表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の問題児と最弱の神人少女  作者: 鈴夢 リン
第四章 決断編
132/134

第二十一話『得られた答え』5

「どうして……だよ」

 目の前の事が信じられない。そう簡単に受け入れられない。

 今、起きている事は紛れもなく事実だ。

 だが、俺の脳はそれを理解しようとしない。肯定出来ない。肯定すれば、それは千草を化け物だと認めることになる。

 そんなの出来ない、夢であってほしい。

 千草の言葉をもう一度聞くまではそう願っていた。

「…………千草は化け物だから、何度でも生き――――ごふっ、がはっ!!」

 血を吐きながら、揺らぐ事のない事実を千草自身が証明した。

 やりようのない怒りが沸き上がる。

「そんな事は聞いてない!! どうして、俺を置いて……逃げなかったんだ!!」

 俺を犠牲にして、逃げれば千草は苦しまずに済んだはずだ。

 それなのに、千草は俺を助けた。俺は、千草に何も与えることも支えることも出来なかった最低な奴なのに。

 さっきまで、何も事情を知らなかった奴なのに。どうしてだよ。

「…………無事で…………ごほっ、…………良かっ――――」

「善人を気取らないくれる? この化け物が」

 安堵の表情をした瞬間、千草は無情にも槍で命を絶たれた。そして、人形のように動かなくなる。

 俺はただその瞬間を見ていた。自分には何も出来ないのだと改めて痛感させられる。

「あれ、どうしたの? 一般人を護って満足しちゃった? 死んだのね、また」

 ふざけるなよ、こんなの。

 だが、心が動いても体が動かない。無意識に敗北を認めている。

 俺は眺める事しか出来ない。

 そんな俺を軽蔑するように、あいつは視線を向けている。

「まったく、無駄なのよ…………全部」

 槍を千草から抜き、俺に向ける。

 殺されるのか、やっぱり。本当に情けない。

「…………」

「化け物ってさ、ただ誰かを苦しめるだけなのよ。あなたには、分かる?」

 先ほどとは違う落ち着いた声で、悲しそうな眼で俺に呟く。

 こいつ、ただ快楽の為に千草を殺したわけじゃない……?

 同情はしない。どんな理由があったとしても、殺人はしてはならない。ただ、違和感がある。

 誰かに命令されているのか……? 分からない。事情なんて理解出来るはずがない。

「お前は…………どうして千草を殺す?」

「それは、答えないわ。こんな化け物の話なんて」

「どうして千草をそこまで……」

「次、同じ質問したら今すぐ殺すから。もういい、あなたに何かを期待しても仕方がないわ」

 槍が迫る。

 後、何ミリかで首に届く。

「どちらにせよ、あなたは踏み込み過ぎた。ここで死ぬしかないの、分かったかしら?」

「そんなの、認めるか……せめて、千草を解放しろ……」

「どこまでもお人好しなのね、あなた。後で後悔するわよ」

「後悔……? 俺がどうして千草と一緒にいて、後悔するんだ」

 千草の事を今まで知ろうとはしなかった。千草の苦労を理解するのは無理だ。

 だけど、千草に会って後悔なんてしていない。後で、後悔することもない。

 それだけは絶対分かる。唯一の千草に対する優しさかもしれない。

「お前達の事情は知らないし、正直言って恐ろしいとも思った。だけど、後悔はしていない。これからも千草に対して後悔なんて抱かない」

「そう、恐怖しているのに逃げないのね。はっきり言って愚かね」

 まさか、こいつに愚かと言われるとは思ってなかった。

 まあ、確かにそうかもな。でも、関係ない。今はどうでもいい話だ。

「何度でも言うぞ、俺は後悔しない」

「無駄ね、まったく。化け物にも救いがあるのかしら。興醒めだけど、今度こそさよなら」

 再び迫る血に染まった槍。

 だが、それは再び俺には届かない。

 そこまで頑張る必要があるのかよ、千草……。

 情けない。また、千草が刺される瞬間をただ見届けていた。

 こんなのでいいのか、俺は……?

