第二十一話『得られた答え』3
防戦一方。その言葉が今の俺の状況に合っている。
今までもこのような状況になることはいくらかあった。だが、今回は段違いだ。
目の前で炎を軽々しく扱っている彩那さんは本当に楽しそうだ。本当にあなたはいったい何者なんだ。
「…………容赦ないですね」
「そうでしょうか? 私はこれでも力を抑えているつもりですが」
「俺に、あんなに凄まじい炎の剣戟をしておいて抑えているですか……まったく、これはあくまで試験ですよね?」
「ええ、そうよ。だから、こうして楽しんでいるのですよ」
そう言って、彩那さんは間合いをつめる。
来る。
そろそろ、俺が避けるのも限界だ。炎の渦に、炎の切れ目だしな。炎に関しては、芸達者だ。
こんなに手強い神人さんは初めて戦ったものだ。
意識を集中させる。これ以上の回避は無意味。なら、どうするか。
そんなの決まっている、この能力略奪剣で迎え撃つ、それだけだ。
「炎舞――――――業火の一撃」
「――――っ!!」
再び俺の視界はオレンジ色の業火で埋まる。
動けば、この業火にやられる。先ほどよりも威力が強まっている。
防戦一方。動かなければ、無傷で済む。発生しているのは、俺の周りだけだ。だが、もう同じ繰り返しはしない。
「――はっ!!」
俺はスキルディスピアでその業火へと触れる。
ぐっ、熱い。時間にしては十五秒ほどか。この細剣では、この業火は打ち消せない。
そういえば、どうやって能力を奪えばいいのか。一番大事な事を聞き忘れていた。
熱い、熱い、熱い……。何か俺に流れてきているのか。体が熱い。
業火は消えない。今まで以上に彩那さんは威力を上げているのか。なんて大人げない。
辺りはオレンジ色の業火に包まれている。これは一つ一つが火の塊。決して繋がっているわけではない。
一つ一つが彼女の固有スキルの力だ。
なるほど。意味を理解したぞ。
このスキルディスピアは相手の固有スキルの理を理解し、分析する。そして、発動させる。もちろん身体的に負担をかけて。
それにしても、どうして急に理解が早くなったんだ。何か余計なものまで理解してしまった気がする。
まあいい。偽者とはいえ、本物に近い威力なら相殺される。だから、
「炎舞――――業火の一撃」
彼女と同じ言葉を発する。
「――っ!?」
炎は消えた。だが、この痛みは。これが、身体的負担という事か。
右手が何かで抉られたような痛みに襲われる。外傷はない。
となると、内側から。とんでもない諸刃の剣じゃないか。
「司君!! 何か異常はないですか!!」
俺が痛みを殺しながら、視線を前へと移すと焦った表情した彩那さんがいた。
どうやら、痛みを殺しきれてなかったらしい。
彩那さんが固有スキルを解除して、近寄ってくる。
「いや、少し右手が痛むだけそれ以外は大丈夫です」
俺は心配させないようにそう呟く。
だが、それが逆効果だったように彩那さんは顔を曇らせる。
遠くで見ていた暁教官も俺の異常に気が付いたようだ。
「おかしい……こんなのはおかしいですよ……」
「確かにこれは異例だな。今まではあり得ないことだ」
「そんなにおかしい事ですか?」
通常なら、こんなことは起きないのだろうか。
そうでなければ、二人が深刻そうに考える理由はない。俺が返答を待っていると、少し時間が経った。
彩那さんが重い口を開く。
「…………まだ、司君には早かったかもしれません」
「早かった……?」
予想外の返答に俺は聞き返してしまった。
「あっ、今のこっちの話です。き、気にしないでください!!」
その言葉を聞いた彩那さんは慌てたように話す。
何か俺には話せない事情があるらしい。
「とにかく、これで試験を終了。司君、良いかな?」
「まあ……大丈夫です」
暁教官の言葉に素直に従う。成功とはもちろん言えないだろうが、それでも何か得られたはずだ。
詳しい事を知らない俺がとやかく言っても仕方がない。
まあ、彩那さんの言葉は気になるが。
「そうか、悪いな。本当は今日、能力略奪剣を渡そうと思っていたんだが色々と検証が必要になった。本当にすまない」
「いやいや、全然大丈夫ですよ。確かに、少し驚きましたがあれぐらいの痛みなら我慢出来ます」
とは言っても、長時間の使用は避けた方がいい。
今では、右手の痛みは一切ないが先ほどまでは抉られるぐらいの痛みはあった。
