紅蓮の青騎士
ぼちぼち連載を再開して行こうと思います。
週一ペースを守れるよう頑張ります。
では、どうぞ。
観客たちの称賛に包まれながらフィールドを後にした悠斗とアルウェンは、互いに健闘を讃えあい、そして今は控え室で話していた。無論、アルウェンの紫電が消失したことについてだ。
「ユウト君、私の雷撃をどうやって打ち消したのかね?」
「随分と直球で聞いてくるんだな」
「ずっと気になっているのでね」
悪びれずに言うアルウェンに苦笑しながらも、悠斗は口を開く。
「アレは俺が居合で放った真空波と、あんたの放った雷撃がぶつかり合って相殺しあったからだ」
「真空波……なるほど、見えない何かにぶつかったように見えたのは真空波だったのか」
アルウェンは顎に手を添えながら頷く。そしてふっと笑みをこぼして悠斗に向きなおった。
「剣の抜刀で真空波を生むとは……君は何処まで規格外なのかね?」
「俺からしたら、剣から電撃飛ばすあんたの方が規格外だ」
「何を言う。君のそれも、風の魔法とほぼ変わらないではないか。しかもエーテルを使わない分、なおタチが悪い?」
「エーテル?」
聞き慣れない言葉に、悠斗が首を傾げる。するとアルウェンは驚いた顔を悠斗に向ける。
「君は、エーテルを知らないのかね?」
「あ、ああ。俺が住んでた所ではそんなものは無かった……けど」
若干口ごもりながら言う悠斗に、アルウェンは再度顎に手を添える。
「ふむ、よっぽど田舎の出身であるのか、それとも……」
考える姿勢で悠斗をつま先から頭のてっぺんまで一瞥する。
「ど、どうした?」
「いや、何でも無い。そうだな……エーテルと言うのは、この世界に存在する眼には見えないエネルギーの様なものだ。この世界のあらゆるものに少なからず関わっているし、その多様性から私たちの日常生活を始め、深く人の生活に結びついている」
アルウェンの説明に、悠斗は現代で言う電気の様なものかと納得する。そう言えば、この町は中世の建築様式ではあるが風呂や照明などが現代的なものがいくつか普通に存在していた。実況者のマイクにしてもそうだ。
「なぜエーテルが存在しているのか、それは私には分からない。一説にはこの大地のずっと下にエーテルが生まれる場所があると言われているが、詳しい事は分かっていないのだ」
「見えず大本も分からない、けど確実に存在するエネルギー源。そんな感じにでも思っておけばいいか?」
悠斗の言葉に、アルウェンは頷く。
「まあ、それで良いだろう。さて、エーテルと魔法の関係だが……私たちDマスターは竜の力を通してこのエーテルに働きかけ、そしてそれぞれの竜の特性に従った変化を起こす事が出来る。私の雷撃もそうだ」
「なるほど。……さっき言ってたあらゆるものって事は、それは雷以外にも適用されるのか?」
「無論だ。しかし基本的には、多少の違いはあれどいずれかの属性に属している」
「属性?」
「そうだ。火、水、風、雷、土、光、そして闇だ」
ある程度予想していただけあって、ファンタジーでの魔法のお決まり過ぎる設定に悠斗はふぅっと軽く息を吐く。そこでふと、悠斗は気になる事があった。それはグラディウスの属性。魔法を行使できず、唯一魔法らしきものは剣を作る能力だけ。となると、グラディウスの属性は一体何なのか。
「なあアルウェン。俺の契約竜はその……魔法が使えなくて、その代わりに剣を作る事が出来るんだけど……これってどんな属性なんだ?」
悠斗の言葉にアルウェンの瞳が一瞬大きく見開かれた気がした。しかしそれはほんの一瞬の事で、次の瞬間には理知的な瞳に戻っていた。
「ふむ……強いて言うなら、無とでも言うべきかな?」
「無、か」
確かにしっくりこないでも無い。金属である剣を生み出す事から土が当てはまる気もするが、どう見てもグラディウスはそうは見えない。魔法以外の能力には自信がある言っていた事もあるし、それらを踏まえるとやはり無が一番かもしれないと悠斗は思った。
「さて、どうやら話の時間は終わりの様だ」
アルウェンがそう言うと、控え室のゲートの方から観客の声が聞こえてくる。ドランカップ最後の戦い、決勝戦の時間が来たのだ。
「君も既に分かっているとは思うが……決勝の相手はエミリアだ」
「やっぱりか」
自分の予想が当たった事に、悠斗は一つ溜息をつく。そんな悠斗を見て、アルウェンが真剣な表情で悠斗に言う。
