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赤毛の少女に連れられて

 理解ある男…アルウェンのおかげで特に大きな注目や面倒事に巻き込まれることが無かった悠斗は、引き続き町の散策を続けていた。そしてその途中、広い庭園を見つけたので、今はその一角のベンチに座っている。と言うのも、グラディウスに詳しい話を聞くためだ。


『グラディウス、さっきの話の続きを頼んでも良いか?』

『うむ、よかろう』


 悠斗の問いかけに、グラディウスが話し出す。


『さっき言ったDマスターについてだが、Dライダーの中には我ら竜と融合し、その身に我らの力を宿して使役することが出来るものがいる。その行為を人の言葉でユニゾンと言うのだが、それは全てのDライダーが出来るわけではない。天性の才能、もしくは厳しい修行に耐えた者のみが行えるのだ。そのことから、ユニゾン出来るDライダーのことをDマスターと呼んでいるのだ』

『Dライダーは竜の背中に乗るのが精一杯だけど、Dマスターは竜の力を自分の意思で、しかも自分の体で使える。そう言う事か?』

『そうだ』


 それが本当だとすると、凄いどころの話では無い。竜の力がどれほどのものかは知らないが、人間の力など軽く凌駕するものなのは確かだ。グラディウスを見た所、竜自身は人に危害を加えるようなことはしないみたいだが、人が竜の力を使うとなれば別だ。必ず、その力を悪用する者が出てくる。


『ちなみにだが、ユニゾンをしたDマスターはエグゼスと呼ばれ、純粋な竜の力のみを最大限に纏ったその者は、人も竜をも凌ぐ存在となる』

『それってつまり、エグゼスはエグゼスにしか止められないってことか?』

『基本的にはそうだが、それは力量が関係してくる。我ならば、そこいらの貧弱なエグゼスなどものの数秒で仕留められるぞ?』


 エグゼスという存在を見たことが無いため、力の関係がイマイチ理解できていない悠斗だったか、どうやらグラディウスはかなり実力を持った竜だと言う事は分かった。でなければ、この自信に満ち溢れた発言、そして雰囲気は出せないだろう。


『なるほどな。この世界の上下関係は大体理解した。それで、俺もそのユニゾンとやらは出来るのか?』


 ものの試しに悠斗はグラディウスに尋ねる。すると、グラディウスは少し考えた後に言う。


『それは分からん。だが、恐らくは出来ると思うぞ? 何せ、それほどに我と汝の繋がりは強いのだからな!』


 誇らしげに言うグラディウスに思わず悠斗は苦笑する。ひとしきり現状の確認を終えた所で立ち上がろうとしたその時、


「だ~れだっ!」


 いきなり視界が暗くなり、背中から温かな体温が伝わってくる。声と背中に感じる母性からして、悠斗に目隠しをしているのが女性である事はすぐに分かった。


「誰と言われても…俺は今日、ここに来たばかりで知り合いは居ないはずなんだけど?」


 返答に困った悠斗はとりあえず普通に答える。もちろん、平常心で心を落ち着けてだ。


「ん~、それもそうね」


 声の主は目隠しを止め、背中から離れて悠斗の目の前に姿を現す。燃えるような赤い髪を長くのばし、頭の後ろでポニーテールに纏めている。年齢は悠斗とあまり違わないように見えるが、女性特有の母性はなかなかである。


