第1話:拾った(?)男
とりあえずこの男を出すとこまで書きたかったので連続投稿してみました。
ちと長いかな・・・
楽しんでいただけたら嬉しいです。
召喚師を生業とする花乃衣の日常は、仕事を依頼された時以外はいたってシンプル。
朝は日が昇る前に起床し、流の周りを5周ほど走り(1周は、普通の大人が歩いて20分ほどかかる程の距離)、朝食を作る。同居している満は寝起きがこの世界最強というくらい、凶悪な悪さなので、与えられている部屋も花乃衣の屋敷の一番奥にある・・・だから、多少の物音では起きないように配慮されているのだが、花乃衣は更に配慮を重ね、しずーかに、朝食の準備をする。
朝食は焼いたパンと野菜や動物の肉のスープ。食事が済んだら満の分の食器類を準備しておいて、花乃衣は森の中にはいる。
森は昔から花乃衣の遊び場、兼、修行の場でもあった。
森には魔族がたまーに出現する。昼間でも日のひかりが差し込まないほど深い森の奥は、貴重な生物や鉱物などの宝庫でもあった。だからたまーに(ホントにたまーに)冒険心に火のついた『賞金稼ぎ』がやってきて、魔物に襲われたり遭難したり魔物じゃなくとも危険な動物に襲われたりして助けを呼ぶことがある。・・・別にそれは花乃衣的には「しったこっちゃない」のだが、花乃衣の相方は許さない。
「花乃衣、誰かが助けを呼んでる」
きらきらしい(というか物理的にも光っているが)容貌の男がどこからともなく花乃衣の隣に出現し、花乃衣の右手前を指差した。
「・・・知ってる」
対する花乃衣は憮然とした表情だ。この森が危ないことは幼い子供でも知っていることなのに、自分の力を過信して欲望のままに森に侵入し、危なくなると助けを呼ぶ・・・
「私はこの森の守護者であって、人間を守るものではない」
ぶすっとしたまま花乃衣がつぶやくと、男はわざとらしく「よよ・・・」と顔を隠し、
「ああ、森が穢れてしまう・・・(しくしく)」
泣きまねですか。このン千歳おとこがっ!・・・いらっとくる気持ちを抑え、花乃衣はうっとうしく泣きまねする相方の方を見た。
「召喚するから帰れ」
「え~?今日は水君の出番でしょ~」
間髪入れずに返ってきた言葉に、花乃衣の眉間のしわが更に深くなった。
「水君は満のそばにいる」
「あー・・・さいですか」
しょうがないなあ・・・という表情で男はまたどこかに消えた。花乃衣はまっすぐ前を見据えたまま、うるさく叫ぶ男の下へと急いだ。
男はアリ地獄の中にいた。
というか人間地獄?
花乃衣は頭の中で素早く文字変換し、状況把握するためにあたりを見回した。
今までにない種類の魔族だな。森にアリ地獄はいなかったと思うけど。
確かに状況的には魔物の好みそうな場所だし。
吸い込まれそうな男(?)はフードを深くかぶっていて表情は分からないが、・・・情けなく、叫び続けている。
「だっ、ぎゃーっ、うわーっ!!」
「・・・とりあえず、光君、我に依りて我に従え」
花乃衣の呪の後・・・
まばゆい光がアリ地獄の真上に生まれ、それがアリ地獄目指して落ちてゆく。
数瞬後。
魔族の絶叫が響き渡り、アリ地獄は消失した。
後には、ぼーぜんと立ち尽くす男がひとり。
アリ地獄によって深くえぐれた穴の中間ほどに立ち尽くす男に、花乃衣は持っていた縄を投げ込んだ。
男は縄に気づくと、呆然とした表情のまま彼女の方を見た。
男の表情は分からなかったが、花乃衣はそういう態度には慣れっこだったので、特に気にするそぶりを見せずに、縄をもう一度動かして握ることを促す。
男ははっとして縄を握る。それを確認すると、花乃衣はするすると縄を巻き始めた。
「え、あ、ちょっと、ま」
男の体重をものともせずに、花乃衣は縄を巻き上げる。実は(こっそりと)光君が力を貸してくれていたのだが。
「怪我は」
花乃衣は使った縄をしまいながら男に尋ねた。男はゆっくりとフードを取る。
見知った顔ではない。
だが、その男の顔を見た瞬間、なにか予兆めいたものが、花乃衣の中を駆け抜けていったような、そんな感じがした。