「……一つ君に忠告しておこう。エミリアを甘く見るな。彼女は私よりもずっと強い。油断すれば、一瞬で負ける事になるぞ」
「忠告どうも。だが、生憎とエミリアほどの強者に持つ油断も余裕も持ち合わせてない」
「そうか、それは結構。……それではユウト君、頑張ってきたまえ」
「ああ」
アルウェンの言葉を背に受け、悠斗はゲートに向けて歩き出す。
「……古の剣竜の力、見させてもらうぞ」
ゲートに足を踏み入れる寸前、アルウェンが何やら意味深長な言葉を呟いたが、ゲートから溢れる声援の所為で、その言葉は悠斗には届かなかった。
ゲートに足を踏み入れた悠斗は、ここからでも感じられる強烈な威圧感に否応なく意識が切り替わる。そして歓声に包まれながらフィールドに足を踏み入れた悠斗を待っていたのは、大会前に分かれた時となんら変わらない姿のエミリアだった。
「凄いねユウト、本当に決勝まで来ちゃったよ」
驚きと喜びの合わさった様な笑顔でエミリアが言う。そんなエミリアの言葉に、悠斗も微笑みながら言葉を返す。
「エミリアの信用を、裏切るわけにはいかないからな」
「ふふっ、嬉しいな。ありがと」
少し頬を赤く染めて言うエミリアに、悠斗は不甲斐なくもドキリとしてしまった。エミリア程の美人の笑顔ならば当然と言える、男のどうしようもない性である。
「でも、だからって手加減はしないよ?」
「当然」
二人の纏う威圧感がより一層増す。その強烈過ぎる威圧感に空気がビリビリと震えているのが良く分かる。
「おぉーっと! 両者、早くも臨戦態勢だぁ! さぁ、ドラン王国が誇る最高のDマスター、紅蓮の青騎士エミリアと、そのエミリアが認めたダークホースことユウト! どっちが勝っても不思議じゃねぇ! 見逃せねぇぞこの決勝! お前ら、目ん玉見開く準備は出来たか! それじゃあドランカップ決勝戦、始めっ!」
「「ユニゾン!」」
実況の合図と共に二人の声が重なり、二人の体が光に包まれ鎧姿へと変わる。そして、現われたエミリアの鎧姿に悠斗は一瞬見惚れてしまった。赤い髪とは対照的な、深い青色の西洋の騎士が纏うような鎧。手に持つのはエミリアの身長と変わらない長さの大剣。紅蓮の青騎士の二つ名はここから来たのかと、悠斗は思った。
「それじゃあ、行くよ。ユウト!」
「ああ、来い!」
「「うおおぉぉぉーーーーっ!!」
二人同時に地面を蹴り、悠斗は飛ぶような素早さで、エミリアは大地を削るかのような力強い踏み込みで、雄叫びを上げながら自身の相手に向かって走り出す。
「はあっ!」
「やあっ!」
悠斗の大上段からの振り下ろしと、エミリアの下段からすくい上げるような大剣の一撃が凄まじい勢いでぶつかり合う。そして悠斗は、自分の体が地面から浮きあがるのを感じた。その直後、轟音と共に悠斗はフィールド端の壁に叩きつけられる。それがエミリアの大剣の一撃によるものだと理解したのは、エミリアが大剣を振りきった姿を確認してからだった。
「ぐっ……」
壁にめり込んだ体を引き抜きながら、エミリアの凄まじいまでのパワーに悠斗は驚いていた。パリィの可能性を考えていなかった訳では無かったが、まさか剣同士のぶつかった衝撃だけで弾き飛ばされるとは、流石の悠斗も予想外だった。
「続けて行くよ。業炎の槍よ、敵を貫け!」
「なっ!?」
エミリアの言葉と共に突如として宙に出現した数本の炎の槍が、悠斗目掛けて迫る。悠斗は急いで壁から脱出すると、ギリギリのタイミングで炎の槍を横っ跳びに回避する。炎の槍が命中した個所は、爆発と共に吹き飛び黒焦げになっていた。悠斗の背中を嫌な汗が流れる。もし回避できていなかったらなどと想像しそうになって、そこで悠斗はプルプルと頭を振って思考を追い出した。
「……なるほど、炎属性の魔法ってわけか」
「そ、私の二つ名通りでしょ?」
てっきり髪の色が赤いからと思っていた悠斗は、なるほど、などと場違いにも納得して頷いていた。と同時に、やはり髪が赤いのも理由の一つだろうか、とも思っていたりした。
「でも、まだまだ私の実力はこんなものじゃないよ!」
エミリアの言葉に悠斗は一瞬で戦闘に意識を戻す。見るとエミリアの頭上に先程の倍以上の数の炎の槍と、さらに追加で小さな火球がいくつか浮かんでいるのを確認し、悠斗はエミリアに向かって走り出した。
