第二十一話『得られた答え』4
相変わらず投稿が……。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
まずい、そろそろ息が切れてきた。
一切の休憩をせずに全力疾走したのだ。さすがに、いつも訓練している俺でも無理がある。
千草を探し始めてから、一時間。見つかるどころか、その糸口さえ掴めていない。
そりゃそうだ。俺は人の心が分かる神人でなければ、ヘリや警察を総動員して捜索させる地位も持っていない。
ただの人間だ。認めたくはない。俺には能力を打ち消す力しかないのだから。
ふざけるなよ、チクショウ。
自分の惨めさに腹が立つ。本当に情けない。
「どこにいるんだ…………千草」
來住町はある程度探し回った。だが、見つからなかった。
とすると、俺が探していない場所は残り一つ。
「ここしかないな」
赤い橋を歩きながら、そう呟く。
この赤い橋の下には河川敷がある。そこはかつて、柊と一時期特訓した場所でもある。
河川敷が良く見えるところまで移動する。
頼む、ここに居てくれ。
「…………」
辺りを見渡す。
いない。ここにもいないのか。気持ちが焦る。
そのやるせない感情によって、俺は草原とも言えるくらい生い茂る河川敷まで走って降りる。
「――千草!!」
俺は精一杯、声を絞り出した。
だが、その努力は実らず聞こえるのは草が風でなびく音だけだった。
「千草!! 千草!! いるなら、返事しろ!!」
必死で叫ぶ。
でも、返答はない。
いない。千草は消えてしまったのか。
「…………くそ」
奥歯を噛みしめる。
もしかしたら、俺を置いて家に帰ってしまったのかもしれない。
そんな都合のいい解釈が生まれるほど、俺は動揺していた。
何度も見渡すが河川敷に千草の姿はない。
残りは、橋の下か。
まあ、河川敷にいないのならいるわけがない――――、
「……!!」
――と、思っていた。
「この匂いはまさか……」
橋の下の近くまで歩いて気が付いた。
いつもなら嗅ぐことはない、血の匂い。
はは、まさかな。何かの間違いだろう。
そう、冗談に決まっている。こんなの、俺は。
「……くっ」
行くな、行くな…………行くな。
本能が危険を察知している。そして、俺は目撃してはいけないと。
だけど、まだ千草だって決まったわけじゃない。ちょっと強く怪我をしただけだ。
だから、橋の下には――――。
歩みを進める。
そして、俺の淡い希望はいとも簡単に崩れる。
「どうして…………だよ、どうしてだよ…………千草」
俺が見た景色は、血まみれで倒れている千草だった。
× × ×
「千草!!」
俺は駆け寄る。
いまだに信じたくはない。どうして、俺は千草を一人にしてしまったんだ。
自分の事情のせいで、千草は。
冷たくなった千草を抱えながら、俺は後悔する。
情けない、本当に。何が最強だ。
大切な仲間、一人さえ守れなかったのに。
『あなたを選んでよかった』
俺はお前に選ばれる資格なんて無かった。
ただ、思い上がりだったのかもしれない。どうして、千草は俺を選んだ。
何も出来なかったじゃないか。
だけど、千草は俺を選んだことを後悔しないのだろうか。
もちろん、俺の想像だ。今は後悔してるかもしれない。
でも、それでもほんの僅かでも、千草は後悔せずに俺の下に居てくれたのなら、俺には責任がある。
「誰が千草を苦しめたのか、すぐに見つけ出してやる」
決意を固める。
まだ、犯人は近くにいるはずだ。
「必ず見つけるからな、千草」
「その必要はないわ」
「……!!」
後ろから声がした。
俺は振り向く。
「お前が……」
もちろん、目にした所で素性は知らない。
ただ、あの店員の特徴が一致するだけだ。
紫色の髪をした高身長でモデルのようなスタイルをしている女性。こいつは可愛いというより、美しいという部類の女性だ。
