第十八話『不思議な出会い』6
俺の自己紹介が終わった後、今後の日程などを話した。
そして、各自で訓練をしたりルール確認をしたりなど神王戦の準備に取り掛かっている。
ちなみに俺は挨拶が終わったので今日の仕事はもうない。
あとは宮美千草と話をするだけだ。
するだけ何だが……どうも上手くいかない。
なぜなら俺は柊に事情説明をするのに手こずっていたからだ。
「最近、訓練に参加しないと思ったらこんなことしていたなんて知らなかったわよ。どうしてこんなことをしているの?」
こんな感じに何度も俺に尋ねてくる。
「だから、瀬那先輩に頼まれたんだよ……」
「本当に? 怪しいわね……まさか神王戦を打ち壊すとか言わないでしょうね?」
「んなわけあるか。俺をどう思っているんだよ?」
「もちろん、問題児よ」
お前も瀬那先輩と同意見ですか。
はぁ……俺の味方は伊吹ぐらいだな。
改めて伊吹を大切にしようと思った。
今日も頑張ってねと天使な笑顔で応援してくれたしあそこまで優しい友達はいない。
決して変な趣味には目覚めていないから、大丈夫だ。
「どうして合同委員会に参加しては駄目なんだ? 別にお前に関係ないだろう」
「関係はあるわよ。……司と一緒にいたら恥ずかしいし……」
「ん? どうして恥ずかしい気持ちになるんだ?」
そんなに俺は柊に嫌われていたのか。
少しショックを受ける。まあ、気にしないけどな。
でも、嫌がるのならどうして俺を見て顔を染めている?
俺には想像もつかない。
「いや、決して嫌というわけではないし……むしろ嬉しいというか……とにかく私は困るのよ!!」
「そんな無茶苦茶な……」
柊の考えている事が分からないのは、俺だけか?
いや、違うはずだ。
とりあえず、俺は用事がある。
さっさと要件を済ませよう。
「分かった、柊。極力お前に迷惑を掛けないから、頼む。俺を合同委員会に参加させてくれ」
というより許可いるのか、これ。
俺のお願いに少し柊は考えた後、
「まあ、悪い事はしなさそうだし別にいいわよ」
「そもそもこれに参加することになったのはお前が原因なんだけど……」
「……それは言わないでよ。私だってあそこで助けてもらえると思ってなかったんだから」
それもそうか。
あれは俺がやったことだし柊に責任はないよな。
少し反省しよう。
「悪い、そうだよな。お前は何も悪くない。すべて俺が柊を助けようと思って行動したことだしな」
「き、き、急にそんなこと言わないでよ……」
「俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……まあ、いいわ。とりあえず訓練以外のときもよろしくね」
「ああ、よろしく」
どうやら柊は理解してくれたらしい。
さて、彼女に会わなければ……。
俺は教室の周りを見渡す。だが、彼女の姿が見当たらない。
どこに移動したんだ?
「柊、そろそろ解放してもらっていいか?」
「ええ、いいけどどうかしたの?」
「まあ、ちょっとな」
「そう……」
「悪いな、柊」
俺は一応挨拶をし教室を出た。
すると、廊下に一人でどこかに行こうとしている彼女がいた。
引き留めるために俺は声を掛ける。
「おい、待ってくれ!!」
「……!!」
呼ばれた彼女はビクッとしてその場で立ち止まった。
「…………なに?」
一応顔を確認する。
うん、間違いない。雪のような白い髪にあまり表情が出ない感じがあの資料の写真と同じだ。
意外と近くで見ると可愛いらしい雰囲気がある。
そこそこ男子に人気があるんじゃないかと思う。
「…………要件」
「あっ、悪い。えっと宮美千草だよな?」
「…………そう、宮美千草」
話のテンポが遅い気がするな。
まあ、そんなこと言っている暇はないが。
「あのさ、少し話さないか?」
「…………別に構わない」
「そうか、じゃあ中庭に行かないか?」
あそこなら今は誰も使っていないからゆっくりと話が出来るはずだ。
彼女は俺の提案に少し考えた後、頷いた。
「…………分かった。そこに行こう」
「ああ、行こうか」
歯切れが悪いけど大丈夫だよな。
俺は彼女と中庭に移動することにした。
× × ×
歩いてだいたい十分。俺達は中庭に到着する。
