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十一章『交差する意志』

 首都にやって来てから二日目の夜。カリクは、深夜に決行する、本部基地への潜入に備え、レインと共に宿で休んでいた。レインはベッドに身体を預けていて、カリクは部屋の端にある机で銃の手入れをしていた。

 “声”が飛び込んできたのは、そんなときだった。

『カリク。首都にいるなら、今から言うことを聞いてて』

「サリア?」

 反応は早かった。幼なじみの声に、うつむけていた顔を上げる。

「……どうかしたの、カリク君。急に、サリアちゃんの名前なんて口に出して」

 突然、声を発したので、レインが訝しげな表情を向けてきた。彼には、サリアの声が届いていないようだった。

「“オモイノチカラ”だ。あいつの声が聞こえた」

「本当か? 俺っちはなんにも聞こえないけど」

「お前には呼びかけてないからだろ」

 首を横に傾けるレインへそれだけ返し、サリアの呼びかけに集中しようと自分の内側に気を向ける。彼女の声が、心に響く。

『私を助けようとしてくれている軍人さんがいるの。きっとカリクにも協力してくれると思う。だから、今日の深夜十二時に、本部基地の正面から真っ直ぐいった場所にある公園へ来て』

 呼びかけの中身に、カリクは眉をひそめる。優しすぎるサリアの性格を考えると、疑いたくはないが、罠の可能性が頭に浮かんだ。

『でも、カリクが罠だと思うなら来なくてもいい。けど、私はその軍人さんを信じてるから、カリクにも信じてほしい』

 しかし、続けてきた言葉で、決心をつけた。彼女がそこまで言うのなら、信じてみようと思ったのである。それに、もし本当に協力してくれるのならば、逃すのはもったいない。

『何回か、繰り返すね』

 そう前置きがあり、同じ内容が数回繰り返された。少しでも、こっちに届く可能性を増やしたいのだろうとカリクは踏んだ。

 最後の繰り返しが終わると、“声”はそこで聞こえなくなった。待ってみても、もう何も響いてこない。カリクは、意識を自分の内面から外に戻す。

「行くところができた。一旦、本部基地への乗り込みは見送る」

「はあ?」

 唐突な計画変更に、レインが素っ頓狂な声を上げた。

「サリアから、協力者の存在を知らされた。向こうがこっちと会いたがってるそうだ」

「協力者って、それ軍の奴だろ? サリアちゃん、脅されて言わされたんじゃないか?」

「いや、脅迫はない。サリアの“力での声”の内容は、発信された相手にしか分からないから、サリアは伝えたと偽れる。罠なら、はっきりと俺に罠だって言うだろう」

 レインが抱いた疑惑を否定する。サリアの“力”なら、強要されたものとまったく違う言葉を発信することが可能だった。

「そうなのか。でも、それなら、サリアちゃんが騙されてるってことはあるんじゃないか? サリアちゃんが気づいていないだけで」

「それは確かにありえる」

 今度は、肯定せざるをえなかった。ただ、それだけでは口を閉じない。

「だがサリアは、はっきりとその協力者を信じると言った。俺は、あいつを信じたい。それに、たとえ罠だったとしても、なんとか乗り切ってやる。本当に協力者だったのに、会わなかったなんてことになる方がもったいないしな」

