幕開け
兄妹が呆然としているさなか、突然現れた人物(?)は挨拶からさらに話始めた。
「儂は、稲成之命。五穀豊穣の神を務めている者じゃ」
「は?神…?」
「神って、あの神様?」
雄樹と麻奈は聞き返した。
「そうじゃ。まぁ、信じれないというのも無理はない。だが、実際に神なのじゃ。それで、そこに座っておる狐も神じゃな」
稲成之命が指を向け、兄妹もそちらに向けた。狐(神)が自分に向いたことに喜んでか、また、尻尾を揺らしていた。
雄樹は、狐(神)を軽く見て、稲成之命に顔を戻し、麻奈を背中に隠すような感じで訪ねた。
(お兄…)
狐(神)は、それを先ほどと違って、睨むように見ていた。
「今のところ、信じる要素が少ないが、だからと言って不思議なことが起こったことも事実だしな。百歩譲って、今の言葉を鵜呑みにする。なら、その神様たちが俺たちに何の用なんだ?」
「その判断は助かる。だが、そう警戒されるのも、ちょっと傷付くの…」
そういう割に、傷付いた素振りもなく、
「そこの狐も神と言ったが、実は、生まれたばかりなのじゃ。さっきの光がそのことじゃな」
「生まれたばかり?神様は生まれるものなのか?」
「ふむ…細かく言うと、儂の意思で作られて生まれた、というのが正しいかの?」
稲成之命が、目を閉じ、首を軽く傾げてさらに続けた。
「まず、お二方…神様が、どういう経緯でできてくると思っていた?」
先に、麻奈が、
「えっと…考えたことなかったけど、人の願いで、かな?」
続けて、雄樹が、
「ん~…信仰心か?」
と、答えた。
「ふむ…雄樹の答えも間違いではないかもしれぬが、それは、もうちょっと後のことじゃな。麻奈の方は、半分正解じゃ」
(ん?)
そこで、雄樹がしゃべった。
「ちょっと待て。確かに、あんたの名前は聞いたが俺たちは名乗っていないぞ。なんで、知っているんだ?」
その指摘に、稲成之命は焦った。
(う…)
「あっと…えっと…それは、その~…」
と、そこで麻奈が、
「神様なんだから、知ってて当然なんじゃないの?」
「そ、そうなのじゃよ…神なのだから、知ってて当然じゃよ…」
「ふ~ん…口調が、少し変わってないか?」
「んっん~…気のせいじゃな」
咳払いし、目をあらぬ方向に向けながら答えた。
(嘘が下手だな、こいつ…)
「ともかく、今は、儂のことより、こやつのことじゃ」
(逸らしたな…まぁ、今は乗っておくか…)
「こやつは生まれたばかりで、生まれた発端は、雄樹の願いなのじゃ」
「俺の?」
雄樹は、疑問に思い首をひねった。
「そうじゃ。儂が作った…というか、力を分けた分身みたいなものかな…それに願いを言った雄樹でこやつが生まれたのじゃ。いうなれば、雄樹が父で儂が母の、夫婦みたいなものかの?♪」
「夫婦?!」
ぴくっ…
稲成之命のセリフを聞き、麻奈が声を上げる。それと、狐(神)も反応していた。
次の瞬間、狐(神)は稲成之命の手を噛んでいた。
「痛い痛い!何をするのよ、あんたは?」
{うるさいのです。変なことをいうあなたが悪いのです}
雄樹と麻奈は、どこからの声かわからず、辺りを見回した。
「さっきの声…聞こえたというよりは、頭に響いた感じな…」
「うん…私も、そう感じた…」
二人は、稲成之命と狐(神)に目線を向けた。
稲成之命と狐(神)は、睨み合っていて、
「変なことって…まず、あんたは、わたしの力が元なのだからね。それなのに、かみついてくるなんて…」
{そんなこと、知ったことではないのです。お父さんの願いであたしは生まれたのです。それ以上でもそれ以下でもないのです}
「お、お父さん?!」
また、麻奈が声を上げた。
(あ~…なんか、さらに面倒なことに成った様な…)
雄樹は、そんなことを思いながら、一先ず、事の成行きを見てることにした…