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最強の問題児と最弱の神人少女  作者: 鈴夢 リン
第四章 決断編
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第二十一話『得られた答え』6

 現れた紳士服を着た男性によって、静寂に包まれる。

 さっきのあいつとは、また違う恐ろしさを感じる。顔はいかにも紳士っぽいけど。

「どうも、初めましてお二方。僕は、神の作り手ゴッドメーカー第六支部の葉月翼はづきつばさと申します。以後、お見知りおきを」

 帽子を脱ぎ、紳士的な態度で名を名乗った。いまだに、開かない目がそれをさらに醸し出している。

 えらい、好意的な様子だ。俺は、今までの落差で少し戸惑っている。

 まあ、落ち着こう。

「お前も、神の作り手ゴッドメーカーの手先か……」 

「手先とは失礼ですね。僕は一員ですよ、それも第六支部のリーダー。第四支部の七瀬がお世話になりました」

「ああ、とんだ面倒ごとに巻き込まれたけどな。あいつは、もうお前らの言う事は聞かないと思うぞ」

「もちろん、理解しております。第四支部は存在しないので、追及も何もしませんよ」

 解散するって言ってたしな。

 とりあえず、七瀬に危害が加わる事はもうないのか。安心する。

 さて、問題のこいつに話を戻す。

「お前の目的は何なんだ? 正直言ってお前らみたいな連中はもう勘弁してほしいくらいだ」

「随分と嫌われたものですね。目的ですか……そうですね、強いて言うならそこにいる彼女の為ですね」

 気を失っているあいつを見ながら、葉月は言う。

「どういう意味だよ、それ」

「僕は、ただ単に協力しているだけですよ。彼女がやりたいようにするのが、僕の目的ですね。とはいえ、――――」

 葉月が近付き、あいつを引っ張るように持ち上げる。

「今回は少々やり過ぎたようですがね」

 こいつ、人を何だと思っているんだ。怒りが沸く。

 だが、それをぶつけてはいけないだろう。今の俺では、絶対に無理だ。

 ただでさえ、身体的にも精神的にも良くない状況なのだ。ここは、引くべきだ。

 千草には、絶対触れさせてたまるか。

「おやおや、警戒していますね。安心してください、今日は手出ししませんから。あなたにとっても、それは好都合でしょう」

「…………」

「まったく、つれない人ですね。まあ、いいでしょう。少し機嫌がいいです。そうだ、良い事を教えて差し上げましょう」

 そう言って、葉月は一枚の紙を俺に渡した。

 目を通す。

 神王戦の支援団体について…………全て、神の作り手ゴッドメーカーだと!!

 どうして、こんなことになっているんだ。

「驚いてもらえましたか? 急きょ、他の支援団体が辞退しましてね。運営側が困っていたところ、僕達が救いの手を差し伸べたんですよ」

「お前、まさか他の団体を……?」

 いくら何でも都合が良すぎる。

 もう、既に手は打たれているということか。くそっ。

「はて、何のことでしょう? 僕は支援を申し出ただけですから」

 そうだよな、正直に話してくれるはずがない。

 どうするんだよ、これ。八方塞がりもいいところだぞ。

「いいですよ、その表情。僕のシナリオ通りですね。うん、実にいい。さあ、ここまで話したのです。意味はお分かり頂けますよね?」

「ああ、痛いほどにな。くそっ」

 これは俺だけで解決できる問題じゃない。

 それで動揺している俺を葉月は楽しんでいる。ペースが狂う奴だ。

「あなたなりの努力をして下さいね、そうでないと僕も楽しめませんから。あなたも神王戦に出るのでしょう?」

「どうして知ってるのか、気になるが、そうだ。お前の思い通りにさせないからな、狂人め」

「狂人とは……辛辣ですね。紳士ですよ、僕は」

「自分で紳士なんて言わないもんだぞ、エセ紳士さんよ」

 こいつ、面倒だ。

 さっきから、不気味に笑って。シナリオ通りか、舐められたものだ。

 とてもじゃないが、紳士には思えないな。

「ここまで会話が面白いのは初めてです。もしかしたら、気が合うのでは?」

「冗談言うなら、その性格だけにしてくれ。俺はお前みたいな奴は嫌いなんで」

「ほほう、やはり面白いですね。会って正解でした」

 こいつ、やばい奴だよな。

 変態紳士め、さっさと去ってほしい。だいぶ、冷静になってきたな。

 千草も少し落ち着いたんじゃないか。

「さて、お話しはここまでとしましょう。余興としては勿体無いくらいの時間でした。ではでは、本番は神王戦ということで」

「出来るなら、もう会いたくないけどな。今回は、俺も勘弁だ」

「でしょうね、今のあなたでは会話だけしか意味を為さないでしょう。賢明な判断ですよ、それでは」

 そう軽くお辞儀をして、あいつを軽々と持ちながら去っていった。

 あいつも利用されていただけの奴なのだろうか。分からない、俺には理解出来る話じゃない。

 同情はしない。ただ、一瞬千草を苦しめたとはいえ、哀れだと思った。



 × × ×



 俺達もここから出よう。人に見つかったら大変だ。

「……って、あれ血がない……?」

 あれだけ、あいつが暴れたというのに血の一つも残っていなかった。匂いもしない。何事も無かったように綺麗になっている。

 まさか、話している間に葉月が片づけたのか。とんでもない奴だ、やっぱり。

 とりあえず、俺達も怪しまれずに済む。

「千草、大丈夫か……?」

「…………スズ、ごめん」

 今まで黙っていた千草が呟いた。

「気にするな、千草。それよりも聞きたい事が沢山あるんだ。お前も元々俺と話す予定だったんだろう?」

 千草は頷く。

 きっと、千草は自分が異常だと言う事を自分の口から話すつもりだったのだろう。

 それが、思いもがけない事態で俺に知られてしまった。今だって、苦しいはずだ。

 だから、俺は少しでも前を向いてもらう為に必要な事をする。

「話がしたい。いいか?」

「…………構わない。ついて来て」

 良かった、承諾してくれた。

 これで、断られたら困っていた。

 千草は大丈夫と言い、立ち上がる。そして、歩き出そうとした瞬間。

「あっ……」

 倒れた。

「おい、千草!! 大丈夫か!!」

「…………大丈夫、少しよろめいただけ」

 冷や汗がやばい。

 もう、驚かすなよ。とりあえず、大丈夫そうだ。

「無理するな、まだ治ってないんだろう。俺の背中、貸してやるから乗れ」

「…………意外と大胆……?」

「恥ずかしくなるから、そういう事言わないでくれ……」

 俺を少し茶化しながら、千草は俺の背中に乗った。

 これが女子の……ってまずい。俺も変態紳士になる。

 気にしない気にしない。俺はそういうのに興味ないぞ。

「それで、どこに行くんだ?」

「…………千草の家」

「ち、千草の家!?」

「…………夜遅いし、当たり前」

 まあ、そりゃあそうだけど。

 俺にはレベル高いぞ。まあ、仕方がない。

 やってやる。千草の事を少しでも理解しないと。

 その為だったら、この困難も乗り切って見せる。ああ、俺マジヘタレ。

「道案内、よろしくな」

「…………任せて」

 俺達はそうしてこの場所から立ち去った。

 

 


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