 その口調は、強かった。協力者を信じたサリアを、信じたのである。

「そりゃそうだけど、ドジを踏んだらそこで終わっちまうかもよ。罠だったら、研究所にいた奴らと違って、油断も驕りもないだろうし」

 しかしレインは、いい顔をしない。内情に明るいがために、余計に不安があるようだった。

「そのときはそのときだ。嫌だったら、お前はこなくていい。協力も無理強いしない」

 それでも、カリクの決心は揺るがなかった。レインが、あきらめからため息をつく。

「まったく、強情だね、カリク君は。乗った船を、途中で降りたりはしないっての。最後まで協力するよ。俺っちには、俺っちの目的もあるし」

 目的については初耳だったが、カリクは深く問いただしたりはしなかった。代わりに、

「正直、助かる。悪いな、レイン」

 お礼を口にした。レインが、目を丸くして固まる。

「なんだよ、その反応」

 カリクが指摘すると、レインは頭をかきながら、答えた。

「いや、カリク君からこんな素直に感謝されるとは思ってなかったから」

 その言葉を聞き、カリクはしばらく記憶を探った。至った結論を口にする。

「確かに、まともに礼を言った覚えはないな。まあ、別に俺だって普通に感謝の言葉ぐらい言うさ」

 レインは納得いかなさげに、眉を寄せていたが、無視する。

「とにかく、十二時に言われた場所に行くぞ。戦闘の準備も一応しておけ」

「あいよー」

 レインが、返事とともに手元でナイフを一回転させる。カリクは軽くうなずき、自分の銃へ目を落とした。そういえばと、ふと思う。

(人に対しては撃ったが、命を奪ったことはないな。この先、もしかしたら……)

 頭によぎる、『迷うなよ』というレインの言葉。人殺しにならないといけない瞬間が、訪れるかもしれない。そのとき、自分ならどうするか、確固たる意志で思う。

(サリアのためなら、迷わない。容赦なく、引き金を引く。たとえ、命を奪うことになっても)

 少女のための、決心だった。




 深夜十二時。昨晩と同じように、宿を抜け出したカリクとレインは、指定された公園へとやってきていた。

 軍事都市とはいえ、公園は平凡なものだった。草木が外周を覆い、端にはブランコや砂場、中央にはすべり台がある。今は深夜のため、本来ここを使うべき子供の姿はない。

 巡回している兵士に見つからないように、二人は木々の影に隠れていた。

「さて、来るかね?」

「向こうが本当に協力者ならな」

「……怖い言い方するね、カリク君」

 内緒話の音量で言葉を交わしていると、公園の入り口に、人影が現れた。

「……あれか?」

「あれだろうな」

 首を動かして周囲を見回している姿を見て、カリクは確信した。いつでも銃を抜けるように手を添えながら、その人影の後ろへと回り込む。レインには、前から行くように指示した。

「サリアの協力者か?」

 二人で挟んだところで、声をかけた。人影は二人ともを見れるように、身体を横向きにした。カリクの目に、金髪のポニーテールが映る。真一文字に結ばれた硬い表情に、見覚えがあった。

「な、お前は……」

 サリアを攫った張本人の一人である、女軍人だった。カリクの姿を認めると、彼女は両手を上げた。

「カリク=シェード。言いたいことは山ほどあるだろうが、この場は怒りを抑えてくれ。時間がもったいないのでな」

 語り口は淡々としていた。生真面目な印象を受ける。

「……カリク君、知り合い?」

 反対側にいるレインが口を挟んできた。

「ああ。こいつは、キュールでサリアを攫った二人組のうちの片方だ」

「ああ、なるほど」

 カリクの返答に、一旦納得した様子を見せてから、

「えっ!? そいつが、なんでサリアちゃんの協力者に!?」

 そこに気づいて声を上げた。カリクと女軍人が揃って注意する。

「「静かにしろ」」

「あ、はい……」

 レインは素直に謝った。

「……でも、お前の言うとおりだ。あんた、なんでサリアの逃亡に協力しようとしている? 軍人なら、ミッドハイムのやることには絶対服従のはずだろ」

 彼の意見に同意を示し、カリクが尋ねる。敵であり、そもそもサリアを首都へと連れてきた人間が協力者を名乗るというのは、違和感を覚えざるを得ない。

 その問いに、女軍人はやや間を空けてから答える。

「あの子を、サリアを助けたいと思ったからだ。それ以上でもそれ以下でもない。これだけで納得してくれとは言わないがな」

 語調は強く、目つきは鋭い。冗談ではなさそうだった。

「ずいぶん、利己的な軍人なことだ。あんた、それでよく軍に居れたな」

 罠ではないとほぼ確信しながらも、あえて嫌味を放る。

「ちょっ、カリク。あんまり刺激しない方がいいんじゃないか?」

 女軍人よりも先に、レインが動揺を見せた。それに対し、当の本人は顔色一つ変えない。

「私が軍人になったのは、“護る”ためなのでな。けっして、女の子を攫うためではない。それだけのことだ」

 ブレはなかった。彼女の信念において、軍人であることは、したいことをする方法の一つでしかないのだろう。

(真に仕えるは、自分ってわけか)

