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最強の問題児と最弱の神人少女  作者: 鈴夢 リン
第三章 奮闘編
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第十七話『問題児はどこまでも突き進む……』2

「はああぁぁぁぁ!!!!」

「――っ!?」

 試合開始の合図とともに伊吹が俺に凄まじい速さで槍を突いてきた。

 疾風突きゲイルショットか……。

だが、俺の知っている技とは違う。

 ゲイルショットというのは弾丸のように素早い動きで突く槍技だ。

速いがゆえに、もちろん弱点がある。

 それは加速あまり自分ではその動きについていけず、激突する可能性があることだ。

以前、伊吹ならそれが毎回起きていたが今の伊吹は違っていた。

 速さを自由自在に操っている。

 とんでもないほどの成長ぶりだ。

「驚いているね、司」

「ああ。度肝を抜かれた。まったく凄い奴だな」

「ありがとう。これもすべて僕が司に勝つためだよ」

 伊吹の持っている槍はいつも以上に輝いている。

それだけ訓練をこの一週間で積んできたというわけだ。

 参ったな……。

 今の攻撃は牽制に過ぎない。

だから、本気はまだ出していないはずだ。

「ふっ、面白い。だったら、俺も伊吹に勝つためにこの剣を振るうさ」

「容赦しないよ、司」

「ああ、分かってる」

 伊吹は俺に槍を向ける。

俺も剣を構えなおす。

 集中しろ、俺。

 牽制だけじゃない、伊吹はこの状況を作り出した。

一対一という状況を。

 伊吹達もしっかりと作戦を考えていた。

 まあ、よりによって同じ作戦だと思っていなかったが。

 七瀬と鶴川も一対一だ。

鶴川のことは七瀬に任せておいていいだろう。

 だが、もう考え事をしている暇はないらしい。

 伊吹が槍先を俺に向けた。

 来る……!!

「もう一度行くよ、司!!」

「……!!」

 速い。一つ動作にまるで無駄がない。

 何とか抑えられるか……?

いや、抑える!!

 キイィィイィン!!

 俺は何とか体重移動を使って伊吹の攻撃を受け止めた。

だが、少し押されている。

 伊吹は微塵も表情を変えない。攻撃が弾かれるのは想定済みだったみたいだ。

 小柄な体型には似合わないほどの力強さだな。

 感心しつつも俺も手は抜かない。

力を振り絞って槍を弾いた。

 そして、伊吹と距離を取る。

「まだまだ行くよ!!」

 まずい。完全にペースに飲み込まれている。

それに、徐々に伊吹の突きが速さを増してきた。

 この速さにまだ目が慣れていない。

 ここは避けるしかないな。

ここまでの動作が一瞬だったとしても気が抜けない戦いだ。

 俺は剣で弾きつつ、左に飛んだ。

 避けた瞬間、伊吹は足で踏ん張り伊吹の周りに大きな風が発生する。

と、と、と、止めた!?

 俺が避けたと分かった瞬間、伊吹が速さを粉砕したのだ。

「まったく、どんな訓練受けたらこうなるんだ……」

「僕は鶴川さんだけじゃない。みんなに指導してもらったからね。これくらい当然だよ」

「なるほど……それが伊吹の成長の証か」

 伊吹はきっと試行錯誤したはずだ。

俺達のチームから一度外れた後、どうしたら強くなれるかを。

 考えたはずだ。そして、見つけたのだろう。

 特定の人物だけではなく、様々な人から訓練させてもらう。

それが、伊吹が強くなれた理由だ。

 やっぱり、俺のしたことは間違っていなかった。

 とはいえ、安堵している暇はない。

「そう。だから僕は本気で司に勝つ!! はあああぁぁぁぁぁ!!!!」

 隙が無い。

 加速系の技でこんなにも苦戦するとは思っていなかった。

だけど、ここで負けるわけにはいかない。

 俺の技で打ち消す!!