 葛藤が俺の中で起きるが、それは目の前にいるこいつの怒りによって消えた。

「しつこいしつこいしつこい、しつこいのよ!!!! いつまでそうやって私の邪魔をするの!!」

「…………スズか………ら、ごほっ。離れ……る、まで…………ごほっ!!」

 その言葉を聞いた瞬間、標的が変わる。

 もう、俺をそいつは見ていない。

 槍で千草を遠くまで放り投げる。そして、近付く何度も何度も千草を踏み続ける。

「黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れ!!!! 救世主にでもなったつもりかしら!! あなただって加害者でしょうが!! 目の前の男を救った所で何も変わらないの!!

 あなたと私は化け物なのよ!! さっさと、堕ちろ!!!! はあっ、はあっ、はあっ……」

「…………スズ、逃げて…………」

 自分の心配しろよ、バカか。

 あいつの悲痛な叫び。それに耐える千草。

 最後の最後まで俺は傍観者でしかなかった。勝手に思い上がっていた。

 口だけじゃないか、俺は。自分の愚かさに改めて気が付く。

 くそっ。無力だ。

 逃げればいいのか、俺は……? 千草の言う通りにすれば、俺は。それでいいのか。

 嫌だ。嫌に決まっている。

 ここで逃げたら、俺は俺を許さない。化け物だろうが、何だろうが関係ない。

 俺の大切な仲間は助ける。そう決めたはずだ。

 柊や七瀬の時のように、俺は千草を助ける……!!

「出来るかよ、この野郎!!」

 俺は、弾丸の如くあいつを弾き飛ばした。

 動く。今なら、いける!!

 千草の前に立つ。千草が苦しむくらいなら、俺が打ち消してやる。

「もう千草には指一本触れさせるか。俺が相手だ」

「……!! どうして、スズ……?」

「今は黙ってろ、千草。後で、色々と聞くからな。俺の後ろに居てくれ」

 力は上昇しているわけではない。

 ただ、あいつは動揺している。心の揺れが勝機を見出すかもしれない。

 命がけだ。でも、今はそれぐらいする。

 少しでも千草の味方になりたい。そう思った。

「あなたもあなたもあなたも、どうして!! 化け物なんかに味方するの!!」

 充血した目で俺を睨み付ける。

 だが、今更怯まない。千草が庇ってくれた分、今返すんだ。

「化け物なんかじゃない、千草は。俺の大切な仲間だ。お前の都合で、千草を苦しめるな」

「…………!! 黙れっ!!」

 一直線の攻撃。

 先ほどまでの速さなら俺は死んでいたかもしれない。

 今は違う。こんな鈍い攻撃でやられるわけないだろう!!

「はあっ!!」

「――っ!?」

 槍を弾く。懐ががら空きだ。

 その刹那を見逃さない。

「はっ!!」

 力を籠める。

 そして、そのまま懐を目掛けて振り払った。この振りスイングなら、勝つ!!

「がはっ!!」

 衝撃を受け止めきれず、そいつは吹き飛ぶ。壁に激突する。

 なかなか、きついぞ。

「はぁ、はぁ、…………」

 息が切れる。この一撃に力を入れ過ぎた。

 普段の試合なら負けるな、この戦法。

 でも、今回は勝った。何とか千草を護れた。

 俺は壁まで歩み寄る。

「最後の最後で失敗したな。心は一番戦闘で左右される。もう千草には、近寄るな」

「……無理な……相談ね……私を……殺さない限り……永遠に……追うわ……その化け物をね……」

「どうして、そこまでするんだ……?」

 巻き込まれた俺には状況が分からない。

 少し情報を引き出したい。

「…………そんなの…………決まってるわ……それが、私の…………生きる意味……だから」

「お前の生きる意味……?」

「……分かる……はずない…………分かる……わけ…………が…………」

「おい、どうした!! 話は終わってないぞ!!」

 おかしい。

 俺は気絶するほどの痛みは与えていない。なのに、どうして。

 その瞬間。

「…………!!」

 寒気がした。感じる、恐怖を。

 非常に嫌な予感がする。本当に危険だ。

 こいつは不可能だ。逃げろ。

 脳がそう告げている。

 千草と逃げないと、早く!!

 だが、

「お話はそこまでです、学生さんたち」

 この場には似合わない柔らかく優しい声の男性が逃げ道を塞いだ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