 心が、共感する。カリクの考えそのものだった。

「なるほど。サリアが信じるわけだ。いや、サリアじゃなくても、信じるだろうな」

「それは、褒めているのか?」

「ああ。そう受け取ってもらっていい」

 女軍人の問いかけに、カリクは躊躇なくそう返した。すると、彼女は少し頬を緩めた。

「面白いな、君は。実に、はっきりしていて。私の知り合いにも、その誠実さを見習ってほしいものだ」

「いや、カリク君は誠実っていうより、馬鹿正直だと思うぜ」

 軽口を叩いたレインに、カリクは同じような調子で反撃する。

「お前はただの馬鹿だけどな」

「……さすがに酷いぜ、カリク君」

 元気が激減した声を聞くに、わりとショックを受けたらしかった。そちらは放っておいて、女軍人に向き直る。

「で、あんたはなんで俺たちと接触しようと思ったんだ」

 さっそく本題へ触れる。何か、策があってのことなのか、それとも別の意図があるのか。

「待て。その前に、確認しておきたいことがある」

 しかし、彼女は回答の前に問いを寄越してきた。

「こっちの少年は、何者だ」

 レインを指差す。彼女は、彼のことを知らなかった。

「俺っちは……」

「そいつは、レインだ。知らないかもしれないが、この国の秘密機関で人体実験と軍人教育をされていたそうだ」

 話し出そうとしたところを遮り、カリクが情報を伝える。レインが眉を潜めたが、気に留めない。

「レイン……?」

 女軍人が反応を示したのは、名前だった。

「一つ訊きたいんだが、ガヌ=ロードという奴に心当たりはないか」

 カリクの聞いたことの名前だった。しかし、レインは違ったようで、

「あいつのことを知ってるのか!?」

 異常な食いつきを見せた。

「あ、ああ。一緒に任務に当たっていたからな」

 反応の強さに、訊いた女軍人もやや引き気味になる。

「そいつ、今どこにいるんだ」

 今までになく、レインは必死な様子だった。宿で言っていた、“目的”という単語が頭をよぎる。

「ガヌなら、今は任務で首都から離れている。どこに行っているのか、私は知らない」

「いないのか……。悪いね、ありがとさん」

 戸惑いながらも、女軍人は情報を出した。それを耳にして、レインが落ち着きを取り戻す。

 やり取りを見ていたカリクが、疑問をぶつけた。

「そのガヌとかいう奴とは、どういう仲なんだ?」

「……知り合いだよ。ちょっとした」

「とても、ちょっとしたって表現で足りるような感じには思えないけどな」

「……それ以上は無粋だぜ、カリク君」

 どうやら、話す気がないようだった。相手を女軍人に変え、別の話題に切り替える。

「そういえば、あんたの名前をまだ聞いてなかったな。なんていうんだ?」

「そうだったな。私としたことが、失礼なことをした。私はシルラ=マルノルフ。軍での階級は中尉だ」

「シルラか。率直に訊こう。どうして、俺たちに接触してきた。何か、サリアを助ける策があってのことか」

 名前を聞くと、元の路線に戻った。カリクとしては、何よりも優先すべきはサリアだった。

「策があることにはある。ただ、私に拠るところの大きい作戦だ。一人でも実行はできるのだが、君らには先に会っておきたかった。サリアを逃がせるのに、本部基地で騒ぎを起こされては面倒だからな」