久しぶりだな、中庭に来るのは。
初めて瀬那先輩に御用になってから一度も来ていなかった。
まだ二か月くらいしか経っていない懐かしい気分になる。
「とりあえず、あそこに座ろうか」
そんなことはさておき、俺は彼女に近くのベンチに座るように言う。
「…………うん、座る」
彼女は一切男子と座ることに抵抗がないようですんなりと座った。
柊とかは結構気にするから意外だな……。俺も気にするタイプだ。
でも、彼女が恥ずかしそうにしていないのだし俺が気を遣う必要はない。
だから俺も淡々と腰を下ろした。
「それで、宮美千草。話したいことなんだが……」
「…………千草」
「えっと……」
「…………フルネームじゃなくていい。…………千草って呼んで」
確かにフルネームだと変だしな。
助け船をありがとう、千草。
「じゃあ、千草。話はだな……」
「…………その前に名前」
「ああ、俺は涼風司だ。別になんて呼んでもらっても構わない」
まさか俺のことを見ていて俺の名前を知らないと驚きだ。
てっきりそういうのは理解していると思っていた。
千草は少し考える素振りをした後、
「…………じゃあ、スズって呼ぶ」
「えっ? ああ、分かった」
そんな呼ばれ方は初めてなので少し困惑してしまった。
スズって、俺関係ないよな……?
「じゃあ、本題に入るぞ。千草、お前は俺の事を一週間くらい覗いてだろう?」
「…………ばれてた?」
さほど動揺していないな。
別にばれても良かったのだろうか。
「まあ、な。山積みの段ボール箱を見ればいやでも分かるさ。でも千草の顔を見たのは今日が初めてだ」
「…………そう、完璧にばれていなかった…………」
「それはどういうことだ?」
「…………昨日、スズに見つかりそうになった時に…………隠れていたから」
「そういえば、そうだよな。千草、あの時どこに隠れていたんだ?」
残念なことに俺はあの時千草は見つけられなかったからな。
それは今も疑問に思っていた。だから気になる。
すると、千草はくすっと笑ったあと口を開く。
「…………段ボール箱の中」
「だ、だ、段ボール箱の中!?」
「…………うん、入ってた」
「よく入れたな……」
俺には驚きしかない。
まさか最後持ち上げた段ボール箱に入っていたとは。
確かに頑張れば入れそうではあるが。
「…………身長低い…………あと体が柔らかいから」
「そうだったのか……よく分かった。千草が凄いというのは理解したけど、どうして俺を覗いていたんだ?」
それが一番気になる質問だ。
元々これがあったからこの合同委員会に参加したからな。
これは必ず聞いておく必要があった。
「…………なんだが懐かしい感じがしたから」
「それはどうして?」
「…………分からない。…………でもスズを見て懐かしい気持ちになった」
「まさかそれだけの理由で俺を一週間見ていたのか?」
千草は頷く。
そんな理由だったとは少し脱力してしまった。
とりあえず、危険人物ではないことはよく分かったが。
「まあ……なんだ。別に嫌ではないから、もし俺を見て千草の気が済むのなら全然大丈夫だからさ」
「…………じゃあ、これからも見る」
「そんなはっきりと肯定するなよ……」
「…………スズって面白い。…………あなたを選んで良かった」
「俺を選んで?」
「…………気にしないで。…………こっちの話だから」
「そうか、ならいい」
少し気になったが千草がそういうのだからスルーしよう。
事情も理由も聞き出せたから、今日はもう大丈夫だな。
それに千草はあまり表情を見せないが、良い奴なので俺としては少し嬉しい。
「…………その手はなに?」
「いつまでも遠くから見ているのは無理があるだろう。だから仲間として接してほしい」
「…………分かった、よろしく」
「おう、よろしくな」
俺と千草は握手を交わした。
抱えていた問題の一つはこれで解決したのだった。
さて、これにて第十八話は終わりです。いかがでしたか? 新たなヒロインが登場しました。しばらく説明するシーンが多いですが、そこはご了承ください。 とりあえず、次回は第十九話です!!
追記
2/27、投稿予定です。投稿が遅れてしまってすいません……。