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最強の問題児と最弱の神人少女  作者: 鈴夢 リン
第三章 奮闘編
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第十七話『問題児はどこまでも突き進む……』5

 団体戦三回戦は無事俺と七瀬の勝利で幕を閉じた。

終わった今でもあの興奮は忘れられない。

 そして、俺達は伊吹と鶴川の部屋にいる。

 これで、今度こそ伊吹は俺達の仲間だ。

ようやく目的達成なのだが、

「……」

 鶴川の暗そうな表情を見ていると何だか罪悪感が生まれる。

う~ん……気まずい。

 さっさと済ませてしまえばいい話だが、今更になって躊躇ってしまう。

「どうしたんですか、司君? 早く終わりにしませんか?」

 決断を悩んでいると、七瀬から声が上がった。

まあ、確かに終わらせたい……終わらせたいんだが……困った。

 伊吹は俺の言葉を待ってるし、鶴川からはもちろん口を開かない。

 どうする、俺?

 一応鶴川は今回の条件を呑んで俺達と戦って負けている。

だから、別に悪い事をしているわけではない。

 駄目だ、鶴川を切り捨てて俺達だけ得するのは気持ちが良くない。

こういう時だけ、人に気を遣うのは俺の良い所なのか悪い所なのか自分でもよく分からん。

 まあ、でもこのまま黙っているわけにはいかない。

 だから、俺はこういう答えを出した。

「あのさ、鶴川?」

「……何よ?」

「俺達が勝ったからさ、その――」

「伊吹をあなたのチームに引き渡すという事でしょ……」

「いや、違う」

「……!!」

 俺が否定すると、鶴川は驚いた表情を見せた。

伊吹や七瀬も少し驚いているらしく、俺をじっと見つめている。

「確かに俺は最初、伊吹をもらうと言った。だが、それはあくまで伊吹を強くするために言っただけだ。

 本当はただ鶴川に伊吹が俺達の仲間であることを認めてほしかっただけなんだ」

 多少の嘘はあるが、言っている事はあながち間違っていない。

 伊吹が俺達にとっても大事な仲間であることをただ伝えたかっただけ。

それが、俺の答えだ。

「これからも伊吹は鶴川と訓練しても全然構わない。むしろ、してほしい。伊吹が強くなれたのは鶴川のおかげでもあるしな」

「私のおかげ……?」

「ああ。そうだよな、伊吹?」

 俺が尋ねると伊吹は笑顔で頷いた。

「うん、その通りだよ。沢山の人に指導してもらったけど、やっぱり僕が強くなれたのは鶴川さんのおかげだって僕も思うよ。

 本当に感謝しているよ」

「そうだったんだ……私、てっきり伊吹にとって邪魔な存在だと思って……」

 鶴川の目から涙が零れていた。

もちろん、嬉し涙だ。

 そんな鶴川を見た伊吹は鶴川の元へ近付いた。

「僕は一度も鶴川さんの事、邪魔なんて思ったことはないよ。本当にありがとう、鶴川さん」

「うん……こちらこそ。本当に……ありがとう、伊吹!!」

 そう言った瞬間、鶴川は伊吹に抱き着いた。

意外と積極的なんだな……。

 まあ、そんな感想はいい。

「ちょ、ちょ、ちょっと!! 恥ずかしいよ、鶴川さん!!」

「あっ、ごめん!! 嬉しくてつい……」

 真っ赤に染まった伊吹を見た鶴川は恥ずかしそうに離れた。

 これ、俺達邪魔な気がするな……。

さっさと、終わらせよう。

「どうだ、鶴川? 俺達の仲間として認めてくれるか?」

「いいわよ、もちろん。あなたの言いたいことは理解したから」

「そうか……なら、良かった」

 俺は今日何度目か分からない安心感を覚えた。

「これからもよろしくね、司!!」

 天使の笑顔で伊吹は俺に言った。

「ああ、よろしくな!!」

 それに俺は笑顔で答えた。

「それじゃあ、俺と七瀬はこれで退散するから。また明日な」

「うん、また明日」

「行くぞ、七瀬」

「はい」

 挨拶を交わし、俺と七瀬は伊吹と鶴川の部屋を出た。



 × × ×



 司と七瀬さんが僕達の部屋から退出した後、何となく僕達は静かに座っていた。

 団体戦の事を考えていた時には気付かなかった大切な何かを今は感じている。

きっと僕と鶴川さんには言葉で表しきれないほどの強い絆があるかもしれない。

「伊吹、少しいい?」

「ん? 何、鶴川さん?」

「本当に良かったの……これで」

「良かったって……その何がかな?」

 質問の意図が分からず、僕は聞き返してしまった。

それに何だが鶴川さんはモジモジしている。

 何か恥ずかしいことでもあるのかな……。

「だから、その……私と一緒に居て本当に嫌じゃないの……?」

「当たり前だよ、僕は嫌じゃないよ」

「だったら……」

 すると、鶴川さんは僕の隣に座る。

そして、僕の手を握った。

 えっ、何で……。

「こういうのも嫌じゃない……?」

「そ、そ、そ、そうだね!! ぜ、ぜ、全然大丈夫かな!!」

 どうして僕はこんなに動揺しているの。

 それに何だが顔が熱くなってきた。

なるべく冷静にしていないと……。

 そう思っていた矢先、鶴川さんはとんでもないことをしてきた。

「そう。なら……」

「……ってえええええぇぇぇ!!!! な、な、何しているの、鶴川さん!?」

 どうしてまた抱き着いたの……!?

わけが分からないよ……。

 どうしよう、僕。

「さすがに……これは嫌?」

「嫌じゃないけど……ってそうじゃなくて!! ど、どうしたの、鶴川さん!!

 今日、変だよ!!」

「だって……私、伊吹が大事だから……。

 大切な仲間だから、どこかに行かないでほしかったから……」

 そういう事だったんだね……。

 鶴川さんは顔を熟したリンゴのように染めながら僕を見ている。

でも、嬉しい。こんなにも僕の事を大事に思っていたなんて知らなかった。

「ありがとう、鶴川さん。心配しないで、僕はどこにも行かないから。

 これからも鶴川さんの仲間だよ」

「うん、約束だよ……」

「絶対、鶴川さんを一人にしないから」

 僕も鶴川さんを大切に思っている。

 とても心が温かいよ。

「これからも一緒に頑張ろうね」

「うん、頑張ろう!!」

 鶴川さんが僕をどう思っているか少し分かった気がする。

もちろん、少しだけどそれでも進歩だ。

 ありがとう、司……。

 僕はしっかりと強くなれたよ。

 これからもきっと頑張っていける。

僕は心の底からそう思った。


 

 さて、これにて第十七話は終了です!! いかがでしたか? 思い返してみるとこの作品を投稿して半年になります。ここまで続けられたのは、本当に読者様のおかげです。本当にありがとうございます!!

 次回は三章エピローグです!!


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