第四話『問題児と神人少女は勝利を目指す……』1
『これで、午前の授業を終了します。午後からは団体戦一日目を行います。参加生徒は速やかに闘技場前に集合してください』
午前の終了のアナウンスと共に、団体戦についてアナウンスされる。
そうだ、今日から団体戦一回戦が始まる。本当は観戦しているだけにしたかったが、残念ながら今回は俺も一チームとして参加しなくてはならない。
「はぁ……何か疲れるな~」
俺は窓の空を見ながら、そう呟いていた。
「昨日もそんな事言ってなかった、司?」
俺の事を少し呆れながら、伊吹は俺にそう尋ねる。
こういう時の伊吹も可愛い。やはり天使だ。
「しょうがないだろう、事実なんだし」
「それはそうだけど……まあ、いいや。とりあえず、お昼どうするの?」
「ああ、そういえばもうこんな時間か」
最近警備が厳しくなったもんで、途中に抜け出す事が出来なくなった。
くそっ。あの時樹木が倒れなければ……こんな事には。
おかげで、体がなまってしまっている。
いい加減運動しないとな。団体戦もあるし。
「も~う司、ぼうっとし過ぎだってばぁ。もういい!! ちょっとついて来て!!」
すると、俺の手を握り、俺を引っ張りながら教室を出て行く。
何か変な視線を感じたけど、大丈夫だよな? ああ、大丈夫だ、多分。
伊吹の手、結構柔ら……いかんいかんこんな事を考えては……。
「なぁ、伊吹?」
「うん? 何、司?」
少し伊吹は拗ねているご様子だった。
俺、何か悪い事したか? 全く身に覚えがないんだが。
とりあえず、状況を説明しておくか。
「俺と手を繋いでもいいのか? ほら、他の人が変な目で見てるしさ」
「あっ!! ごっごっごめん、司!! べっべっ別に変な意味じゃないから!!」
だったら、そんな顔を真っ赤に染めるなよ。
まずい、このままでは俺が変な趣味に目覚めてしまう。何としても、理性を保たなければ……。
「それは分かってる。それで、俺をどこに連れていく気だ?」
「えっ? そんなの一つしかないでしょ?」
そんな有名な所あるか、この学園に?
う~ん。俺は少し考えてみたが、思い出せそうにないので諦めた。
「すまん。それはどこだ?」
「はぁ……。司って本当に訓練以外には興味ないんだね……。食堂だよ!! 食堂!!」
「まぁ、食べるところならそこしかないわけだし。興味以前の話じゃないか」
「もういい!! これ、見て!!」
怒り気味で、伊吹は一つのチラシを俺に渡す。
ふ~んどれどれ…………!! 全品半額だと……。
そんな事があり得るのか。
だが、伊吹の表情を見るとあながち嘘ではないようだ。
「分かった、司?」
「ああ、十分に理解した」
そういえば、団体戦の時期になると、食堂が騒がしくなるって瀬那先輩から聞いた事があったな。
そういう事だったのか、ようやく分かった気がする。
確かに、団体戦を控えている生徒にとって、食事は必要不可欠なものだ。
そこで、全品を半額にし、生徒に沢山食べてもらう……。
なるほどな。さすがは、商売上手な蒼さんだ。
料理も上手で、女子としては憧れなのだろうな。
「という事だから、急がないとまずいんだって!! 行くよ、司!!」
そう勢いよく、言い放ち伊吹は俺の手をまた強く握った。
「おっおっおい!! 変な目で見られるぞ」
「こっちの方が早いからいいの!! それに、僕にはそういう趣味はないから!!」
「いや、俺もないぞ!!」
俺は伊吹に無理やり、食堂に連れていかれた。
× × ×
「うわぁ~凄い人だな……」
俺は食堂に居る人達が、あまりに多すぎて驚いていた。
恐らく、神人もいるだろう。
それほど人気なんだな、ここ。
まあ、それもそうか。
確か食堂だけは、神人と人間がどちらも入る事の出来る場所だ。
この女神学園は神人と人間のフロアに分かれている。
西が俺達人間のフロアで、東が神人達のフロア。
外からは西は、弱者の集まり東は、強者の集まりと言われている。まったく、勝手に決めつけられて腹が立つな。
「司? どうしたの?」
俺が少し嫌な考え事をしていると、俺の事を見兼ねてか伊吹が心配した表情で俺を見ている。
「すまん、少しな。じゃあ、場所探すか……」
「そうだね……でも、この様子だと」
確かにな……。見た様子だと、座れる席はなさそうだな。
さて、どうしたものかな……。
俺と伊吹がどうしようかと考えていると、
「おやおや、問題児と雫ちゃんではありませんか~」
「うぇ、面倒な奴に会ってしまったな……」
皐月が相変わらず何かを企んでいる面持ちで、関わって来た。
「も~う相変わらず、冷たいな~。せっかく二人の為に席を取っておいたのに」
そう言うと、皐月はついてこいと言わんばかりに手をこまねく。
まあ、探していたしちょうどいいか。
俺と伊吹は拒否せずに、ついていった。
「ええぇぇぇ!!!! まさか、ここ!?」
とんでもないVIPルームに来てしまった伊吹は驚きを隠せない。
俺も驚いている。
皐月はそんな俺たちを見て、嬉しそうだ。
VIPルームの外には闘技場が見える。ここで、観戦が出来るのか……。
「おっおっお前、もしかしてお金持ちなのか?」
「うん。そうだよ」
「凄いんだな……」
「どう、惚れた?」
「惚れるか、アホ」
「ったく、相変わらずだね。まあ、いいや。とりあえず、座って座って」
俺と伊吹は渋々座らされた。
うん。椅子まで最高だ。
「好きな料理頼んでいいよ」
皐月はそう言いながら、俺たちにメニューを渡す。
「えっ? お代はいいの?」
「うん。奢りだよ」
伊吹は申し訳なそうに尋ねたが、奢りと言われ表情が笑顔になる。
う~ん。確かに奢りなら別にいいか。うん、最高だな。
「何か、悪いな」
「うんうん、別にいいよ。聞きたい事があったから」
そう答え、不敵な笑みを浮かべる。
こいつ、やっぱり何か企んでいるな。
まあ、それぐらいは付き合ってやろう。
「それで、食べるもの決まった?」
「うん!! 僕はこのチーズミートスパゲッティで」
「じゃあ、俺は超激辛ラーメンで」
「二人とも……。もっと高い料理、頼んでいいんだよ? しかも、どっちも麺類だし……」
いや、それはさすがに悪いからな。
なるべく安いのにしておく。
伊吹もそう感じているらしい。
「まぁ、いいや。じゃあ、これは?」
「勝利セット……食うかこんなもん」
カツ丼にカツカレーに……とにかくカツばっかりだ。
カツを食べて試合に勝つ!! いつの時代だよ、それ……。
俺は呆れながら、勝利セットを見た。
「だいだい、こんなもの誰が食べるかよ……」
「そうかな? 案外、身近な人が食べてるかも?」
「くっしゅん。あれ、誰か噂しているのかな?」
私――柊成実はメニューを選んでいる最中だ。
「う~ん。どれにしようかな」
なるべく、体力が付きそうなものがいいな。
どれがいいだろう……。
「柊ちゃん、後ろが混んできてるから早く」
蒼さんが呆れた表情で、私を見ながらそう言った。
後ろを振り返ると、今か今かと待ちわびている他の生徒達がいた。
まずい、早く決めないと。
私が順に目を追っていると、とある料理が目に付いた。
勝利セット……。
これだ!!
「すいません、勝利セット一つ!!」
私は高らかにそう注文した。