 続けてシルラは、自身の作戦を話し出した。掻い摘むと、任務と偽って、サリアを伴って首都から逃げるというものだった。

「なるほどな。確かに、一時的にはうまくいくかもしれない」

 カリクが感想を口にする。わざわざ一時的にと加えたのは、意図があった。

「だが、ミッドハイムはどんな手を使ってでもサリアを取り戻そうとするだろうな。あいつや俺の家族や、周囲の人間を巻き込むくらいは、容易にやってのける」

 シルラは否定してこなかった。彼女も、その考えを持っていたのだろう。

「……確かに、そのとおりだ。だが、まずは目下の危機を脱するべきだろう。対策を立てる時間は作れる」

 付け足しを聞いても、カリクは納得できなかった。サリアは、自分のために他人が傷つくのを嫌がるだろう。カリクに対しても、助けてくれるという信頼と、傷ついてほしくはないという感情がない交ぜになっているだろう。そうなると、他の人間を巻き込むわけにはない。

「そうか。助けるだけじゃない。ここで、終わらせないといけないのか」

 そこで、カリクは気づいた。本当の意味でサリアを助けるには、ただ基地から連れ帰るだけでは、不十分だと。

「あー……。だいたい想像つくけど、なに考えてるの、カリク君」

 レインは頬をかいた。おそらく、彼の予測に反さないであろう回答を、カリクは伝える。

「分かってるんだろ? ミッドハイムをなんとかしないかぎり、サリアは狙われ続ける。一旦首都から出たくらいじゃ、安息には程遠い。なら、ここで片を付けた方が効率的だ」

 正論であり、結論であり、無謀であった。レインが、引きつった笑いを見せる。

「……やっぱり、カリク君はおっそろしいね。間違ったことは、言っちゃいないけどさ」

「本気か、カリク=シェード。たとえ、武術や銃撃に秀でた中将クラスが二人がかりで戦っても、勝ちを拾えないであろう相手だぞ。勇気と蛮勇は違う。考え直した方がいい」

 軍王の力を知るシルラがら、反論が飛んできた。声はやや音程の高い、驚きを含んだものになっている。その止め方は、必死だった。

「さっき、貴方は自分で言ったばかりだろう。サリアのためにも、貴方は死んではならない。たとえ結果として彼女を助け出せても、貴方が生きていなければ、彼女にとってはなんの意味もないのだぞ」

 だが、カリクは折れない。

「誰が、死んでも助け出すなんて言った。言ってないだろ。軍王だろうがなんだろうが、サリアを残して俺が死ぬかよ」

 自信を持って言い切る。まったく根拠はない。そこにあるのは、ただただ強い意志。敵の強大さも何も、関係はなかった。

 すると、シルラが声を荒げた。

「……自惚れるなよ、カリク=シェード!」

 深夜であることを無視した音量だった。レインが思わず、彼女のいる方向の耳を片手で塞いだ。

「思い出して見ろ。キュールで、貴様はサリアを護れなかったではないか! そんな弱者が、軍王を相手にして死なずに帰るだと? 寝言は寝て言え! 貴様にまだそんな力はないだろうが!」

 シルラの顔がカリクを威圧するかのように、近づいてきた。だが、カリクは引き下がることなく、目を真っ直ぐに見返す。

「ああ。確かに、俺に力はない。ミッドハイムの足下にも及ばないだろう。でもな、そこであきらめられないんだよ。俺は、あいつのために今まで何もしてやれなかった。しかも、俺の勝手な理由で。だから、できることは全部やらないといけないんだ、俺は」

 その芯にあるのは、サリアだった。すべては、彼女のためなのである。

「お前の事情など知るか!」

 しかし、カリクの想いが詰まった言葉を、シルラは一言で切り捨てた。

「根は確かにあの子のためだろうが、現実を見違えるな。貴様は、死なない意志も持っているだろうし、それは確かに力に成りうる。だが、軍王はそれだけでなんとかなるほど甘い相手ではない」

 威勢良く話していたカリクすら、雰囲気に圧されて口を噤むほどの剣幕だった。

「最上の結果を焦るな、カリク=シェード。ここから逃げても、サリアは追われる。自分を護る人間が傷つくことで、あの子は苦しむ。それでも、今後、軍王をどうにかできれば幸せを運べるはずだ。だが、ここで貴様が感情だけで軍王に挑んで、死んだりしてみろ。それだけで、あの子は間違いなく不幸になる。そうしないためにも、貴様はまず冷静になれ」

