第三話『問題児の策略』5
「俺達のチームに入ってくれ」
「そっそっそれは、無理だよ!?」
俺の頼みを聞いた伊吹は、全力で手を振りながら、そう言う。
確かに、急に言われたら困るか……。
「いや、だって伊吹自分を頼ってと言ってたじゃないか」
「それは……」
今日の朝言ったことを伊吹は思い出し、困ったように返答する。
「まさか~あれは、嘘だったのか?」
「そういうわけではないよ!! でも、……」
「時と場合によるって事か?」
伊吹は渋々頷く。
まあ、無茶ではあるけど……。
「ねぇ、一つ聞いていいかしら?」
「うん? 別にいいぞ」
「どうして伊吹が必要なの?」
困った表情をしている伊吹に助け船を出すかのように、鶴川は俺に質問をする。
俺の隣にいる柊もそこは聞きたかったらしく、俺を真剣な眼差しで見ている。
仕方が無いな……話すとしよう。
「一つは俺の友達だからだ」
「でも、友達だからってそんな頼みは……」
「まあまあ、話を聞いてくれ。みんな、知ってると思うが俺と柊のチームは最近結成されたばかりだ。俺と柊の団体戦は最終日、つまり五日後だ」
「……なるほど、そういう事ね」
一つ目の理由は鶴川も共感しているようだ。
俺も淡々と話を続ける。
「午後からフリーだと言え、圧倒的に時間が足りない。それなのに、相手の事を知らない奴をチームに入れるか?」
「確かに……入れないと思うけど……」
俺は問いを伊吹に振った。
伊吹は少し戸惑いながら、答える。
「つまり、そういう事だ。時間がないのなら、それは相手の事を知っていて、相手も自分の事を理解してくれる人しかいない」
「それは、分かったけど……それでも、僕じゃ……無理だよ」
理由は理解してくれたが、伊吹には自信がないようだ。
まあ、もう一つ理由があるから、それで説得させるしかないか。
「確かに、伊吹には荷が重いかもしれないけど、それでも俺は伊吹に入ってほしい」
「そう言ってくれるのは、嬉しいけど……。それなら、尚更僕じゃ……」
「まあ、そう言うのはもう一つの理由を聞いてからにしろよ」
「もう一つの理由?」
俺の言葉に伊吹は驚いている。鶴川や柊も気になっているようだ。
俺は話を再開する。
「ああ。もう一つの理由は伊吹自身を強くする為だ」
「僕を強く?」
「そうだ。俺は伊吹を強くしてやる」
「ちょっと待って!! 私と伊吹は合ってないって言いたいの?」
鶴川が少し怒り気味で、俺に尋ねてくる。
どうやら、癇にさわったらしい。
「そう聞こえたなら、悪い。別に、鶴川と伊吹は合ってないわけじゃない。むしろ、良いチームと思うくらいだ」
これは、鶴川と伊吹のタッグ練習を見ての率直な感想だ。
悪くはない。
ただ、一つ気になっただけだ。
「なら、どうして?」
「まあ、それはだな……何となくだが、伊吹の技に頼ってる気がするからかな」
「伊吹の技に頼っている?」
「ああ。じゃあ、一つ聞くけど……タッグ練習の時は毎回伊吹はどうしている?」
「それは、技を高める為に息を合わせて、戦闘兵を倒しているわ」
「それだ」
「「「えっ?」」」
先ほどまで静かに俺の話を聞いていた柊でさえ、俺の言葉に疑問を持つ。
「だから、技を高める為の練習をしているんだろう? それだと伊吹にとっては意味をなしていないんだよ」
「僕にとって意味がない?」
「言い方が悪いかもしれないが、あのままでは人、いや神人までを殺してしまう殺人用の技になってしまうはずだ」
それを聞き、伊吹は顔を下に向ける。
悪い事言ってしまったな……。
俺は後悔する。
「でも、事実だ。その技を本来の為の技に戻す、それが伊吹を強くする理由だ」
「なるほど……理由がよく分かったわ」
「うん、僕も……」
どうやら、ようやく納得してくれたようだ。
これで、頼みは聞いてくれるだろう。
「まあ、今回だけ参加してくれればいいさ」
俺は最後にそう言う。
それを聞き、伊吹は決心したようだ。
「うん!! それなら、僕は入るよ!!」
俺に笑顔を向け、伊吹は答えた。
良かった~……。
俺は心の中でほっとする。
「私もそれなら、許可してもいいわ」
「ありがとうな、伊吹も鶴川も。感謝している」
「これで、話が付いたみたいね」
柊が久しぶりに口を開く。
「まあな」
「やばっ、もうこんな時間……!? 早く練習を再開させないと!!」
鶴川は訓練場の時計を見て、慌てた様子を見せる。
「悪いな、時間取ってしまって。じゃあ、俺と柊はこれで帰るから。伊吹、明日からよろしくな」
「うん!! 明日から頑張ろうね!!」
今の笑顔もとても輝いていた。
やはり可愛いな、伊吹。
「帰るぞ、柊」
「ええ」
俺と柊は第四訓練場を後にした。
「あなた、よくあんな事出来るよね……」
「うん? 何が?」
下校中、柊がそう呟いた。
何だよ、急に。
「何って、今日の人員補充についてよ。まさか、あそこまであなたが考えていたとは思ってなかったわ」
「ふっ。俺を誰だと思ってる? 俺は最強だからな」
「それが、あなたの口癖なのね……」
俺の理由を聞き、呆れながら柊はそう言った。
長かったような一日が終わり、明日から団体戦が始まる。
さて、これで第三話も終了です。いかがでしたか。次回からは、第四話。いよいよ一章の終盤に近づいてきました……。これからも、よろしくお願いします!!