やはり、無理はしない方がいいか。
「なるべく、改良して司君に渡そう。期間は…………神王戦が始まる頃までに終わらせる」
「それなら、直接神王戦の会場で渡してくれませんか? 俺、実は神王戦に参加するんです」
「それは、本当なのか!!」
暁教官が驚きつつも、嬉しそうに微笑む。彩那さんも少し笑顔になっていた。
良かった。何となく、口にしただけだが重い空気は和らいだみたいだ。
「はい、異例で参加します」
「なら、必ずこのスキルディスピアを完全な剣にして届けよう。約束する」
「私も出来るだけお手伝いします」
「ありがとうございます、暁教官、彩那さん」
「気にするな。さて、私は早速作業を始めるか」
「では、返しますね」
俺はスキルディスピアを暁教官に返却する。
正直、もう少し扱いたかったが異常があるのでしょうがない。
受け取った暁教官は颯爽と自分の部屋に移動していった。
「司君、一応これで終わりになりますがどうしますか?」
残った彩那さんが尋ねてくる。
「では、俺は帰りますね。今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」
深刻そうな表情はもうない。
初めてあの柊と似ている所が見つけられたかもしれない。って、俺は彩那さんの笑顔を見てどぎまぎしているんだ。
まったく、あいつもこうやって笑ってくれた可愛いのにな。
「これからもよろしくお願いしますね、司君」
「はい、もちろんです」
それではと言い、俺は外へと歩き出す。
さっさと、千草の所へ行かないとな。戻ったら何か奢ってやろう。
そう思いながら、歩き始めた時。
「一つ言い忘れていました、司君」
真剣な声で彩那さんは俺を呼び止めた。
「最近、ここ周辺で不審者が目撃されています。あなたなら大丈夫だと存じていますが、気を付けてください。
その者はそこいらの不審者より異常です」
「…………わざわざありがとうございます」
そう言い残し、外へと出た。
× × ×
外に出るころには、すっかり日は沈み、綺麗な満月が姿を出していた。
俺は、走り千草を待たせていた喫茶店に向かった。
「良かった、まだ開いてる」
これでもし、閉店していたら千草は移動しなければならないから助かった。
俺は安心したように、中に入る。
「いらっしゃいませ!!」
元気な店員さんが俺の方へ走ってくる。
もう夜の7時だというのに、お疲れさまです。
「あのここで待ち合わせていて、銀色の髪をした女の子をいませんか?」
本当なら、もう少し詳しく話した方が良さそうだが銀色の髪だけすぐに分かるだろう。
中々珍しいからな、千草は。別に悪い意味ではない。
「銀色の女の子なら、確か一人の女性が連れて行きましたよ」
「えっ……」
千草がある女性と一緒に外へ出た……?
もしかして、知り合いにでも会ったのか。いや、千草は待っていると言っていた。
そんな簡単に出るはずがない。まだ会ってからさほど経っていないが、千草が勝手なことをするとは思えない。
少し不安だ。
「あの、その連れの人の特徴を教えてもらってもいいですか?」
「えっと確か……紫色の髪に、まるでモデルのような体型の女性でした」
だとすると、身長は170cmぐらいはあるはずだ。
もちろん、そんな高身長な女子は俺の知っている中でいない。逆はいるが。
「どこに行ったかは分かりますか?」
「すいません、場所まではちょっと……」
それはそうだよな。
「そうですか、わざわざ教えていただきありがとうございました」
感謝の言葉を述べ、喫茶店を後にする。
大丈夫だよな……千草。
不安が無くなる所か、増幅するばかりだ。
『最近、ここ周辺で不審者が目撃されています』
「……!!」
まさか、いやそんな事はないよな。
絶対とは言えない。
くそっ、どこにいるんだ。
俺は当てもなく走り始めた。
皆さん、本当にすいません。大変遅くなりました。
これから頑張って投稿ペースを戻していきたいと思います。何度もすいません。
これを機に、いつになるかは分かりませんが全面改稿をしようと思います。今後とも少しでも楽しんでいただけるように頑張りますので、よろしくお願いします!!
追記
久しぶりに投稿したのに、このアクセス数は…………本当にありがとうございます!!
今まで以上に面白い小説を書き上げられるよう、頑張ります!!
7月4日、投稿予定です。