第二話『神人少女の願い』4
悔しい……悔しい……。
私――柊成実にはその思いしかなかった。
『お前に、誰かを救う事が出来るのかよ?』
司の言葉が私の中で蘇る。
分かっていた、自分は誰かを救う事が出来ない事を。そして、自分は最弱である事を。
今までそれをあえて、分かっていないようにしていた。
だが、あいつのせいで考えてしまった。分かってしまった。
しかも、よりにもよってあいつなんかに……!!
今の私には悔しいと言う感情しかなかった。
ただ、悔しい。
自分でもおかしいと思うくらいに。
私は涙を流しながら走り続け、気付けば闘技場にいた。
いつもは賑わっている闘技場は何故か今日は誰もいなかった。
「あいつに、私の気持ちが分かってたまるか…………」
独りでそう呟いていた。
もう、自分でも分からない。少し怖いと思ってしまう。
私は細剣を構えた。
『練習用の戦闘兵を配置します』
そのアナウンスと同時に、闘技場に沢山の藁で出来た戦闘兵が現れる。
その戦闘兵には戦う意思はない。また、抵抗する意思もない。
ただ、斬られるだけものだ。
「くそっ!!!!」
私は無我夢中に戦闘兵を斬って斬って、斬りまくった。
藁で出来た戦闘兵は一度で崩れていく。
私はそんなもに八つ当たりをしていた。
この気持ちが紛れるわけもないのに。
悔しいだけのために。
斬られた戦闘兵は処理され、また新しいのが出てくる。
「どうして……!! くそっ!!」
私の気は収まらず、余計に悪化していった。
それと同時に戦闘兵に攻撃が当たらなくなる。
「……!!」
徐々に斬れる数が少なくなり、そして一つも斬れなくなり私は地面に倒れる。
酷い戦い方だと思った。自分らしさなんて一欠けらもなかった。
『戦闘終了します』
そのアナウンスが流れ、戦闘兵は消えていく。
残ったのはただ泣いている私だけ。
「どうして……どうして、私は弱いの……? どうして……なの?」
ついに、私は自分の弱さに絶望していた。
涙は止まらない。
私の気持ちはもう滅茶苦茶だった。
何かもが嫌になりそうだ。
「あの人に憧れて……誰かを救おうって思う事は……間違いなの?」
私は昔の事を思い出していた。
救われる側だった私に希望を与えてくれた、あの人を。
今もあの人に追い付きたくて頑張っている。
追い付いて、お礼がしたい。
私を救ってくれた事、変えてくれた事……他に色々な事。
だけど、私は……。
「そんなのは、やっぱり私には無理なのね……」
自分はただのわがままなのだ。
今まで頑張って来た自分が馬鹿らしく思えてきた。
昔のようにただの女の子で良かったかもしれない。
あの時みたいにお花を摘んだり、友達と遊んだり、静かの場所で読書したり……。
むしろ、それの方が良かったのかも……。
私にはそれが合っている。
でも……それでも……私は……。
「強くなりたいよ……」
そう思った。
やっぱりあの人に追い付きたい。
ありがとうってちゃんと言いたい。
そして、戦ってみたい。
あの人と一緒に誰かを救いたい。
様々な願いが私の中にはあった。
「どうして、私は最弱なの……?」
でも、私はこの気持ちが一番強かった。
いつも身近に感じているこの闘技場、教室、そして私の部屋が急に遠くなった気がした。
私はどうしたらいいの……?
私はしばらくの間、泣きながら日が暮れるのを見ていた。
その日、結局私の気持ちは晴れなかった。
悔しいという気持ちは当然消えるはずがなかった。