第5話:華帝国の帝
本日はおにいちゃんのターン。
読んでいただけると、とても嬉しいです(^-^)
蒼から花乃衣を奪い取ったのは、帝であった。
横から花乃衣をいともかんたんに奪い取り、自分の腕に閉じ込める。
「花乃衣に勝手に触らないでもらおうか」
何故か腹黒さ全開の帝に、花乃衣は「またいつもの発作か」と諦めた。
異父兄はこれまで、花乃衣に直接的に近づく男達に対し、こうやってまるで『自分のもの』であるかのような振る舞いをする。
国家的に見たらあながち間違ってはいない素振り・・・なのだが、花乃衣にはどうしても、自分のものにたいする独占欲のようなものを感じ、ひどく息苦しさを感じていた。
ワタシハ、アナタノモノジャナイ・・・
自分から奪い取られた花乃衣の顔を、蒼はじっと見つめていた(花乃衣は気づいていなかったが)。まるで何かを推し量ろうとするように。
そんな蒼の様子を、充と満は見つめていた。
蒼の存在が、この兄妹をどのように変えていくのだろうか、と。
浮の世界において、竜に愛されし『華』の帝国を治める若き帝。
その帝が欲してやまない、異父妹は、華帝国のあるこの大陸の中でも稀有な存在で。
その特異な出自から、決して表舞台に立てない娘。
決して、相容れない二人。
焔帝もそのことは理解しているはずなのに、こうして度々異父妹に会いに来ようとする。
彼の支配する火竜『火君』の力を借りて。
その執着が度を越しているのを分かっているのに、花乃衣には本気でとめることができない。
兄は兄で。
彼女に残された、たった一人の、家族なのだから。
帝の腕をするりと抜け出し、花乃衣は帝と向き合った。
「蒼とのことは、帝には関係のないこと・・・むしろ、関わってほしくありません」
「帝国の『闇』に関することだから?」
帝の放った言葉に、花乃衣は眉をピクリと上げただけで、後は特段反応を示さなかった。
帝の言葉を肯定も否定もせず、今度はくるりと蒼の方を振り返って見上げる。
「蒼に会うのは久しぶりだから・・・小さい頃には聞けなかったことを貴方に聞きたい」
「分かった」
花乃衣の真剣なまなざしを、柔らかい微笑で受け止め、蒼は彼女の手を取る。
「だが、ここで話すことはできない。・・・意味は、わかるね」
「ええ」
帝の前で自分の一族に連なることを聞かせるわけにはいかなかった。
花乃衣は満と充の方を向くと、一言つぶやいた。
「私はしばらく留守にします・・・帝をよろしくお願いします」
「守護は私がする・・・君たちが心配することはない」
握る手のひらに、蒼は唇を寄せた。柔らかい感触に、花乃衣は不意に昔のことを思い出した。
蒼はいつも、自分が緊張したりするときには、こうやって優しく触れてくれたっけ・・・
初めて祖父に会ったときも。
そばに蒼がいてくれて。
父親のことも、蒼が話してくれた。おじさんのことも・・・
空間を渡ろうとしたときに、蒼の握る手とは反対の手を引かれた。
帝だった。
切実なまなざしで、花乃衣を見つめていた。
「君は、私のものだ。他のものになることを、許さない」
こうして離れようとすると、帝は私を人の世につなげようとする。
ここに私をつなぎとめるのは、帝だ。
今はもうない、母親の思いと・・・
でも。
私の手を握る蒼も、私とおなじものなのだ。
私と同じ。
だから花乃衣は、蒼の握る手を、同じ力で握り返す。
後には双子と、帝が残った。
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