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第20話:帝都『炎竜』にて

 帝都に着いたのは日も暮れかかるころであった。


 三人が旅馬車を降りたのは、帝都の『南大門』近くの停留場であった。

 同じ時刻に着いた旅馬車から、たくさんの人々が降りて、南大門の検問に向かっていく。


 花乃衣たちもそれぞれ旅券を手に、検問に向かった。

 花乃衣たちは華帝国発行の旅券、蒼は何故か、華帝国の北側に位置する国・・・アルブレシア王国発行の旅券を持っていた。


 それを不思議に思ったのか、満が蒼にそのことを尋ねると、

 「母の生まれた国なんだよ」という答えが返ってきた。


 検問を無事通過すると、南大門からまっすぐ大きな道がある。

 その道の行き着く先は、焔帝の住まう皇城がある。



 帝都はたくさんの人で賑わい、通りに面した家屋は、花々で美しく飾られていた。

 たくさんの人々が行き交う街は、これから夜に向かう時間だと言うのに暗い雰囲気はなく、街は街灯や家々から漏れる明かりで、夕刻の物寂しさを感じることはなかった。


 花乃衣は蒼に手を繋がれていた。

 満のそばにはいつの間にか水君が立っていて、満の手を引いている。


 4人となった一行は、とりあえず今晩の宿を探すべく、南大門からまっすぐ伸びた道を歩き始めた。

 二つ目の角を曲がれば、旅人向けの手ごろな宿舎がある。


 めったに帝都に来ない花乃衣ではあったが、皇城に近づかないだけで、年1回ほどのペースで帝都にやって来ていた。

 目的は、術師省での打ち合わせであったり、特殊な薬品等の購入だったりして、どうしても帝都でしかできないことを、どこかへの旅の途中で立ち寄ったりして済ませていた。

 だが、花乃衣は決して、皇城に立ち入ることをしなかった。


 皇城の中に『術師省』はあるがそこに立ち寄ることはせず、もっぱら、親しい友人を介しての情報のやりとりを行い、花乃衣に与えられる俸給はすべて彼女の財産を管理する有能な書士に任せていて、彼女が帝都で済ませる用事など、書士からの直轄地の報告や、術師省からの魔族退治の依頼であったりと、簡単なことに限られていた。


なので、実は皇城に忍び込む、とか言いはしても、城のごく一部の造りしか知らない花乃衣にとって、今からすぐ侵入、とは決してできることではなかった。



 「ねえ、皇城のどのあたりにあると思う?」

 宿舎を決め、夜ご飯を満足いくまで味わった一行は、花乃衣の部屋に集まって就寝までの時間を過ごしていた。

 静かに『暗黒方術を知る』と書かれた(怪しい)書物を読んでいた花乃衣が、満に話しかける。

 「なにが?」

 主語が足りないんだけど。と、頭の中で突っ込みながらも、自身も読んでいた本から顔を上げた満が花乃衣のほうを向く。

 「もちろん、帝国の『闇』の里よ」


 一瞬、満の表情が消えた。

 その後、彼女は静かに花乃衣に問う。

 「・・・花乃衣はどうしてそう思うの?」

 「彼らが皇帝の庇護・・・というか、管理下に置かれているから」


 『闇』の昔の暴走を知っていれば、誰でもたどり着く結論だと、花乃衣は思っている。

 ただ、満は花乃衣がそこまで『闇』のことを知っていることに、驚きを禁じ得なかった。

 「花乃衣は、彼らについてどのくらい知ってる?」

 改めて姿勢を正し花乃衣に向き直ると、満は彼女の方をじっと見た。

 「ん~・・・宮中の生き字引、とか言われてた人に聞いたことがあるから・・・その程度?」


 その人物については、満も聞いたことがあった。

 帝国の建国のときより宮中の奥深くに住まい、帝国の記録をずっとしている人間がいると。

 帝国の建国は今より500年も昔のことであるから、満はその人物が代替わりしつつ、帝国の記録を続けていると思っている。

 だが、満のそんな思い込みを、花乃衣は見事に吹き飛ばした。

 「おじいちゃん・・・ていうか、書庫の神様、っていうのかなあ・・・人間じゃないからね」

 「「「え?!」」」

 三人がそろって声をあげる。

 花乃衣はそんな三人の表情をきょとんとしたまま、見つめていた。

 「だって・・・500年も生き続ける人間がいるわけないでしょ?普通、人外を想像するんじゃないの?そういう時って」

 「いや・・・普通は代替わりしている、って思うだろう・・・」

 水君があきれたようにつぶやいた。

 「そこで人外、なんて思うのは花乃衣だけよ・・・」

 満があきれたようにため息をついた。

 「まあ、そのおじいちゃんね・・・何故彼が『書庫の神様』になったか、ということについては今は教えられないけど、退屈でつまらなかった幼い頃の私に、いろんなこと話してくれたの・・・」


 花乃衣が母に連れられて皇城に初めてやってきたときのことだ。

 母は異父兄に会いに後宮に行った。花乃衣はものめずらしさにあちこちさまよい・・・迷ってしまったのだ。

 母はいつものことであるので捜しにこなかった。帰るときに花乃衣を召喚神につれてきてもらえば良いだけのことだし、皇城で命の危険に晒されることはないだろう・・・との考えからであった。

 ちなみにそのとき、花乃衣は3歳だった。


 そのとき偶然であったのが「書庫の神様」だ。

 彼の名前を知ったしまった花乃衣は、その後しばらく彼の歴史話に付き合わざるを得なかった・・・


 「そのときは別に『闇』の里なんて知らなくてもよかったから聞かなかったのよね・・・」

 知ってそうだったけどね~・・・とつぶやく花乃衣に、満は改めてため息をつく。

 そういうことであれば、何も自分がこの旅に付き合う必要はなかったのではないか。


 「まあそういうことだから、満には皇城探索に付き合ってもらうから」

 にこにこしながら花乃衣は言う。

 「・・・そうきたか・・・」

 水君が、満の心情を代弁してくれた。


 あのだだっ広い皇城を、隅から隅まで探す予定なのか。

 さすがにそれはご遠慮申しあげたい満だった。


 「その昔話から、里がどこにあるか、想像つかない?」

 満が花乃衣に問いかける。


 「・・・後宮?」

 「多分ね」

 『闇』の祖は皇帝の寵妃だった女だ。



 一行は早速、明日から後宮に忍び込むことに決めた。


 今回もお楽しみいただけましたでしょうか?

 連休中はゆっくりできそうなので、なるだけ更新したいと思っております。


 お気に入り登録、本当にありがとうございます。

 楽しく読んでいただけるように、駄文ながらも頑張りますので今後ともどうぞよろしくです!


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