「それで、君は誰?」

「私? 私はエミリア。エミリア・クラーレンよ。あなたの名前は?」

「俺は剣裂…いや、ユウト・ケンザキ」


 名乗り方からして名前が一番に来ると言う事が分かり、悠斗は相手に合わせて名乗る。


「ユウトね。うん、さっきはありがとう」

「ん? 何が?」

「さっきコーウェンのバカから弟たちを助けてくれたでしょ? だから、ありがとう」


 エミリアが言う弟たちと言うのは、あの時の男の子たちのことなのだと悠斗は気が付く。なるほど、それでわざわざお礼に来たと言う事なのだろう。


「いや、当然のことをしただけだし。礼を言われる程じゃないよ」

「それじゃ私の気が済まないのよ! ほら、何か困った事とかない? 出来る範囲なら力になるわよ? ……あ、でも」

 エミリアは何故かそこで言葉を切るとニヤリと悠斗に笑いかけ、


「エッチなのはダメだからね?」

「なっ!?」


 エミリアの言葉に悠斗は一気に顔が熱くなる。元来、悠斗はそう言う事に対して全くもって耐性が無いのだ。


「あー! やっぱりそう言う事考えてたんだ! やっらしい♪」

「なっ、いや…違う! 断じて違うぞ! って、こんなに強く否定したら認めてるようなものじゃないか!? いや、だからといって―」


 しどろもどろになって弁明する悠斗に、エミリアはお腹を抱えて爆笑する。


「あはははっ! ユ、ユウトってば…ぷっ、くくく…慌て過ぎで面白過ぎ!」


 爆笑するエミリアに、悠斗は一気に冷静さを取り戻す。まだ顔は真っ赤なままだが…。


「お、俺はそう言う類は苦手なんだ……」


「そうみたいね。ふふっ…でも、ユウトの人となりは大体わかったかな?」


 エミリアは微笑むと、改めて悠斗の顔を見据える。


「ねえ、私の家に来ない? あんまりおもてなしは出来ないけど、お昼くらいならご馳走するよ?」

「いや、しかしだな……」


 悠斗がやんわりと断ろうとしたその時、悠斗の腹が空腹を訴えて大きく鳴り響く。悠斗は再度顔を赤くし、エミリアも笑みを浮かべる。


「ほら、遠慮しないで。お腹、空いてるんでしょ?」

「……済まない。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 悠斗は申し訳なさそうに言うと、エミリアは気にしていないと笑顔で言って、悠斗の手を取って走り出す。悠斗はエミリアの元気の良さに苦笑しながらも、エミリアの速度に合わせて走った。











 庭園から走る事、十数分。町中を駆け抜けついたのは、先程までの整然と町では無く、いわゆる下町と言われる場所。人々の生活感にあふれるこの場所に、悠斗は懐かしさを感じていた。悠斗がまだ祖父の道場に通っていた時に、祖父とよく出かけた町並みに、よく似ているのだ。


「どうしたの? もしかして…下町に来るのが嫌だった?」


 エミリアが不安そうな顔で悠斗に尋ねる。悠斗はそんなエミリアに微笑みながら首を横に振る。


「いや、昔の事を思い出して懐かしんでたんだ。祖父と歩いた町並みによく似ていたから」

「そうなんだ。それって、ユウトにとっていい思い出?」

「ああ。とても良い思い出だよ」

「そう、良かった!」


 不安そうな顔から一転、満面の笑みを浮かべるエミリア。


「それじゃ、こっち! 早く!」


 エミリアに引っ張られて悠斗も続く。そして着いたのは、下町の中でも結構な大きさの家だった。


「ただいまー!」


 大きな声で帰宅を告げるエミリア。すると、家の中から複数の足音がドタドタと聞こえてくる。


「「「お帰りっ! エミリアお姉ちゃん!!」」」


 そう言いながら、十人近くもの子供たちがエミリアに一斉に駆け寄ってきた。


「ただいま。良い子にしてた?」

「「「うん!」」」

「よしよし。あ、そうそう。今日はみんなに紹介したい人がいるの」


 エミリアは悠斗の腕をグイッと引っ張ると、悠斗を子供たちの前に立たせる。


「お姉ちゃんの友達のユウトお兄ちゃんよ。今日はみんなと遊んでくれるんだって」

「ちょ、エミリア!?」


 突然の事に、悠斗は素っ頓狂な声を上げる。そんな悠斗には構わずに、エミリアの言葉を聞いた子供たちがわらわらと集まってくる。


「なあなあ、兄ちゃんって姉ちゃんの彼氏なのか?」

「え~! そんなハズないよ! だってお姉ちゃん、強い男の人が好きー! って言ってたもん」


 それは暗に悠斗の事を遠まわしに弱いと言っているのか。そう思った悠斗は、少しショックを受けながらも引き攣った笑みを浮かべる。


「何言ってんだよ! この兄ちゃん、すっごく強いんだぞ! だって、素手であのコーウェンを倒したんだぞ!」

「「「えぇっ!?」」」


 そう言って子供たちを驚かせたのは、あの時助けた男の子。その後ろでは、女の子が肯定の意味でか頭を縦にブンブンと振っている。


「いやまあ…それは、あの男が弱かっただけで……」

「「「……」」」


 悠斗の言葉に、エミリアを除いた全員がポカーンと口を空けて固まる。そのリアクションに、悠斗は何かマズい事を言ったのかと不安になる。


「エミリア…俺、何かマズい事を言ったか?」

「違うわ、むしろその逆ね」

「逆?」


 エミリアの意味深な言葉の意味を考えていると、


「兄ちゃんすげー!」

「すごーい! やっぱり強いんだ!」

「やっぱり姉ちゃんの彼氏ー!」


 さっきまでポカンとしていた子供たちが、一斉に騒ぎ出して悠斗にまとわりつく。そんな子供たちに困りながらも、悠斗は自然と笑みを浮かべながら子供たちの相手をする。エミリアは、そんな悠斗を微笑みながら眺めていた。











