第四話『問題児と神人少女は勝利を目指す……』2
「ふぅ~……。食った食った」
「僕、もうお腹いっぱいだよ~」
「君たち、奢りとはいえ食い過ぎだよ……」
呆れた表情で、皐月は俺と伊吹を見ながらそう言った。
確かに、食い過ぎた。激辛ラーメンの後にうどんに、そうめんに……って全部麺類じゃないか。
とにかく、伊吹も俺に真似て、様々な料理を食べた。
おかげで、すぐに激しい運動は無理そうだ。
タダ飯ほど怖いものはないという事を今分かった気がする。
「それで、聞きたい事って?」
「またまた、分かってるくせに~」
こいつ、俺達をからかうのが好きなのか。
まあ、聞きたい事は分かるが。
「チームの事だろう」
「ご名答。いやぁ~でも、まさか問題児と雫ちゃんがあの噂のチームメンバーだったなんて」
「僕は、一時的だけどね」
「とりあえず、チームについて教えてほしいの!!」
前かがみになりながら、軽く興奮状態で皐月は聞いてくる。
おう、近いな……。
「分かった分かった。とりあえず、近いから離れてくれ」
「意外と紳士ね……」
こいつ、俺に何を期待してるんだ。
まあ、いいや。
「実はな……」
俺は今日までの事を洗いざらい、話した。
「ふぅ~んなるほど。面白いですな~」
「それにしても、どうして司は僕に話してくれなかったの?」
俺が説明してる内に、伊吹の機嫌は悪くなっていた。
そして、今顔を膨らませながら俺に尋ねている。
そんなに怒る事ないと思うんだけどな……。
「悪い悪い。いつか話そうと思ってたんだけどな」
適当な理由を言って、何とか伊吹を宥める。
「そう、ならいいけどね!! 僕は、司の友達なんだから」
「さすが、問題児だね……こんな波乱万丈な事が最近あったなんて~」
「おい、話を大きくし過ぎだ。そこまでの事ではない」
確かに、波乱万丈と言えば、波乱万丈かもしれない。
瀬那先輩に銃で撃たれたり、チームを作らされたり、団体戦に参加させられたしな。
まあ、皐月の言ってる事も強ち間違っていないかもしれない。
「でも、どうして司がチームの埋め合わせになったんだろう?」
「確かに考えてみれば……そうだな」
今までその事については、触れていなかった。
なぜ、俺? なぜ、俺がこの事を?
まあ、いい。今はそんな事を気にしてる場合じゃない。
「その事は、俺は気にしてないから」
「本当に? なら、いいけどさ。う~ん、でもやっぱり気になるな」
意外と探究心旺盛なんだな。
俺は皐月の意外な一面を知った気がする。
面倒だな、誤魔化せないかな。
しょうがない、瀬那先輩の事も話すか。
「まあ、一つ挙げるとしたら俺と瀬那先輩が幼馴染だからかな」
「「ええぇぇぇぇ!?」」
「そんなに、驚かなくても……」
伊吹と皐月は驚きを隠せず、少しよろめいていた。
そんなに意外なのか、瀬那先輩と幼馴染だという事。
「まさか、司に幼馴染がいたなんて……」
「僕もより……親しい人が……」
「まあまあ、あくまで一例だから気にするなって」
ったく。伊吹はまた拗ねちゃうし、皐月は質問攻めをしようとしてるしな。
何とかしないとな。
そう思っていると、
『まもなく、団体戦一回戦一日目が始まります。観戦する方は、まもなく闘技場を閉めますのでお早めにお入りください』
ナイス、アナウンス。
まさか、二回もアナウンス助けられるとは。
アナウンスとは仲良くやっていけるかもしれない。
自分で言っていて少し虚しくなってきた。
「おやっ。もうすぐ団体戦が始まるみたいね」
「本当だ。急がないと……」
伊吹は立ち上がり、出て行こうとする。
今のうちに、俺も出るか。
俺も立ち上がる。
「二人とも……ここをどこだって思ってるの?」
やっぱり引き留められたか。
まあ、伊吹は本当に引き留められた理由が分かってないご様子だが。
「せめて、この試合だけは見て行ってよ」
時間的にも余裕があるし、いいか。
俺は視線で伊吹に合図し、伊吹も理解したようだ。
「悪いな、ここまでしてもらって」
俺は一応お礼の言葉を言っておく。
すると、皐月はにっこりと笑い、
「うんうん。別にいいよ。ほら、始まったみたいだよ」
そう言って、皐月は闘技場を指さす。
ここからは本当に良く見える。
さすが、VIPルームだな。
俺は改めて感心する。
闘技場を見ると、一回戦が始まったようだ。
どちらも剣を使って戦っている。
「どちらも、攻撃特化型だな。凄いな、火花が」
「そうだね、僕もあそこまで特化型を見たことがないよ」
とはいえ、一方のチームが疲れ始めている。
これは、時間の問題だな。
こういう時は、体力勝負だな。
俺たちの相手がこういうチームじゃないと良いけど。
「あっ。終わったみたいだね、試合」
「そうみたいだな……」
どうやら、試合が終わったようだ。
体力が切れたチームが押し切られ、負けたようだ。
あそこまで激しい戦い方をしていれば当たり前か。
「もういいか、皐月?」
俺は一応許可をもらう。
「うん、いいよ」
「じゃあ、またな。行くぞ、伊吹」
「うん」
俺と伊吹は立ち上がり、VIPルームを去ろうとする。
すると、皐月が少し悲しそうな表情を浮かべる。
「うん? どうした、皐月?」
「あっ……えっと……君たちの試合っていつかな?」
「団体戦一回戦最終日だ」
俺は淡々と答える。でも、わざわざ今聞く必要があったか。
別に明日の午前にでも聞けばいいだけだ。
どうやら、他に聞きたい事があるようだ。
皐月は困った表情をしている。
何だかまだ居てほしいと言ってるように感じる。
「何だよ? まだ、何かあるのか?」
「後は……うんうんやっぱり何でもないよ。頑張ってね、試合」
「ああ、頑張るよ」
俺は最後にそう言い、伊吹と共にVIPルームを後にした。
最後の皐月のあの悲しそうな表情は何だったんだろうか?
何か、俺に大事な事を伝えたかったんだろう。
まあ、いい。今度聞く事にして、今は気にしないことにする。
そう思いながら、俺たちは今日の訓練する場所に向かった。