「行けっ!」
「疾っ!」
悠斗は猛烈なダッシュの中で剣を振り抜き真空波を炎の一団に向けて放つ。
……真空の中では炎は燃えない……
その予想通り、真空波とぶつかったエミリアの魔法はかき消える。炎の弾幕の中に出来たその穴を潜り抜け、悠斗は再度大上段で刀を振り下ろす。対するエミリアも、もう一度悠斗を弾き飛ばそうと大剣を下段に構えて振り上げる。
先程の音とは全く違う軽い音。そして悠斗の刀のみが空高く吹き飛ばされ飛んでいく。エミリアの目が驚愕に見開かれる。大剣の振り抜いた所為で確実な硬直を強いられるエミリアに、悠斗は素早く肉薄し足払いを掛ける。体勢を崩すエミリア。続く悠斗の蹴り上げが大剣にヒットし、鈍い音と共にエミリアの手から大剣が吹き飛ぶ。
しかし何時までもやられっぱなしのエミリアではない。大剣が弾かれた衝撃を利用して体勢を立て直し、手から小さな火球を悠斗へと飛ばすと素早く空へと翼を羽ばたかせて逃れる。対する悠斗は、小さいとはいえ高温の火球を真正面から直撃したため、篭手で何とか防いでも髪の一部が焦げて縮れていた。
「びっくりしたぁ。まさかあんな突貫をしてくるなんて……」
「エミリアは凄いな。まさか体勢を立て直しながら一撃放ってくるなんて」
そう言い合って、お互い口元に笑みを浮かべる。
「お互いに武器は手元になし。と言うことは……後は魔法で戦うしかないかな?」
「悪いけど、俺は武器には困らない」
そう言って悠斗が手をかざすと、その手に光が集まって刀の姿を成す。最初にグラディウスに刀を作ってもらった時は目をつぶっていたため、実際こうして刀が出来る所を見るのは悠斗も初めてであった。
「なるほど~、それって土の魔法?」
「いや、俺の契約竜は魔法が使えないらしいから、魔法とはまた別になるのかな?」
「えっ……」
悠斗の言葉を聞いたエミリアがアルウェンの時と同じように目を見開き、次いで目を伏せ何処か影のある表情になる。
「アルウェンの時の高速機動、魔法とは違う剣の生成……やっぱりユウトの契約竜は……」
「どうしたエミリア?」
何やら呟くエミリアに、悠斗は少し不安になる。もしかしたら、何処か調子の悪い所があるのかもしれないと思ったからだ。しかしそれは杞憂に終わった。次の瞬間、エミリアが悠斗に視線を戻すと同時に、エミリアの正面に巨大な火球が現われる。先程までとは違う凄まじい熱量に、悠斗はすぐさま気を引き締める。
「……ユウト、ごめんね。でも、私も負けられないの!」
エミリアの言葉の意味が理解できなかった悠斗だが、今はそれに構っている暇は悠斗には無い。
『グラディウス、少し熱いかもしれないけど我慢してくれ』
『よかろう。我が鎧は汝の盾なり!』
「おおっ!」
刀で突きを繰り出す構えを取り、翼を羽ばたかせて悠斗がエミリアに向かって急加速する。悠斗は矢のようにエミリアに向けて真っすぐに突進した。
「てやあぁぁーーーー!」
そしてエミリアが巨大な火球を悠斗に向けて放つ。押し寄せる熱気を気にも留めず悠斗は熱球に突っ込む。煌々とした巨大な火球が悠斗を焼き尽くすかと思われた。しかし火球が直撃する寸前、悠斗は引いていた刀を正面へと閃光のように突き出した。
「らあっ!」
ゴウッと、凄まじい剣圧が火球の中心に風穴を開け、その中から悠斗が凄まじい速度で飛び出す。しかし熱気に所為で一瞬目を閉じてしまった悠斗はエミリアとの距離感を失ってしまっていた。そして悠斗が次に目を開けた時、その視界にはポカンとしたエミリアの顔が一杯に広がっていた。
「なっ!?」
「えっ?」
ドン! と、二人が正面衝突をするのに時間は掛からなかった。
「わぁ~~~~!!」
「きゃ~~~~!!」
勢い良くぶつかり合ったせいで二人ともバランスが崩れ、抱き合った形で錐揉み落下していく。その中で悠斗は必死に翼を羽ばたかせてどうにか自分の背中を地面の方へと向けると、エミリアの体にしっかり腕を回して同時にエミリアの頭を胸に抱え込むようにして衝撃に備える。
そして轟音。同時に、悠斗は背中から突き上げてきた衝撃に肺から一気に空気を押し出され、次いで激しい痛みを感じて意識を失った……。
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