第三話『問題児の策略』4
「ねぇ……どうしてここなの?」
第四訓練場の前で、柊は俺に尋ねる。
何やら、不満や疑問があるみたいだな。
「どうして、そりゃあ俺たちのチームに参加してもらうためだ」
俺は淡々と答える。
だが、まだ疑問があるらしい。柊の表情はまだ納得していない面持ちだ。
「もしかして、教室に行って、俺が頭を下げて人員を確保しようと思っていたのか?」
「だって、人を頼るんでしょ? だったら、こんな所にいるよりは……」
「アホか、お前。俺が人望あるように見えるか?」
俺がそう聞くと、すぐに柊は首を横に振る。
少しくらい否定して欲しかったが、まあしょうがない。事実だからな。
「ここには、俺の友達がいる」
「友達……そういう事ね……」
ただでさえ、時間がない。それなのに、全く知らない相手をチームに入れるのは無理がある。
なら、相手を知っている人をチームに入れたらいい。
それをようやく柊は理解してくれたようだ。
「でも、あなたの友達って強いの?」
そんな事を聞くのかよ。
正直俺ですら呆れてしまう。
「愚問だな。俺の友達が弱いわけないだろう?」
「まあ、そうよね……」
あの時の事を思い出し、柊は少し暗い声でそう言う。
「安心しろ、俺の友達は悪い奴じゃないから。凄く優しい人だよ」
俺は伊吹の良い所を思い出しながら呟いた。おまけに伊吹は可愛いしな。
「さて、中に入ろうぜ」
「そうね」
俺と柊は第四訓練場の中に入る。
俺たちが入ると、中はもちろん訓練をしている人達がいる。
「伊吹!! 後ろ、お願い!!」
「うん!! 鶴川さん、任せて!!」
どうやら、タッグでの練習のようだ。
戦闘兵は戦えるよう設定にしてあり、戦闘兵も二体だ。
とはいえ、相手を殺すような事はない。
ただ、ある程度動くようになっただけだ。
「伊吹!! 今よ!!」
「うん!!」
伊吹のペアである女子生徒が、伊吹に止めの合図をする。
それを聞き、伊吹は自分の武器である、槍衾を使い、そして戦闘兵に突撃する。
伊吹の突撃の速さは尋常ではない。
その突撃は戦闘兵の中央に直撃し、戦闘兵は倒れていく。
「何よ……あれ……。速すぎる……」
俺の隣で、柊はあまりの速さに驚きを隠せないでいる。
まあ、それもそうか。
恐らく、伊吹の今の動作は一秒を満たないだろう。
それぐらい早い。
疾風突き――――。
伊吹の得意技だ。疾風のように突き、弾丸のように貫く事からそう呼ばれているらしい。
この技は速さが重要視される。
今の動作がその基本と言える。
技だけなら、伊吹の方が俺より速いだろう。
だがこの技には……大きな欠点がある。
「ちょっと!! 伊吹、危ない!!」
「えっ!? うわぁぁぁ!!」
伊吹は技の勢いで、訓練場の壁に突っ込んでしまう。
訓練場の壁には大きな穴が開いていた。
この技は発動したのは良いのだが、その後をどうにかしなければ使い物にはならない。
下手すると、骨折等もあり得る。
『訓練場の壁で異常が発生しました。修復、開始します』
そのアナウンスで壁が修復される。
「伊吹!! 大丈夫?」
「えへへ……何とか」
どうやら、何事もなかったようだ。
その女子生徒は安心する。
「ねぇ、まさかあの技って……?」
どうやら、伊吹がやった技の欠点を理解したようだ。
柊が俺に尋ねてくる。
「そうだ。自分では速さを制御出来ない」
「そんなの……使い物にならないじゃない!?」
「おい、声が大きいぞ」
すると、伊吹とその女子生徒は俺たちの姿に気付いたらしい。
まあ、別に隠れてたわけじゃないけどな。
「やぁ、伊吹。相変わらず、速いなその技」
「えっ!? 見てたの、司?」
それを聞き、伊吹は少し恥ずかしがる。
うん。いつ見ても、天使だな。
俺は改めてそう思った。
「まあな。悪かったか?」
「うんうん、全然そんな事ないよ。むしろ、見てくれてありがとう」
伊吹は俺たちに可愛いらしい笑顔を向ける。和むな……伊吹は。
隣にいる柊も少し和んでいる。
恐らく、伊吹が男子だという事を分かってないだろう。
「ねぇ、伊吹? この人達は?」
伊吹の隣にいた女子生徒が、伊吹に尋ねる。
「えっと……この人は涼風司。昔から友達だよ。それで、この人は……」
俺の隣にいる柊を見て、伊吹は困った顔をする。
それもそうか。伊吹も初対面だしな。
俺は視線で自己紹介しろと、柊に伝えた。
「私は柊成実。神人で、こいつと同じチームよ」
「「えっ!?」」
その柊の言葉を聞き、伊吹とその女子生徒は驚いた表情を見せる。
「もしかして、司? 司と隣にいる柊さんがその今日、噂になっていたチームなの?」
「まぁ、そうなるな」
俺は渋々答える。
それはそうとして、そこまで、噂になっていたとは知らなかった。
「そういう事だったんだ……。道理で、司が動揺していて変だと思ったんだ」
「まあ、そうだな」
「あっ。ついでに言うと、俺が倒した神人はこいつだ」
「「えっ!?」」
再び驚く。
まあ、それもそうか。
俺がそう言った事で、少し柊は不機嫌になっている。
ここは我慢してくれと視線で謝っておく。
「あっ!! そういえば、僕が自己紹介してなかったね。僕は伊吹雫、司の友達だよ」
「あの、伊吹さんは女子ですか?」
どうやら、その疑問だけは柊は聞きたいようだ。
聞きたくなるのもしょうがないと思うが。
「やっぱりそう見えるんだね……僕はその……男子だよ」
「…………!!」
それを聞いて、柊は絶句していた。
俺も初めて会ったときはそんな感じだったかな。
その反応を見て、伊吹は顔を赤らめる。
その様子を見て、柊は伊吹に近付く。
こいつ、何してんだ?
「おい、柊?」
「ひゃあ!? なっなっ何?」
「そこまでにしろ。伊吹がもう……」
「そっそっそうね!!」
ようやく柊は我に返る。
こんな柊でさえ、見とれてしまうのだからやっぱり伊吹は天使なのだろう。
「とりあえず、私も自己紹介しておくね。私は鶴川亜里沙。あなたと同じ一年生で、このチームのリーダーよ。よろしくね」
「こちらこそ、よろしく」
俺は鶴川に挨拶を返す。
どうやら、相手は俺と同じ一年生みたいなのでほっとした。
「そういえば、あなたたちは私と伊吹に何か用?」
「あっ、忘れてた」
「ちょっと、忘れないでよ!!」
今の出来事で、すっかりここに来た理由を忘れていた。
ありがとうな、柊。
心の中でお礼を言っておく。
じゃあ、お願いしますか……。
「伊吹、お前に頼みがある」
「えっ? 僕に?」