普通なら心が奪われていただろう。
だが、返り血を浴び黒い槍を手にしながら、笑みを浮かべているあいつには怒りしかない。
「……千草を殺した犯人か?」
「だとしたら、どうするのかしら」
決まっている、そんなの。
一つしかない。
「千草の仇をここで果たす」
「へぇ、そうなんだ。うん、やっぱりそうよね。前々から監視してたから、分かってたけど…………あなた、何も分かっていない」
恐ろしいほど凍えるような声でそいつは言った。
俺は最後の言葉が気にかかった。
「俺が分かってないって、お前は何を知ってるんだよ?」
「もちろん、全部よ。あなたなんかよりその化け物のこと、よく知っているわ」
「ふざけるなよ、化け物はお前だろうが。何の躊躇いもなく、千草を殺して平然と笑っているお前が千草を化け物扱いするな」
俺は自分でも止められないくらい怒っている。
まだ、抑えていられるがそろそろ我慢の限界だ。
能力消滅剣を手にする。
「あら、凄い殺気ね。そんなに憎いかしら、あの化け物を殺したことが」
「次、その言葉を口にしたらお前を殺す」
「ぷっ、失礼。あまりに滑稽で笑いそうになったわ。残念だけど、私とあいつは同類なのよ。私が化け物だったら、あいつも化け物。それは変わらないことなの」
もう我慢なんかしてられない。
地面を蹴る。
そのふざけた笑みを、すぐに消してやる!!
「あ、言っとくけど――」
「がはっ!!」
黒い槍が弧を描くように俺の腹を掠る。
掠っただけなのに、遠くへ吹き飛ばされる。
どういうことだ、これは。
「あなたを殺すなんて簡単なことだから、忘れないでね」
「くそっ……」
血は出ていない。
だが、中で出血が起きている。痛い。
俺は何とか力を振り絞って立ち上がる。これぐらい、まだ大丈夫だ。
「ねぇ、どうする? 選択肢をあげるわ。ここから逃げるか、それともここで死ぬか。選ばせてあげる。慈悲はあるのよ、こう見えて。さあ、選びなさい」
「そんなの、どれでもない。千草の仇を討つ。それしかない」
「そっか、なら仕方がないわ。ここで死んで」
「――――っ!!」
さっきはどのような攻撃が来るか、予想出来なかった。
だか、今なら理解出来る。いつも伊吹と戦っているんだ。
そんな俺が槍の攻撃パターンを理解してないわけがない。
だから、防げる。
俺は素早く剣を構える。黒い槍は閃光の如く、俺に襲い掛かる。
槍は一直線。ここから軌道を変えるのは不可能だ。
だったら、防ぐ!!
「はっ!!」
スキルキラーで迎え撃つ。
これで、槍を弾きそれで―――――俺の勝ち。
「は?」
だが、あいつが不敵に笑う。
嘘だろう。槍の軌道が曲がった……?
どうして、あそこから普通なら不可能のはずなのに。
神人。
ああ、そうだよ。それを可能にする存在がいるじゃないか。
今まで会って来たというのに、どうして気が付かないんだ。あいつが神人ではない確証がどこにある。
ちくしょう。さっきから失敗ばかりして、後悔ばっかりじゃないか。
こんなの屈辱を味わったまま、ここで死ぬのか。
最悪だ、こんな終わり方。くそ。
「さよなら、無力な人」
黒い槍が俺の心臓を貫く――――。
「えっ?」
はずだった。
グサリと槍で貫いた音がした。
しかし、それは俺じゃない。
「…………どうして?」
目の前の光景が認識出来ない。頭が追い付かない。
どうして、どうして。
心の中でひたすら呟く。
槍で貫かれたのは……千草だった。
最後の力を振り絞るように口から血を流しながら、千草は俺の方を向き言った。
「…………千草も化け物だから」
追記
前回の投稿から1か月以上が経ちました。本当にごめんなさい。あともう少しで時間に余裕が出来ますので、しばらくお待ちください。本当にすいません。