表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1話

─1─

日常といえば代わり映えのない日々。


小学生のころ私はそう思っていた、だけど中学生になると違った。


日常なんてものは自分の置かれた生き方に対し、

さまざまな状況が突っ込んでくるものだと。


そう、変わり映えの無い日々なんてものが存在するとしたら、

それは甘美な幻想なんだと。

私はふと、今になって中学時代を回想して思う。


─2─

キンコンカンコンというチャイムの音。


昼休みを告げる音、

クラスの真ん中の席に居る少年……御堂多聞は教科書を整え、

昼食の弁当を入れた袋をテーブルに置く。


多聞は傍目その黒いロングヘアーと整った顔立ち、

細い骨格から少女にしか見えないが、れっきとした男である。


だが、この頃の彼にはコンプレックスみたいなものは特に無く、

むしろ可愛いならいいじゃないと面白半分にヘアバンドをつけていた。


男子からはたまにからかわれるもののそれに対し笑顔であしらう、

ちょっとした意地悪な所が可愛いと男子にはアイドルとは言わないものの、

そこそこ評判ではあったが女子には「最悪に嫌味な女」と認識され、

あまり人気はなかった。


「あ、御堂、ご飯食べない?」

今日は一人で食べたいと思っていた多聞に声をかける一人の少女、名前は海襟エルカ。

金髪碧眼、髪型はポニーテールの少女、背は小柄で多聞の唯一の女友達で幼馴染である。


母が白人であり、その血を色濃く継いだハーフの姿は、教室内で人気がある……


と思わせ、その粗暴な性格から逆に男子の評判はそう、

「メスゴリラ・ザ・バイオレンス」で評判は一貫しており。


女子の評判は「頼りになる女性」という評価であった。


「エルカ?悪いけど私は一人で食べたいんだけど」多聞はエルカに辟易した顔で言う。


もとより多聞は孤独が好きなタイプで、

にぎやかな場所になると何を話せばいいかわからないからだ。


「そんな事言わないでよ、私達友達でしょ?」友達、

という言葉に多聞が弱い事を知ってるエルカはそれを突く。


「……わかったよ」少し嫌そうな顔をした後、多聞は弁当を持ち立ち上がった。


「そう嫌がらない、こんな美少女が一緒にご飯食べてあげようって言うんだからね?」


「よく言うよ」


やれやれと内心思いながらも、多聞はエルカの後をついて行った。


─2─


美術室や化学室密集している所。


そこの階段裏が2人が昼休みを過ごす場所であった。


「で、また今度の休みどうする?」


「どうするって、一緒にまたどっか行くの?」


「そうしないとアンタ家に引きこもりっきりじゃない、体に毒だし太るわよ?」


「う……」

太る、という言葉に多聞は反応する。

最近ちょっと遊んだネットゲームでギルドが内輪揉めの末破綻したのを見て、

ちょっとこんにゃくの醤油煮を自分でつくりヤケ喰いしたからだ。


流石にこんにゃくで太らないとは思っているが、それでも心配してしまう。


「解ったけど……じゃあどこに行くの?」


「そうね……隣の村までサイクリングには行ったでしょ?なら今回は……」

エルカはこめかみを指で押さえ、数秒考え込む。


エルカの考えは大抵ろくでもないから、多聞は心配になった。


「そうね、ちょっと山登りしながら釣りでもしましょ?」

エルカはにっこり笑いながらそう言った。


─3─

金曜の夜、多聞の部屋。


床は畳み、部屋は質素な木の壁で作られた、ボロマンションの子供部屋。


「釣りかぁ……」

多聞はパソコンでインターネットをしながら、明日の事を考える。


釣りとは言っても、やり方がいまいちわからないからだ。


道具とかは金持ちの神社の出である、エルカが持ってくると言うが、

多聞はインターネットで登山の事を調べる。


ついでに登山に関する漫画を読む。


内容は大抵こうだ。

・山を侮るな

・一人で山を行けば死ぬ

・経験者と一緒に山に行っても死ぬ

・それでも死ぬときは死ぬ


そんな情報ばかりが多聞の頭の中に叩き込まれ、不安感が多聞に芽生える。


多聞もエルカも中学生、それも2年になり立てだからだ。


時間を確認、まだ20時だと多聞は確認すると、エルカの家まで電話をかけた。

「もしもし?海襟ですが」エルカの母親の声がした。


「えっと、御堂です、エルカさんいませんか?」


