第三話『問題児の策略』1
早朝六時過ぎ。
俺と柊は闘技場にいる。
いつもなら使えないはずの闘技場は、瀬那先輩と蒼さんのおかげで今日は使える。
それにしても少し疲れてしまった。
意外と人を説得させるのは疲れるものだな。特に柊みたいな頑固な奴ほど。
まあ、そんな大変なひと時も終わり、今訓練をしようとしている。
「それで、訓練っと言っても何を始めるの?」
訓練の準備を終えた柊が俺に尋ねる。
さて、どうしようかな……。
はっきり言って、まだ何も考えていない。
「さて、何をしようかな……。……冗談だから!! ちゃんと考えているから、剣を俺の首元を向けるな」
まったく、瀬那先輩と言い、柊と言い、喧嘩っ早い人しか俺に知り合いはいないのかよ。
柊はため息を吐きながら、細剣を下した。
しっかり考えないとな……。
そうしないと、俺が殺される。
あっ。そうだ、まずは基礎からだな。
「なぁ、柊?」
「何よ」
「お前、光速切りやっ……だから、剣を俺に向けるな」
「はぁ~……。そんな技なら、私でも序の口よ」
そう言うと、柊は細剣を構える。
柊は力を溜める為に目を閉じる。
すぐに目を開け、
「おりゃぁぁああ!!!!」
細い剣とは思えないほどの大きい光の刃が放たれる。
その光の刃は藁の戦闘兵に直撃し、戦闘兵を木端微塵にした。
さすが、神人だ。
人間にとっては高等な技であるのにも関わらず、神人にとっては初歩的なものであると痛感させられる。
柊の技だけ見れば最弱には見えない。
それほどの威力をさっきので俺を感じた。
「どう?」
俺が心の中で感嘆していると、技を放ち終わった柊が聞いてきた。
「さすが、神人だな。人間なんかよりも全然威力があるな」
「私を褒めなさいよ!! 私を!!」
「いや、褒めてるだろう。さすが、神人って」
俺なりに褒めたつもりだったが、柊は気に入らなかったらしい。
「う~ん。お前って、本当に最弱なのか?」
「今更、何言ってるのよ。私はあなたに負けたのよ!!」
「確かに、そうだな。じゃあ、質問を変える。お前はどこが最弱の原因だと思う?」
それを俺が尋ねると、柊は黙ってしまう。
それもそうか。どうして最弱なのか、理由が分かっていたらそもそも最弱になってないよな。
とりあえず、俺の思っている事をぶつけてみるか。
「俺から見て、お前が最弱なのは常識にとらわれ過ぎているからだと思う」
「常識に?」
「そう、常識だ。最初、俺に模擬戦をしようと言った時お前は俺の事どう思ってた?」
まあ、聞かなくても分かる事だが、最弱な理由を探る為に聞く。
柊は少しその時の事を思い出しながら、答える。
「はっきり言って、絶対に人間には勝てると思ってたわ。特にあなたみたいな奴には」
最後のが、余計な気がするが俺はスルーし説明をする。
「確かに、普通なら人間が神人に勝つなんてあり得ないな。でも、結果はどうだった?」
「あなた、私の事を虐めるの好きね。負けたわ、しかも一瞬で」
まあ、そんな事を言わせるのはさすがに良くないか。
俺は少し反省しながら、話を続ける。
「悪い悪い。でも、分かっただろう。常識が必ずしも全てではない事が」
「確かに、そうね……」
柊は反省しながら、俺の話に頷いている。
「常識と言うのは、時に邪魔するものだ」
常識があるから、人はあり得ないと思い壁を作ってしまう。それは神人も同じなのだろう。
今回の柊を見て、そう感じる。
「他にも色々と常識が通用しないものがある。例えば、さっき柊が光速切りなんて序の口って言っただろう」
「確かに言ったわ。でも、実際そうでしょ」
「お前、さっき言ったばかりだろうが。まあ、いい」
こいつは学習能力がないのか……。少し心配だな。
柊がキョトンとした顔をしている。
俺は練習用の剣を構える。
重心がぶれないようにしっかりと力を溜める。
さて、今日は出来るかな……?
「おりゃぁああ!!」
どうやら、いつも通りの威力で放てたようだ。
いい感じに戦闘兵が崩れる。
それを見て、柊は少し俺の事を睨む。
「私と変わらないじゃない」
「待て待て。これからだよ。今のは普通の光速切りだ?」
「普通って……。これしかないでしょ」
「あのなぁ……。まあ、今見せてやる」
俺はもう一度力を溜める。
そして、先ほどより少し重心を前にする。
「それっ!!!!」
俺は光の刃を放つ。
「変わらなっ……!! うそ……分裂した!!」
普通なら、光の刃が一つだが、二つに分裂した。
そして、二つの光の刃が戦闘兵に直撃する。
しかも、先ほどよりも威力があった。
よし、成功みたいだな。
俺は心の中で安堵し、話を再開させる。
「どうだ? お前に、これでも光速切りが序の口って言えるか?」
「そっそっそれは……」
どうやら、今の見て相当驚いてしまったようだ。
少し腰が引けている。
「だから、言っただろう。お前は常識にとらわれ過ぎだって」
正論を俺に言われて、柊は悔しそうな顔をする。
まあ、悔しがってくれないとこっちとしても困る。
「もっとお前は物事を柔軟に考えるように。お前は考えが硬すぎる。もちろん、性格もな」
「せっせっ性格は関係ないでしょ!! でも、意外と事実だから言い返せない」
「まあ、これから頑張れば大丈夫さ。俺もいるしな」
「最後の言葉が少し腹が立つけど、でもよく分かったわ」
そう答え、柊が細剣を構える。
どうやらやる気が湧いたらしい。
まあ、そもそもやる気があるみたいだし当たり前か。
「そりゃぁああ!!!!」
柊は再び技を放とうとする。
だが、先ほどのように光の刃が出ない。
「あれっ? おかしいな……」
「おいおい、しっかりしろよ」
「ごめんごめん」
そう言いながら、俺の元に近づいて来た瞬間。
「えっ!? 今!?」
俺の目の前で光の刃が放たれる。
遅延効果かよ……。
それにしても急すぎる。
俺はぎりぎり避ける事が出来た。
速さに関しては神人とも渡り合っていけるだろう。
「ふぅ~……危ない。おい、気を付けろ」
「あはは、ごめん」
棒読みかよ……。
とはいえ、まさかもうこんな技に出来るとは正直驚いている。
こいつは本当に最弱なのか……?
俺の頭に疑問が浮かぶ。
まあ、いい。
「時間がなくなるぞ。お前、さっさと訓練しろよ」
「分かってるわよ」
この後もHRぎりぎりまで訓練は続いた。