枯葉の不安と、ちょっとした喜び
「ん~…おまえら、席につけ~…」
雄樹たちが話している矢先に、覇気がない声と共に、担任の七原 柚が入ってきた。
「なんだ、お前たち、どうし…ん?狐…?」
柚は、クラスの微妙な空気と、場違いな狐が居ることに気付き、ココ(狐)を数秒見た後に、
「よし。ホームルーム始めるぞ」
柚は、あっけなく流した。
「いやいや、七ちゃん…それで、いいの?聖職者として…」
すかさず、凪が突っ込みを入れる。
「凪…いつも、言ってるだろ。かわいらしい呼び方で、気安く呼ぶなと。七原大先生と呼べ。それに、今日は気分がいいんだ。そんな日に、あからさまな問題ごとに、突っ込む訳ないだろ。いいから、席について進めさせろ」
(気分がいいのに、さらに、持ち上げさせるんだ…)
クラス一同が、心の中で突っ込みを入れた。
「その狐のことは、私が不機嫌なの時に聞くから問題ない。つまり、保留ということだ」
「え…?それって、なおさら、良くないんじゃ…」
凪が、また、突っ込もうとしたが、
「いいから…なんだ?私を、今、不機嫌にさせたいのか?」
柚が、凪を睨みながら、凄みを入れてきた。
「いえ、滅相もありません。七原大先生の仰せの通りに!」
凪が直立で返答する。
「よし。では、始めるぞ~」
その合図のもと、ホームルームが始まる。
(七ちゃんが、ああいう性格で良かった…普通の教師だったら、こうはいかなかっただろうな…でも、ココの所為で凪が燃えた件…燃えたのに外傷がなかった件…
次の授業の時に、いろいろと枯葉に聞かないといけなさそうだな…あぁ、もぅ…安請け合いしてしまったかな…)
雄樹が苦悩している中、ココはそんな雄樹を不安げに見ながら、ホームルームは過ぎて行った。
枯葉は、家の庭で過ごしていた。
「へ~…たまに、麻奈があなたたちにご飯をあげるのね」
野良猫たちに囲まれながら、神都家の近況などを聞いていた。
「くすくす。真面目でもあり、やさしい子ね」
猫たちの話を聞きながら、楽しそうに枯葉は聞いていた。しかし、しばらくして、
(ほんとに、これで聞こえるのか?枯葉…)
雄樹からの念話が届いた。
「あ…雄樹から?あなたたち、ちょっと、好きにしてちょうだい。噂をすればってことかな…まぁ…話の内容は、ココのことでしょうけど…」
少し、ため息をつき、雄樹の念話に答える。
(早い、念話ね~。暇で、わたしと話したくなったの?」
(お、通じた。そんなわけないだろ…ココの件で、話をしたいからしたんだ)
(やっぱりね…今は大丈夫なの?朝言ったように、時間が止まってるわけではないのよ?)
(あぁ…今は、授業中だから、そこまで問題ではない。少し、居眠りしてる感じで机に伏してる)
(あら…1時間目からとは、不真面目だこと)
(そうも言ってられないんだよ…)
少し、雄樹のトーンが落ちたことに気づき、
(初日から、問題が起きたみたいね…)
枯葉のトーンも下がる。
(それで?ココが何をしたの?)
(あぁ…友達を、燃やしたぞ。あれは一体なんだ?)
(へ~…もぅ、狐火すら出来るのね)
(狐火?)
(そう。日本の狐話などで、よく出てくる代物よ。狐の妖怪が使うや道案内で灯す火など…まぁ…狐の逸話では付き物の類よ)
(その狐火とやらを、ココが使ったと解釈していいんだな)
(えぇ)
(その狐火とやらの名はわかった。なら、あれは火の一種なんだよな?)
(ん~…そうとも言えるし、そうでもないといえるかな?)
(あやふやな答えだな。ちゃんと、答えてくれ)
(わかってる。雄樹の解釈の通り、あれは火の一種ではあるわ。燃えやすい物…紙などだったら、簡単に燃えるね)
(なら、なんで、友達が燃えたのに外傷、および、服などは燃えなかったんだ?)
(それは、人の体に害を成すという条件があったから、そういう結果が出たということ)
(体に害を成す?)
(神の力は、はっきり言って、使い方によっては危険でしかないわ。ココが燃やしたようにね…だから、制限みたいなものがあるの。神の力は、生き物の精神・身体などに害を与えることはできない仕組みなのよ)
(今回は、友達…つまり、人の体に纏った狐火だから、友達には傷もなく、服も燃えなかった…ということか?)
(そういうこと)
(でも、熱がっていたぞ?)
(神は、人に罰を与えるとも言うでしょ?それと同じ、それ相応のことは起こるの。今回で言うなれば、狐火に包まれたみたいだから、やけどなどはなかったけど、熱さは感じるということ。そうね~…熱めのお湯を浴びるみたいなものかしら?傷付けないけど、罰を与える…結構、難しい境界なのよ…)
(そこのところはよくわからないが…でも、燃えたけど人にはそれほど害がないと考えていいんだな?)
(えぇ。そこは、大丈夫よ。何なら、何回も燃やしてもいいと思うわ。ただ、熱いことではあるけどね)
(いや、それは必要ないこと…いや…たまには、あいつを懲らしめてもいいかもしれないな…)
(何があったのか、わからないけど…ほどほどに、よ…)
雄樹の返答に、さすがの枯葉もちょっと、困惑した。
(わかってる。半分、冗談だ)
(半分って…)
(まぁ、今回のことはわかった)
(でも、ついでだから言うけど、物が燃えるということは変わらないからね?直接的には害を与えない。でも、間接的なら危ないってことよ。人だけを燃やしたってことは、コントロールは出来てるみたいだけど、紙などが燃るかもしれないということには注意してよ)
(わかった。ありがと)
(お礼はいいわ…わたしが最初のきっかけではあるもの…)
(それでもだ…枯葉は、ちゃんと、話ができるからな。そういうところは、常識的で助かる。俺の周りは、変な奴が多いからな…それじゃ、今回はここで切るぞ)
(えぇ。また何かが起こったら、聞いてちょうだい)
(ん。その時は、また、頼む)
ここで、念話は途切れた。
「まったく…ココは、何をしてるのやら…」
枯葉は、ため息をつき、
「でも、ふふ…頼むと、常識的で助かる、ね…」
枯葉が笑い、1匹の猫が気付き近づいてくる。枯葉はその頭をなでながら、
「神相手に、変なこと言うわ。面倒事を持ってきたのはわたしなのに…」
少し、嬉しそうにつぶやいていた。