第21話:後宮にて、出会う。その①
お久しぶりのお届けです。
楽しいでいただければ嬉しいです(^-^)
帝都に着いた翌朝。
まだ日も昇りきらぬうちに、花乃衣と蒼は宿舎を出て皇城に向かった。
満は皇城に数多く知り合いがいるため(充の女性版だから)、普通に登城することにしている。
そして後宮に勤める知り合いのところに遊びに行く手配をしていた。
華帝国の後宮は、男性以外は身元がしっかりしていれば割と自由に入ることができた。
身体検査を受けさえすれば、『~の親類です』で入宮させてくれる。
そのため、身体検査がかなり厳しく、それには半刻ほど時間がかかった。
後宮への出入りは女性だけであったが、商人の御用聞きや側妃、それに仕える女官達へのご機嫌伺いでごった返していた。
「さすが・・・華帝国の後宮だな~」
他人事のように花乃衣がつぶやくと、彼女のそばにいた7歳ほどの男の子があきれたような目線を向けてきた。
「・・・君の兄の私邸だろ?何度か来たことがあるんじゃないのか?」
まだほんの子供だと言うのに、口調は大人の男のようだった。癖のある黒い髪を後ろでひとつに束ね、貴族の子どもが良く身につけている衣装を着ている。長じればさぞかし女性に騒がれるだろうその顔は整っており、ただ、この国の人間に多い黒い瞳ではなく、その澄んだ青い瞳が更に少年の美貌を際立たせていた。
男性は入れないが、10歳までの少年は入宮できる。
少年は蒼の仮の姿であり、魔術の「変化」で、少年の頃の姿になっていた。
髪はさすがにいつもの金髪だと目立つので、黒い色に染めていた。
生半可な姿変えの術など、後宮詰めの方術使いに見破られてしまう。
だから、蒼はあえて人間の使う方術を使用せず、その身にある魔のチカラで姿を変えた。
モチロン、その術の上から見破られないように、更に違う術を纏う。
貴族の子弟がよく使う、守護の術をかけているように見せかけて。
ちょっとチカラが強い程度の方術使いには見破られることはないだろう。
それだけ、蒼の術は完璧に構成されていた。
「最後にここに入ったのは10歳の頃よ・・・母様が亡くなる前だった。異父兄に会いたいのだと言って・・・」
その頃、焔帝は登極したばかりで、帝の正妻である碧妃との婚儀が決まったとの知らせを受け、母がお祝いに行くというので、花乃衣はついていったのだ。
もしかしたらこれが最後になるかも、と、母は小さく呟いていた。
後宮の門の前で、身体検査を受ける前の待合室でのことだ。
皇帝の母ではあったが、麗花は決して皇母たる扱いを望まなかった。
後宮に、焔帝の生母として室を賜ってはいたが、そこに住むことはなかった。麗花は死ぬまで、花乃衣と生活している、あの流のそばの屋敷から離れなかった。
焔帝のことは、子どもとして愛してはいたが、共に暮らすことはなかった。麗花はイルフレンと花乃衣を選んでおり、焔帝はもっぱら、乳母や侍従たちに育てられていた。
年に数度、焔帝に会いに行く麗花は、焔帝の成長していく姿を喜んでいた。彼を見て彼の父親・・・炎華帝のことを思い出しもしただろうが、炎華帝はあの事件の後精神を患っており、後宮の奥深くに住まい、そこから出てくることはなかった。
麗花は特別扱いして欲しくなかったため、焔帝に会いに行くときは、普通に後宮に入る手続きをとっていた。その際、身元引受人は、焔帝の乳母である清の親族であると言うのがお決まりの台詞だった。
そして、入宮したらいつも清がすぐに迎えに来てくれていた。
清と母は無二の親友だったから。
(清とはもう、10年以上会ってない・・・)
母が亡くなった知らせをした後、清に会いに行くことはなかった。
ただでさえ花乃衣は特殊な立場にあって、更に異父兄の乳母という立場にある人と関係があると知れたら、清の立場が危うくなる。
花乃衣は、はっきり言って存在しない方が良い人間だった。
焔帝の治世の安泰を望む人間達には特に。
生母が焔帝と同母とはいえ、彼女は魔族の血をひいている。禁忌の子だ。
焔帝の執着が更に、花乃衣の立場を悪いものにしている。
そのことはあの祝賀会でイヤと言うほど感じさせられたというのに・・・
清は、皇城を去ろうとする花乃衣に抜け道を教え、出るのを手助けしてくれたのだ。
「気をつけて」と手を握り、泣きそうな顔で見送ってくれた。
今もまだ、後宮にいるに違いない。
しかし、花乃衣は清を頼ることは考えもしなかった。
母の大事にしていた人だから。
だが、待合室で花乃衣と蒼の前に現れたのは、
思慮深いまなざしで花乃衣を見つめる、母の親友、清であった。
お楽しみいただけましたでしょうか・・・?
・・・次こそはヒラヒラ・・・?(笑)