学園での日常
「兄さん…学校に着く前に相談したいことがあるのだけど…」
家を出て、しばらく歩いたぐらいのところで、麻奈が切り出してきた。
「なんだ、改まって?」
「今度から、枯葉さんとココちゃんが住むことになったでしょ?だから、食事量などが増えると思うから、お金のことを父さんに相談してほしいのだけど…?」
雄樹たちの父は、家には一緒には住んでいなかった。企業にそれなりに貢献しているみたいで、引っ張りだこのように転々と移動していた。だから、それなりの収入があり、雄樹たちへの仕送りも余裕がありはした。
「あぁ…そういえば、そうなるのか…考えが足りてなかったな。すまん」
雄樹が、麻奈に謝った。
「ん~ん。そこは、いいのだけど…それに、私も枯葉さんやココちゃんと暮らせることに、わくわくしてるからね」
笑いながら、麻奈が答えた。
「今まででも、二人で暮らす分には余裕がある仕送りではあったのだけど、やっぱり、住む人が二倍だと、無理があると思うから…」
「だな。でも、あいつに電話しないといけなくなってしまうってことになるんだよな…それに、増やしてもらう説明もしないといけない訳だし…」
雄樹は、苦い顔をしながらつぶやく。
「兄さん。自分の父なのだから、あいつ呼ばわりしないの」
「なら、麻奈が連絡するか?麻奈が電話かけてお願いすれば、説明不要で一発了承だと思うぞ?」
雄樹がいじわるく笑いながら言うと、
「あはは~…そこは、ほら…兄の務めといいますか~…なんといいますか~…」
笑顔をひきつらせながら、困った風に言う。
「はいはい。わかってるって。ともかく、その件に関しては、昼休みにでも電話してみるか」
「うん。お願い」
ほどなくして、途中から会う他の登校生徒達に混ざり、挨拶を交わし、話しながら学校へ向かった。
下駄箱に靴を入れ、二階のクラスに向かう。その時…
「おっはよ~♪雄樹、麻奈」
「よっ、お二人さん。相変わらず、仲良く登校だな」
二人に向けての声が二つ。
「姫と凪か。おはよう」
「姫ちゃん。凪さん。おはよう~」
二人も、声の主たちに返事をした。
最初の挨拶の主、梵 姫華…茶色みがかったショートヘアー、スタイルが良く身長は雄樹より少し低め、顔立ちの整った持ち主。
もう一方は、杜若 凪…雄樹よりも高く、ほぼ茶色な髪色。髪の長さは雄樹と同じぐらいだろうが、前髪を少し上げている。
二人は幼馴染で、名前と性格にも一癖があるコンビとして有名である。
一癖という、それは…
「今日もかわいいね~♪麻奈は」
「そう言ってくれるのはうれしいのだけど…姫ちゃん。でも、毎日抱きつかれるのは、ちょっと…」
姫華は、麻奈に抱きついていた。
「いいじゃない、減るものでもないのだから」
「あぅ…」
「あ~も~、かわいい~♪お義兄さん!妹さんを、ボクにください。絶対に、幸せにしますから」
姫華は、抱きつきながら雄樹を見て、熱弁した。
「誰が、お義兄さんだ…お前なんぞに、出来た妹をやるか…」
「ぶ~…シスコンもほどほどにしないとだめだと、ボクは思うけどな~」
「シスコン以前の問題だろうが…普通に考えて、女のお前がいうセリフではないだろ」
「それは偏見ってものよ。それに、恋愛の壁は高い方がいいでしょ?」
「高すぎるだろ!?いいから、麻奈を開放してやれ…まったく、毎日、飽きもせずに…」
「は~い…」
姫華が、しぶしぶ離れる。それにより、麻奈が一息つく。
「ほんとに、姫は、麻奈が好きだよね~」
「もちろんよ。初めて、麻奈を見たときにびびっと来たくらいよ」
その様子を見ていた凪がそう言うのだが…
「…で、お前は、なんで俺の肩に手を掛けてるんだ?」
「ん?それは、俺が雄樹を好きだからだよ」
「臆面もなく、変なことを言うな!そんなことは知らんし、そんな趣味もない。気色悪いから離れろ」
「はいはい。仰せの通りに」
ぱっと、凪が離れる。
(この二人は、離れろって言えば、すぐに離れるんだよな…それに、出会いがしら以外、普通に接してくるからよくわからん…)
「あはは♪凪が振られた~」
「そっちこそ、振られてるだろ?」
「ボクの方は、直接的に本人からは言われてないから大丈夫だもの。まだまだ、チャンスはあるってものよ」
「俺だって、拒まれたからと言ってあきらめないから問題ない」
姫華と凪が張り合っていた。
「いや…そこは、素直に諦めようか…」
雄樹も、毎日のこととはわかっていても、対応につかれていた。
姫華の百合っ気と凪の薔薇っ気が、有名な一癖である。
こういうことを、公の場でも言うのだから冗談なのか本気なのか分からないが、他の恋愛話がない所為か、本気という方面で捉えられていた。
だから、二人を知らない者たちが二人だけで歩いていると恋仲だと間違われることが多いが、この二人を知っている者たちが見ると、半ば残念なものを見る感じな視線になっていた。
(ほんとに…冗談だとは思うが、毎日、よくやるな…しかも、俺たちにしか、こういう態度をとらないから、なお性質が悪い…)
「それじゃ、そろそろ教室にに向かうぞ。チャイムが鳴っては、意味がないからな」
「はい、兄さん」
「あいよ~」
「うい」
各々が返事をし、二階の教室まで並んで向かった。