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第18話:水君の街


 大分更新しなくてゴメンナサイ・・・(涙)

 ちょっと長くなりましたが、久しぶりの彼らをお楽しみください。

 翌日、旅馬車の予約が取れた三人は、馬車に乗り込み優雅な旅を満喫していた。

 街道は整備されて凹凸が少なくなっており、乗り心地も最高な長椅子にそれぞれ思い思いに腰掛けて、帝都に着くのを待っていた。


 今日はゆっくりと温泉に浸かったせいか、日頃の疲れが解消された蒼と花乃衣は、ならんで長椅子に腰掛けて今までのことを少しずつ話していた。

 「父様は封印後1年して亡くなったわ」

 蒼が握る自分の手をじっと見つめながら、花乃衣はつぶやく。

 「私が6歳の誕生日、だったと思う・・・今思えば、暗君の力も少しずつ漏れ出していたのね。両親が私を置いてしょっちゅうどこかに出かけていたから」

 思えば花乃衣が自身の力に気づき始めたのもこの頃だった。

 遠くから呼ぶ声。

 地下室で会った暗君の声だった。

 ・・・ずっと、呼ばれていたのだ。

 助けて欲しいと。


 「私は封印後、昏倒したらしい・・・父と伯父さんと伯母さんが封印に全力を傾けている間、魔界が暗君の闇の力に浸潤されないように結界を張り続けた。それが2,3日かかったものだから、体内の魔力値が0になりかけてた」

 当時を思い出すように、蒼は瞳を閉じたまま話を続ける。

 「半分とはいえ私も魔族だからね・・・自分の体を構成する魔力を失うと、肉体を繋ぎ止められなくなってしまう。死ぬんだよ、私達魔族もね・・・。

 私が昏倒したときはさすがの母も驚いたらしくてね。すぐに『永の眠り』に就かせられて・・・父よりも早く回復したけれど、一族も壊滅的な打撃を受けていて、魔界の一族の領土を父に代わり守らなければならなかった」

 「叔父さんは今は大丈夫なの?」

 「ああ・・・母に聞いた話だと、封印の後しばらくは眠らなくとも『力ある場所』で休んでいれば、ゆっくりとだが回復できたらしい・・・

 だけど、伯父さん・・・君のお父さんが亡くなってね、父は少しおかしくなってしまったらしくて」

 そういうと、蒼は寂しげに微笑んだ。

 「自分の身を痛めつけるかのように、魔力を放出し始めたらしい・・・母は父を強制的に『眠り』に就かせ、しばらくは私達のそばで見守ってくれていたんだよ」

 「東の魔女が?」


 花乃衣は未だ会ったことは無かったが、『東の魔女』のことは(世間知らずな彼女でも)知っていた。

 曰く、ヒトの身でありながらも、その魔力は膨大で、もう何百年も若い頃のままの姿をとっていると。

 性格は冷酷無比。

 この世の一切のことに関知しないのが、大魔女と呼ばれている『東の魔女』のポリシーである、らしい・・・ということも、世間を流れる噂話で聞いたことがあった。

 だが、その『東の魔女』が魔界大公の一人と結婚し、息子までいることなんて、一度たりとも聞いたことはなかった。

 水君は、知っていたようだが・・・


 「私が目覚めるときに、母が『父は目が覚めるまで絶対に起こすな』と言ってね、君を探しにいこうとした私を止めたんだ」

 そういいながら、蒼は隣に座る花乃衣の手をぎゅっと握った。

 「それからの日々は正に苦行だったよ・・・伯父さんが亡くなったことを知って、父が眠りについている理由もなんとなく分かったから、母の言うことを聞かざるを得なくて・・・

 魔界の領地も、シャラザード一族のものでない・・・更に言えば、父の配偶者であるとはいえ、母は人間だ。私の言うことじゃないと聞かないというヤツラばっかりで。手なずけるのに時間がかかった」