「あー、多聞ちゃんね、ちょっと待ってて……エルカー?」


エルカの母がエルカを呼ぶ、だがエルカと思わしき足音もない。


エルカの母は電話を待機モードにしたのか、無機質だがやわらかい歌が聞こえ始める。


「はぁ……」

多聞はため息をつく、エルカはゲーム好きだ、

おそらくそれに熱中して親の声も聞こえなかったのだろう、そう考える。


「……御堂、どうしたの?」

そうして数分、そろそろ待機モードの歌もうんざりしたあたりでその歌が途切れ、

エルカの声が聞こえ始めた。


「うん、山いくのどうするのかなって気になっただけだけど……山って知ってる?登山経験者が一緒に居ないとものすごい危険で、死人だって出るんだって」


「……それで?」


「だから、誰か大人の人がいっしょにつかないの?」


「なんだ、そんな事?なら大丈夫よ、私のお父さんが一緒に先導してくれるから」

その言葉に多聞はほっとする。


「それならそうと言ってよ……はぁ、心配しました」


「え、ひょっとして私と山で2人っきりであんなことやこんなことするの、期待してた?」

多聞は電話越しで顔がわからないものの、

エルカの顔が凄く意地悪げな笑顔になっているだろう、と考える。


「期待してませんよ、そんなの」

実際には嘘であり、多聞はエルカの下着ぐらいなら見たいという男性的欲求はあったが、

それを口に出す事はなかった。


─4─

そして登山の日、エルカの父親の車に乗って山の入口までたどり着き、

それぞれ登山用の装備をする。


エルカの父は神社の神主という職にしては無駄に筋肉質であり、

神主と言わなければどこかのコマンドーにしか見えないぐらいの男である。


多聞は非常食や飲み物を大量に詰めたリュックを背負って、

これで何かあっても大丈夫と意気込み、他の2人の装備を見る。


だがそこで見たのは割とびっくりした光景であった。


2人ともショットガンを手にし、背中には多聞の倍ぐらいはある量の荷物を背負っていた。


「えーと……なんでショットガン?」

多聞は大体熊と闘うのだろう、というのは分かる、

だがエルカまで武装してるのはわからなかった。


「なぁに、熊が襲ってきた時大変だからさ、なぁ?」

エルカの父のサングラスが一瞬日光に当たりキラリと光る。


「ええ、当たり前よね」


「ってエルカ、そもそもお父さんは兎も角銃刀法は大丈夫なの!?」


「あはは大丈夫大丈夫、訴えられなきゃ大丈夫よ」

笑いながらエルカは言う。


「そういう問題なのかな……」

多聞はそう思ったが、それ以上言及せず、とりあえず2人の後について行く事にした。


─5─

「はぁ……はぁっ……」

登山道は険しく、結構足場も悪く運動神経の悪い多聞は何度か危なそうな状況に陥った、

だがエルカや父の助けもあり、

何とかへとへとになりながらも釣りをするための池までたどり着いた。


池は山の奥にあり、巨大な滝から来た水がこの池に溜まり続けているようであった。


辺りは木々が雑多に生え、そしてさまざまな鳥の鳴き声が聞こえ、

まるで日本でなく別の国のように幻想的な場所であった。


「さて、ここで釣りを始めるか」

エルカの父はすぐに荷物を降ろし、釣り道具を組み立てる。


多聞はあまり湿っていない地面にビニールシートを敷き、

エルカもキャンプ道具を組み立てる。


「こんな所があったなんて……」


「うん、面白い所でしょ?」


「でも登山道の正規ルートからちょっと外れすぎてない?」


「いいじゃん、大丈夫なんだしさ」


「うーん……」

帰り道の事で多聞は心配になるが、

エルカとその父親なら大丈夫かという信頼感はあった。


「おーい、釣り道具の組立終わったぞ?」

エルカの父が組立て終わったのを告げ、そして3人は釣り道具を持つ。


「いい、餌ってこうつけるのよ?」

エルカは多聞の釣竿に餌をつけながら言う。


「ありがとう、こういうの苦手だからね……」


「じゃあ、あっちの方で釣りしよう?」

エルカがそう言って多聞の手を引っ張り、滝の近くまで向かう。


2人はそこで釣り針を池にさっと釣り竿を振って入れた。


「エルカ」


「何?」


「エルカって昔からの付き合いだけどさ、不思議な子だよね」


「そう?私からすれば御堂の方が不思議な子よ」


「そうなのかなぁ……」

多聞は自分について見つめなおす、顔は美人、

女の子っぽいのはちょっと気になるが、男子をからかうのに使えるから気に入っては居る。


