ、お掃除ロボットは勢いよく清掃を開始する。
「よし、じゃあ行くぞ!!」
俺はそう言い、自分のモップを使いながら走り始めた。
「分かったわ。ってあなた速すぎるわよ!? 私も負けてられるか!!」
柊も走り始める。
「二人とも、速いよ~僕、こういうの苦手なのに~」
そう言いつつも、伊吹も走り始める。
よし、みんな走り始めたな。
さて、お掃除ロボットに勝てるかな。
× × ×
「はぁはぁ……無理よ、速すぎ。あなたとお掃除ロボット」
「みんな、速すぎるよ……司の意地悪」
二人とも、体力限界みたいだな。
柊も伊吹も死にそうな顔をしている。
俺も正直疲れている。
途中、お掃除ロボットの速さを変えたのがまずかったか。
俺自身最初はいけると思っていたが、設定を変えたせいで死にそうだ。
まあ、その代わりとんでもないほど綺麗なったけどな。
恐らく潔癖症の人も大満足だろう。
もう、当分清掃必要ないな。
「悪い悪い。俺も少しやり過ぎた」
「でも、改めて私に足りないものが分かった気がする」
「うん、僕も」
どうやら、清掃したかいがあったみたいだ。
柊には、速さを極めてもらう事。伊吹には、速さに慣れてもらう事。
それが、俺の目的だ。
だから、つまり体力作りはおまけみたいなものだ。
俺の目的を、二人が理解しているかは分からないが、とりあえず、良かった良かった。
俺はそっと胸を撫で下ろす。
「それにしても、よくこんな意味が分からない事を思い付くよね」
「それは、俺が最強だからだ」
「相変わらず、それね……」
柊はまた呆れたように呟く。
毎回相手してくれるから、意外と柊も優しいかもしれないな。
「まあ、でも訓練場が綺麗になって良かったよ」
「そうね」
「そうだな」
伊吹の言葉に俺と柊は相槌を打つ。
それもそうだ。
今にも輝きそうなこの訓練場。お掃除ロボットでも驚くんじゃないか。
汚すのは何か言われると思うが、綺麗にするのは何も言わないだろう。
ある意味、良い事をした言える。
だから、何も問題はない。
「もうこんな時間か……」
気付けば、もう交代時間だ。
ちなみに、今日ここ使うのは俺達と次の人達だけである。
「それじゃあ、出ましょうか」
「そうだな」
「そうだね」
俺たちは片付けをして、訓練場を後にした。
この後来る、チームはこの訓練場を見てどう思うのか。
少し楽しみだ……。