 さっきまで、負けん気から迫られてもひるんでいなかったカリクだが、今は腰が引けていた。目だけは逸らしていないが、気圧されているのは明らかだった。。

 さらに、レインからも諭される。

「そうだぜ、カリク君。軍王に挑むのは、さすがに無謀すぎるぜ。ジーニアスにいたときに聞いたんだが、けっこう軍王に不満を持っている奴は多いみたいだし、奴と戦うのは、戦力が整ってからでもいいんじゃないか?」

「けど」

「けども、しかしもない。貴様はサリアを助けたい一心で思考が暴走している。頭を冷やすのだな」

 カリクの反論は、シルラに遮られた。

「準備が整ったら、さっき話した計画を実行に移す。サリアを連れ出して車に乗せたら、あの子から貴様らに連絡させるから、勝手なマネはするな」

 さらに、釘を刺される。カリクは顔を歪めた。

(一回、どこかに逃げおおせたところで、サリアに安全はこないじゃないか……)

 目の前の女軍人の意見が真っ当なのは、重々承知していた。それでも、心が納得しないのだ。サリアをただ逃がすだけではなく、自分の身も、周りの人間のことも心配しなくていい、そんな日常に戻してやりたい。そのうえで、“力”のせいで孤独に近かった彼女を、今度は一人にしない。勝手な理由で、距離を置いてしまったが、今はその愚かさを知っている。

「まあ、カリク君は俺っちがなんとかするよ。サリアちゃんのことは、あんたに任せる」

 釈然としない想いを抱えたカリクを置き去りに、レインがフォローを入れる。もう文句は言わない。言っても、無駄だろうから。

(何か、何か対抗策はないのか。強大な力を持つミッドハイムに、太刀打ちできる方法は)

 答えに、至らない。そもそも、答えがあるのかどうかも怪しかった。

「ああ、頼む。私も最善を尽くそう」

 悩む間にも、会話が進んでいく。反論の芽は見つけられない。

「では、私はこれで失礼する。一応、家の場所は伝えておこう。ただ、余程のことがないかぎりは訪ねてくるな。軍の宿舎なのでな」

 シルラがカバンから手帳とペンを出し、メモを書くとそのページを破った。レインの手へ渡す。

「ほいほい。いただいておくぜ」

 彼は、軽い口調とともに受け取った。直後、

「そういえば、さっき話したガヌって奴も、ここに住んでるのか?」

 声色をかなり低くして、尋ねた。今までになく、真剣な様子で。

「……いや。私のは女性用のところで、男は少し離れた別の宿舎で生活している。ガヌもそこだ。だが、さっきも言ったように、今は任務でいないぞ」

「いつ帰ってくる?」

 さらに、レインは詰め寄った。シルラが、ややのけぞりながらも返答する。

「分からない。どこに行ったかをまず知らないのでな。だが、一週間はかからない内には戻ると思うぞ」

「一週間、か。分かった。あんがとさん」

 前のめりをやめ、レインは礼を言った。シルラは訝しげな表情をしつつも、「どういたしまして」と受ける。

「とにかく、だ。一旦は私に任せろ。必ず助け出す。今日のところはお別れだ」

 最後にそう言い残すと、シルラは二人に背を向けて公園の出口へと歩き出した。振り返ってきたりすることはなく、そのまま暗闇へと消えていった。

「じゃあ、俺っちたちも宿に戻ろうぜ。今の感じじゃあ、あの人に任せるしかなさそうだ」

「……そうだな。納得いかないが」

 結局、最後までカリクは筋の通った反論も妙案も出すことができず、シルラの計画に乗っかるしかなかった。




 だが、カリクたちはまだ知らない。強力な助っ人たちが近づいていることを。

 きっかけはガヌ=ロード、率いるはニック=シェード。東部軍の一部が、首都に向かって最速で進軍してきていたのである。明日の夜前には、首都に到着できそうなほどだった。

 着々と、舞台は整いつつあった。

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