「……!!」

 精神を統一。

 俺の剣、能力消滅剣スキルキラーの技を放つ。

これで、速さは打ち消せるはず。

 だが、

「かかったね、司」

「……!?」

 突撃の速さは打ち消されるどころか、まだ増していた。

 しまった!!

 俺は急いで防御態勢に入るが間に合わず……。

「かはっ!!」

 伊吹の攻撃を腹部に受け、後方五メートルほど吹き飛ばされる。

 まさか、速さを生み出していたのは技ではなく伊吹自身だったとは。

これは中々響くぞ……。

「司も気が付いたみたいだね。僕の速さが何であるか」

「ああ。中々やるな、伊吹」

「ありがとう、司。僕も司の持っているスキルキラーそれの弱点が分かったよ」

「そうか……気が付いてしまったか」

 そう、スキルキラーにも弱点はある。

 スキルキラーは能力や魔法を打ち消すことは出来ても、身体のみ生み出された技には意味をなさない。

伊吹はそれを瞬時に予測して、ゲイルショットで俺に攻撃した。

 仲間がこんなにも強敵だとは思っていなかった。

「どうする、司? このままでは体力消耗するだけだよ」

「まあ、確かにそうだな……。相当集中しているからな」

 してやられたな……。

 完全に伊吹のペースだ。スキルキラーではこの状況を打開出来ない。

なら、戦い方を変えるだけ。

 ここで諦めるほど潔い人ではない。むしろ、ここから本番だ。

「だけど、俺にだって策はある。覚悟しろ、伊吹。俺の本気はまだ始まっていない!!」

「うん!! いつでもきていいよ、司!!」

 そう言って伊吹はにこっと笑う。

 さて、ここが正念場だ。

 どこまで伊吹のペースに乗っているか……。

いつ俺のペースに持っていこうか。

 まだだ。まだ、その時じゃない。

 別に手詰まりではない。

むしろ、俺は安心している。

 教えてやるよ、伊吹。

 今までのは伊吹を動揺させるための作戦だったということを。

「行くぞ!!」

 俺はスキルキラーを強く握りしめ、ゆっくり・・・・伊吹に振り下ろした。

「こんな攻撃じゃ――っ!?」

 伊吹がこの試合初めて動揺を見せた。

 さぞかし驚いているだろう。

なぜなら、俺の攻撃が一瞬消えたように見えたから。

 スキルキラーの衝撃を伊吹は受け、後退した。

「どうして、今の攻撃が受け止められなかったの……」

「錯覚だよ、伊吹」

「さ、錯覚!?」

 伊吹はより動揺の表情を見せる。

「ああ、錯覚だ。伊吹、お前は速さに慣れ過ぎているんだよ」

「速さに……?」

「まあ、自分では気が付かないだろうな。俺も昔そうだった時期があったから分かる。

 伊吹の脳が速いということを前提に認識しているんだ。だから、遅い動きを感覚として受け取ると正常に認識できなくなる。

 そして、脳が遅い動作に対応している内に次の動作に移ったから認識が追い付かず消えたように見えたんだ」

「そんなまさか……今までこれを見越して僕の攻撃を?」

「ああ。でも、今までの動揺は嘘じゃない。強くなったな、伊吹」

 俺は伊吹の問いに答えた。

 今だって驚いている。こんなにも速い突きは初めて見た。

だけど、伊吹にはまだ穴があったのだ。

 経験の差という名の穴が。

「さて、伊吹。形勢逆転だ、どうする?」

「さすが、司だよ……。僕もまだまだだね」

 伊吹は俺の行動に感嘆しているものの、まだ諦めようとしていない。

それでこそ伊吹だ。

 俺もそれに応えて絶対に勝つ!!

「だけど、まだ終わりじゃないよな?」

「もちろん、そのつもりだよ!!」

「良かった。勝負だ、伊吹!!」

「望むところだよ!!」

 俺達の試合はまだ始まったばっかりだ。

 


 

 

 

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