男の顔はこの大陸に住まう人々の特徴的なものを持っていない。すなわち、黒目・黒髪・黄色系の肌ではなく、もっと北の大陸の、碧目・金髪・白色系の肌を持っていた。この大陸にいることは珍しくもなかったが、この森で見るのは初めてであった。
男はじっと花乃衣を見つめていた。まるで何かを推し量るような表情だ。花乃衣的には、ナゼこの男に・・・なんか、針の穴でも見つめるかのように、自分を見るのだろうか・・・と、いささか気恥ずかしくなってきた。
男慣れしていない花乃衣には目の毒なくらい、男は美形であった。
人間(?)でこんなに綺麗な男は見たことない・・・
と、思ったのだが。
いや、もう一人いたな。
と、自分に突っ込みを入れて・・・はあっと、ため息をついた。
目の前の男は、花乃衣の異父兄に勝るとも劣らない美形で、正直、花乃衣が関わりたくない人種のように思えて仕方がなかった・・・
もう一度ため息をついて、男の目を見つめる。
男はじっと、いまだに花乃衣を見つめていた。
「怪我はないのかと、聞いているのですが」
年のころは自分と同じか、少し下に見えた。男の属する人種は、ある程度の歳から急に老け込んで見えることがあるため、念のため丁寧な口調で尋ねてみる。
男はふるふると頭を横に振ると、また、花乃衣の方を見つめた。それから、彼女も気づかぬうちに、近づき・・・
「私は、蒼」
そう言って、花乃衣の右手をとり、手の甲に口付けた。
「会いたかった。貴方に」
花乃衣の右手を握っていた左手が、すっと、彼女の二の腕まで上がり、二の腕をそのまま引き寄せる。
花乃衣の体は当然、男の下へ傾き、急なことに咄嗟の反応ができない彼女の腰へと、男は反対の手をまわして、彼女を抱き寄せた。
28年間、こういう目にあってきたことがない(身内以外に)花乃衣は、目の前の男はナゼ、こういうことをするのか?全く思考も動作も追いつかず、混乱しそうになった。
そんな彼女を救ったのは、能天気な声。
「花乃衣になにすんのかな~このくされ外道は」
18年間寝食を(ほぼ)一緒にしてきた、満の声であった。
「花乃衣から離れなさいよ。そこの男」
満は魔の気に敏感だ。
目の前の男からは非常に濃い、魔の気がする。
水君は嫌がるだろうけど・・・満は意を決して二人に近づき、花乃衣の腕をつかんで自分の下に引き寄せた。
「満」
花乃衣はほっとしたような表情を見せた。満は花乃衣より10センチほど低いが、彼女の頭を「いいこいいこ」してあげた。するといつも、花乃衣は安心したような表情をする。満の治癒の気が、花乃衣に渡った証拠だ。
「光君はボケボケだからね~・・・こんなに濃い魔の気を持ってる人間なんて~そうそういないんだけどね」
なんで近づけさせんのかな~・・・(怒)という気持ちが駄々もれな台詞を満がつぶやくと、光君からは疲れたような気配が流れてきた。
「あ~そっか~・・・ここんとこ不眠不休だったっけ~?よしよし、お休み~」
満が何かをつぶやくと、彼女自身から青白いひかりが立ち上った。
「水君もよろしく~」
そうして、二つの気が去り、後には、胡散臭げなまなざしで男を見る満と、なにを考えているか分からない表情の男と、どーしていいのかわからなあい~・・・と混乱する花乃衣が、残った。
「とりあえず、もうすぐ昼になるし、その男、ウチに連れてきたら?」
満の意外な発言に、花乃衣は?な表情で満を見返した。
「だって、放置しておくわけにはいかないでしょ、こんな危険人物」
男の顔を見据え、満がつぶやく。
「それに、もうすぐ帝も来るし」
「え?」
続いた台詞は小さくて花乃衣には聞き取れなかった。だが、満が本当に男を連れて帰るつもりだというのは、理解できた。
「水君と光君はしばらく来れないから、どっちみち屋敷で見張ってる方がいいわよ」
そういうと、満は屋敷の方に向かって歩き出した。
花乃衣は男の方をちらりと見ると、
「と、いうわけだから、ウチに来てくれるわよね?」
男は嬉しそうに、うなずいた。
こうして花乃衣は、男を拾う羽目になったのである。
次回はヘンタイがだせたらいいな・・・
そうすれば主要キャラのほとんどが出たことに・・・