「ご馳走様でした」

「はい、お粗末さまでした」


 エミリアの料理をご馳走になった悠斗は、今はぐっすり眠っている子供たちに目を向ける。


 あの後、昼食をご馳走になったはいいが子供たちが悠斗を解放してくれなくなり、結局こうして疲れて眠るまで付き合うことになったのだ。なので今ご馳走になったのは夕食と言う事になる。


「悪い。夕食までご馳走になって」

「いいのいいの。ほら、ご飯は一人で食べるよりも誰かと食べる方がおいしいし」


 エミリアは笑いながら食器を台所へと持っていく。悠斗も自分の食器を台所へと運ぶと、エミリアがありがとうと言ってそれらを流しに置いて子供たちの分と一緒に洗い始める。


「あの子たちは…身寄りのない子たちか?」

「うん。みんな親に捨てられたり、色々な事情がある子たちなの」


 エミリアは少し寂しそうな顔をして言う。やはり、と悠斗は思った。どう考えても、子供達とエミリアは似ていない。もし兄妹姉妹ならば、どこかしら似ているところが有るはずだからだ。


「そうか。……君は、一人でこの子たちを養っているのか?」

「うん。幸い、私は稼ぎ口が有るからこれくらいの人数ならへっちゃら。それにみんな良い子たちだから、特に心配事も無いしね」


 カチャカチャと食器を洗いながら話すエミリア。悠斗はそんなエミリアをじっと見つめる。


「……どうしたの? 私の顔に何か付いてる?」

「いや、凄いんだなって思っただけだよ。それに、凄く強い」

「あはは。そう言ってもらえると…ちょっと嬉しいかな?」


 若干、頬を赤く染めながらエミリアは言う。


「そうだ。今日はもう遅いから、ウチに止まっていきなよ。布団なら沢山あるからさ」

「…そうだな。なら、一晩厄介になるとするよ」

「そうそう。人の好意は素直に受け取るべきだよ」


 笑いながら言うエミリアはどこか嬉しそうで、悠斗はエミリアが少しでも寂しさを紛らわせてくれるならと、洗い物が終わるまでじっと椅子に座っていた。


 しばらくして洗い物が終わったエミリアは、布団一式をリビングに運んできてくれた。


「あ、お風呂はそこを真っすぐ行った所だから、先に入っちゃって。はい、これ」


 エミリアが大小一枚ずつのタオルを渡してくれる。


「ああ。何から何までありがとう」

「良いってば。気にしないで」


 エミリアの好意に甘え、悠斗はお風呂にゆっくりとつかる。程良い温度が心地良く、疲れを癒してくれるのを感じながらゆっくりと目を閉じる。今日の出来事を頭の中で一通り整理し、40分ほどした所でお風呂から上がった。


「あ、お風呂上がったんだ?」


 リビングにはパジャマ姿のエミリアがタオルを抱えて待っていた。どうやら待たせてしまったらしい。


「悪い。俺、少し長風呂なんだ」

「そうみたい。でも、お風呂に入るのが気持ちいいのは良く分かるよ。私も結構長風呂なんだ」


 てへっと笑うエミリアに悠斗は少しドキドキするが、そこは持ち前の精神力で抑え込む。しかし、やはりパジャマ一枚に浮かび上がる豊かな母性に目が行ってしまうのは、男の性と言うべきか……。


「そ、それじゃあ、俺は休ませてもらうよ。子供たちの相手をして疲れたから」

「そっか。じゃあ、お休み」

「ああ。お休み」


 互いにお休みを言い合って、悠斗は用意された布団にもぐる。最近はベットで寝ることが多かった悠斗には、敷布団で寝るのは久しぶりで、やはりどこか懐かしい。


 そんな風に思いながら、悠斗は深い眠りへと落ちて行った……。






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