 過去を思い出して蒼はため息をついた。

 今はそばに花乃衣がいる。

 そのことがこんなにも気持ちを高揚させてくれるなんて。

 蒼は自分の永き生を思い、こんな気持ちを自分に与えてくれる花乃衣を決して離すまい、と強く思った。



 花乃衣は蒼の話を聞きながらぼんやりと思った。

 蒼と私。

 似て非なる私達。

 だけど、蒼の存在はこんなにも自分に馴染んできていて。

 そして、その力に、恐怖以上に安らぎを覚えてしまう。

 蒼の力は、暗君を救い出すために絶対に必要だ。

 それだけじゃなく、私が寄りかかっても、決して離さないだろう彼を想い、花乃衣は今までにない穏やかな気持ちを感じていた。


 旅馬車は静かに進んでいく。

 次の停車地は、帝都『炎竜』に程近い街『水華』だ。

 そこは、治癒師満の生まれ故郷であった。




 水華で一泊し、次の日に帝都に赴くことにしていた3人は、水華の通用門に近い場所に宿をとった。

 水華は帝都に近いが、それでも旅馬車で1日はかかる場所にある。

 第二の帝都と呼ばれているこの街は、その昔神竜『水君』に守られた街だと伝えられている。

 だから、水君の持つ「治癒能力」に優れた術師、治癒師が多く生まれる場所でもあった。


 だが、術師全体から言えば、治癒師は本当にわずかしか存在しない。

 その存在の稀有さゆえ、彼ら治癒師は各国から狙われて、攫われることがしばしばあった。

 しかも、女性にしか現れない能力で、遺伝するらしく、半分の確立で、治癒師の母親から治癒能力を持つ子ども、女の子が生まれるのだ。


 治癒師は神竜『水君』の力を借りてその能力を発揮するのだから、召喚師といってもあながち嘘ではない。

 だが、治癒師は治癒能力に特に長けたものに与えられる尊称のようなもので、召喚師同様、生まれながらにその能力を持つか持たないかによっていた。

 召喚の能力は先天的なものなのだ。

 どんなに術力があっても、その人間が召喚師になることはない。

 召喚の能力とは、召喚する「もの」たちとの「会話」能力が鍵となる。

 「聞く」力と「従わせる」能力がなくては、召喚師にはなれないのだった・・・


 治癒師の満も、例に漏れずこの街の出身であった。

 だが、生まれた家はもうない。

 満の力と引き換えに、両親は帝都に立派な邸宅と身分を保証され、気ままな生活を送っている、と充に聞いている。

 満は治癒師の力を持つが故に、帝国に身売りされたのだった。

 充は己の剣の才能を発揮し、妹のそば近くにいようと、騎士になった。

 兄との交流は当然続いているが、もう何十年と、両親に会ったことはない。

 満は己が力を疎んじたことはない。

 幼い頃から「水君」が身近にいたおかげで、寂しさを覚えることはなかった。

 水君は満に無償の愛を注いでくれる。

 困ったことがあったら、花乃衣も力を貸してくれる。

 10歳の時に花乃衣に出会ってから、満は水君以外の人間と交流できるようになった。

 妹のような花乃衣。

 満にとってかけがえのない友、であった。


 本来なら満は帝国側の人間であるので、帝国の『闇』に関することを花乃衣に教えることはできない。

 だが、花乃衣に協力することは焔帝からも命令されており、満にはもちろん、逆らう気もない。


 だから、満は花乃衣と共に行くことにした。

 それが自身を危うくすることであっても。

 それが、満が花乃衣にできる唯一のことであったし、満自身が望んでいることだった。



 「というわけで、本日も同じ部屋で寝て頂戴」

 風呂と食事が終わり、3人が気分よくなった後、水君に抱っこされて幾分目線が高くなったところから、満は、蒼と花乃衣に爆弾を投下した。

 蒼はにっこりと笑い、花乃衣は固まった。

 だが、それも少しの間で、花乃衣は「寝床は別だから」と言いながら、割り振られた部屋に入っていった。

 蒼は苦笑しつつ花乃衣の後を追う。その前に水君と満のところで留まった。


 「満さん・・・帝都へは私達だけで行ったほうが良くはないのか?」

 蒼の感情の読めない表情に、満は訝しげな目線を向ける。

 「どうして?」

 「君はむしろ帝国側の人間なのではないのか?花乃衣は特に何も言わないが・・・

 治癒師は国家所属だ。君は帝に逆らえないはず」

 「何故それを」

 蒼の台詞に、反射的に胸の辺りを隠すように腕を上げた満に、彼は憐憫のまなざしを向けた。

 「過去、何度か治癒師に会ったことがあってね・・・だから、少なくとも君は危ないと思ったら、すぐに水君と逃げるべきだ」

 満は自分の胸元の上衣を握り締めて、つぶやく。

 「枷にはならない。できれば最後まで花乃衣のこと助けたいの・・・」

 満の表情に、水君は心配そうなまなざしを向ける。蒼はあきらめたようにため息をついた。

 「その呪詛、ちょっと特殊だから時間をくれ・・・調べてみるから」

 蒼は優しげに微笑むと、二人の前から去っていった。花乃衣の部屋の扉を開けると、するりと入り込んでいく。

 満は水君にぎゅっと抱きつくと、

 「部屋に行きましょう・・・」

 そういって、蒼たちの入っていった部屋の隣の扉を開けた。


 水華の街での夜は静かに更けていった。


 ・・・えっと、

 次こそは帝都。

 そして祭。

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