エルカはそろそろやめた方がいいと言ってるが、多聞は大丈夫だと考えていた。


どうせ自分を押し倒すぐらいの人間なんていないしと。


そう、ぼやぁっと考えていると、多聞の釣竿に、何かが引っかかってる感覚が感じられた。


「あ、来た!?」

驚いた多聞はリールを回し引き上げようとするが、

魚も引き上げられまいと必死になっているのか、リールが固く、いまいちよく動かない。


「て、手伝っていい?」

エルカはその様子に心配する。


「だ、大丈夫だよ多分!」

踏ん張りながら多聞は釣竿を引きながら、リールを巻き上げようとする。

段々とリールを巻き上げるペースは上がるものの、

多聞の顔にも疲れが見えてきた。


「うぬぬ……なぁっつ!」

多聞は気合いを入れた叫びを上げ、渾身の力で釣竿を引き上げる。


「はぁ……はぁ……」

引き上げられる釣竿、何が釣れた?と多聞は考える。


だが引き上げた多聞が見たものは……切れた釣り糸であった。


「……ごめんエルカ、私釣りに向いてないみたい」

多聞はがっくりして呟く。


「相手が悪かったのよ……たぶん……あっ、こっちにも来た!」

エルカも手慣れた様子で釣竿を上げようとする、だが魚の力が思ったよりも強く、

上手くリールが巻けず、釣竿も引けない。


「うわ、ひょっとしてこれ御堂が釣ろうとしたやつ……どこまで貪欲なのよこれ!」

エルカがそう言いながら必死に吊り上げようとする

だがイマイチ魚の動きに引っ張られる形となっており、難航する。


「この……この……このぉっ!」

相手の体力を消耗させながらリールを巻き上げ、ある程度まで引き上げたら、

エルカは相手の動きに同調するようにして魚を釣り上げた!


「やった!」

エルカは釣り上げた手ごたえを感じながら、動く魚がどんな魚か見ようと釣竿を近づける。


その魚は……


「……」



「……」



「痛ぇなコイツ、おい2個刺さってるぞ抜けよ」

そう、人の顔を持った魚、人面魚だった。


「……なにこれ」

多聞が驚く、UMA……普通なら見かけないだろう珍獣を目撃したからだ。

だが妙に、パニックにならず、むしろ思考が凍りついた感覚を覚える。


「……知らないわよ」

エルカが目を背けながら言う。


「おーい、抜けよ、抜けよー」

人面魚はそう淡々とした様子で言う。


「……うん、見なかった事にしましょう、とりあえずこの釣り針は抜けばいいわよね」


「うん……」

なんともはや微妙な顔を浮かべながら、多聞は相槌を打った。


─6─

結局その日、エルカも多聞もその後1匹も魚は釣れなかった。


もとより人面魚なんてわけがわからないものが釣れたので、

2人ともやる気をなくしたのだ。


「なんだったんだろうね、あれ」

多聞だ。


「ああ、エルカが釣ったって言う人面魚か?どうせセガの亡霊じゃないのか?」

エルカの父親は楽しそうな様子で言う。


「セガの亡霊?」


「御堂ちゃんは知らないか、昔セガで人面魚を育成するゲームがあったんだよ、セガがゲーム機を作る頃の話だけどな?」


「お父さん本当にセガ好きね……」

エルカが呆れた様子で言う。


「暴言吐いた人面魚だろ?きっとセガの亡霊だ、俺は見てないがそうに決まってる」

エルカの父はそう確信した様子で言った。


「はぁ……まぁ、なんだかんだで楽しかったけど……やっぱり、何か釣っとけばよかったかなぁ」

多聞は考える、魚を家族分釣ってくれば少しは親孝行になったかなと。


「うーん……あんなのが釣れたら誰だってやる気無くすわよ……」

エルカはへとへとになりながら、

帰りのコンビニで買ったミネラルウォーターを開けて飲みながら言う。


「だけどね……」


「ま、次釣りに行った時には色々釣ってけばいいだろう?」


「今度は人面魚なんて釣れなきゃいいけど」

多聞は心底そう思いながら言う、

しゃべる魚なんて食べるために殺したら気分が悪くなるし、

しかも人面魚ときたら食う前に吐き出すのがオチだ。


あれは湖の釣り人のやる気を萎えさせるための生物兵器だ、

どこかの研究所が作り出したものかもしれない、そう多聞は考える。


「……明日、普通の釣り堀に自転車で行こうか」


「うん……」


普通の釣り堀ならあまりに変な魚は居ないだろう、多聞もエルカもそう考えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