第二十話『揺らぐ信頼』5
静寂に包まれた第一訓練場。
柊と伊吹の試合は終わり、次は七瀬と千草の試合である。
対峙する二人。一人は二丁拳銃を手にして、もう一人は双剣を手にしている。普通に考えれば、遠距離型の七瀬が有利だ。
だが、相手は代表メンバーに選ばれている実力者。実際に戦っているのを見るのはこれが初めてだからよく知らないが、相当の腕の持ち主だろう。
俺としては非常に楽しみだ。
二人は相手をじっとただ見ている。いつでも準備は出来ているみたいだ。
では、始めるか。
「両者、構え!!」
「「……!!」」
「両者、始め!!」
試合が始まった。
銃をいったいどうやって千草は攻略するのか。実に楽しみだ。
今はまだ牽制中なのか、どちらも攻めようとしない。気が抜けない試合なのだろう。
「……行きますよ」
「…………望むところ」
二人が戦いの宣言をしたところで、一発。
七瀬の銃から銃弾が発砲される。狙いは腕試しがてらなのか、足元だ。
様子見か……まあ、七瀬らしい。
技量を測っているに違いない。そんな七瀬の考えに応えるように、千草は華麗に避ける。
「…………いつでもどうぞ」
何と、挑発とは……。
千草は攻撃を仕掛けず、七瀬の攻撃を待つつもりだ。これが、千草の戦法なのだろうか。
挑発を受けた七瀬は不敵な笑みを浮かべる。
「そうですか。なら、手加減はいりませんね!!」
ツインライフルからそれぞれ二発。目にも止まらぬ速さで、千草の手と足を狙う。
発砲された瞬間に千草は双剣を構え直す。千草はその場から動かない……って嘘だろ?
何を考えているつもりだ、あいつは。全ての銃弾を受けるつもりか。捨て身にほどがある。
このままでは直撃は避けられない。
止めた方が良いのか!? そう思った時だった。
キイィン!!
「えっ、嘘……」
俺もそう呟きたかった。
七瀬は起きた事に動揺せざるを得ない。なぜなら、銃弾を千草が双剣で弾いたからだ。
あり得ない……いや、今となっては当然の事実だ。
並の実力者じゃない、千草は。まだ分からないが、双剣を使いこなしている。
とんでもない奴だ。そう思っているのは俺だけじゃないだろう。きっと遠目から見ている柊と伊吹だって今の状況に困惑しているはずだ。
そして、当の本人は平然と七瀬を眺めている。
「…………これで、終わり?」
退屈そうに千草は呟く。
七瀬はまだ信じられないだろう。だから、再び銃弾が放たれる。
それも先ほどよりも何倍も多い数だ。
中々容赦ない、七瀬も。
だが、これも簡単に。
一発、二発、三発……。綺麗に弾かれていく。
千草はそれを一切表情を変えずにやっている。しかもブレが全くない。綺麗な佇まいだ。
開始から一分十秒。千草が動いたのはわずか三歩。
試合は始まったばかり。だが、既に勝利は分かり切っている。
七瀬も理解している。
それでも、ここで負けるわけにいかない。銃口は千草の方を向いている。
「銃弾が弾かれるのなら、数と速さで!!」
連続発射。
もう手加減という文字はない。倒す。
七瀬の思いはそれだけだ。魔法で動体視力を強化しているとはいえ、それでも見えないくらいの数の銃弾が放たれている。
普通なら、骨折まで行くだろう。それぐらい大量の銃弾。
この状況になって、平然としている千草はおかしい。ただ、少し変わったのは笑み。
少しやる気が出たのだろうか。それは俺には分からない。
そんな中で、七瀬に悪いがこの結果は理解出来る。
一発、二発、三発……何発も弾いて弾いて弾く。
一切のミスも動揺もなく、全ての銃弾が双剣によって弾かれる。
千草には止まっているようにでも見えるのだろうか。
「……正確な射撃。……悪くない、けどまだ足りない。……心が銃弾について行ってない」
「心がですが……?」
「……うん。……だから!!」
千草が動いた。
速い。視界から外れる。それも一瞬の事。
次に千草を見た時には、
「――っ!? そ、そ、そんな……」
七瀬の目の前。
片方の短剣は七瀬の首元に向かっていた。そして、七瀬の武器は千草の背後にあった。
この短時間で相手から武器を奪ったのか。
「……千草の勝ち」
無表情のまま、勝利の宣言をする。
もはや、言うまでもない。
「勝者、千草!!」
「ま、参りました……」
七瀬は悔しそうに負けを認める。
「凄い……凄いじゃない、宮美!!」
休憩がてら今の試合を見ていた柊が俺達の下へ走ってくる。伊吹もあとに続く。
どうやら、同じくらすだというのに実力を知らなかったようだ。
「……ヒナに言われるまでもない」
「な、な、何よ!! せっかく人が褒めているのに!!」
柊の言葉を適当にあしらう千草。
スルースキルもお手の物らしい。柊は少し拗ねている。
まったく、単純な奴だ。
「…………スズ、どうだった?」
俺が柊の態度に呆れていると不意に千草から尋ねられる。
どうだったか……そりゃあ、まあな。
「凄かったぞ、さすが神王戦の代表メンバーだ。どこかの特別枠で入っ――!? まだ誰かなんて言ってないだろう!!」
こういう時だけ、反応が俊敏になるなよ。まったく、さっさとレイピアを退けてほしい。
「ふ~ん? じゃあ、誰を言おうとしたの?」
「すいません、もう言いません」
「べ、別にいいわよ。一応、私だって勝ったんだから…………褒めてくれても」
「ああ、凄いな」
「そ、そ、そういう意味じゃない!!」
それじゃあ、どうしろと。
理不尽に拗ねるのは困るのだが。とりあえず、動けるようになったからいいけどさ。
誰かこいつの言葉を俺に翻訳してくれませんかね。
そんな馬鹿な話はさておき、一応二つの試合が終わった。
「みんな、何か掴んだか?」
「まあ、一応ね」
「私はよく分かりました」
「僕も見つかったよ」
「…………千草も」
「千草は特にないと思うが……」
文句のつけようのない戦い方だったと思う。いや、嘘ではない。
真似できるだろうか、俺に。少し指導役として心配になる。
そんな事を考えている俺とは裏腹に千草は嬉しそうだった。
「…………ありがとう」
「別に気にするな、ただの感想だから。……さて、満足な結果が得られた。まだ時間がある。ここからはそれを踏まえた各自の訓練だ!!」
俺の言葉に全員が頷く。
「それじゃあ、まだまだ特訓するぞ!!」
「ええ!!」
「はい!!」
「うん!!」
「……もちろん」
各自、散らばっていく。
俺も特訓始めるか。
そう思い、俺も柊達とは違う訓練を始めた。
今回の話はだいぶ長くなる予定です……。投稿ペースは努力します!!