第17話:お話にならない。
今回も閑話休題的な感じで。
本筋にはあんまり関係ありませんが、二人には必要なので・・・
読んでいただければ嬉しいです(^-^)
夜明け前に目の覚めた花乃衣と蒼は、着の身着のままで眠っていたため、お風呂に入ることにした
(正直空腹もあったが、それ以上に身奇麗にしたいという欲求の方が勝ったため)。
宿舎には温泉があり、一日中どの時間でも入浴できるのが一番の「売り」で、どの時間も宿泊客が入浴していることがあったが、さすがに夜明け前は浴場もしん、と静まり返っており、ただ温泉水が浴槽に流れ込むわずかな水音しかしなかった。
「花乃衣、一緒に入ろう」
「え!?」
蒼がさも当然といわんばかりの表情で花乃衣に言った。
「いやよ!」
これまた当然の反応を花乃衣がすると、蒼は(内面はどうであれ)真剣な表情で、きっぱりと言う。
「入浴中に君になにかあったら対応できないだろう?」
「ぐっ・・・」
言葉につまる花乃衣。
蒼の勝利だった。
「蒼、入ってもいいわよ」
『家族用』と書かれた浴室の前で、蒼は花乃衣の着替えが済むのを待っていた。
本当は一緒にいないと!!・・・と、言い張る蒼に、鉄拳制裁をお見舞いしたい花乃衣の心情が届いたのだろうか、扉の前で待つから何かあったら大声で叫ぶように!と、言い置くと、蒼は扉を開けて外に出て行ってくれた。
蒼が脱衣場に入っていくと、花乃衣はすでに浴場の方に入って行ったらしく、水を流す音、浴槽に浸かる音がリアルに聞こえてくる。
浴場は森林の香りがした。立て替えたばかりらしく、木材の香りが漂っていてリラックスできそうな空間だ。
露天風呂ではなかったので一安心した蒼であった。・・・花乃衣は入口から一番遠い浴槽の端っこに座っており、長い髪は頭上でひとまとめにしてある。
花乃衣の髪の色はこげ茶だ。ゆるくうねる髪は背の半ばまで伸びていた。普段からひとまとめにしていて、滅多に髪を解くことはない。だがその豊かな髪は柔らかくてさらりとしており、夜営の夜に何度も梳いてはその感触を確かめた。
花乃衣はどこもかしこも柔らかくて女性らしい。
湯船に浸かっている部分はよく見えないが、首筋や肩は白く光ってみえた。
蒼はあえて距離を置いて湯船に入った。あせる必要はない、と自分に言い聞かせながら。
花乃衣が自分に心を向ける、その日まで・・・
そうは思ってみても、愛する女性がそばにいて、手を出せない男がいるだろうか?(いやいない)
蒼は花乃衣のそばの浴槽に手をかけると、ゆっくりと湯船にその身を沈める。
花乃衣は蒼の近さに驚き、そうっと彼から離れようとしたが。
「花乃衣、動かないで・・・何もしないから」
だけど、私の存在に慣れて欲しい。
蒼がそういって、掴んでいた二の腕を離したので、花乃衣はおとなしく、彼に従った。
ヘンな空間だった。
「意外とヘタレなのね、蒼って・・・」
その話を後から聞いた満に、蒼はグサリ、といわれ、
「妙齢の男女が一緒にお風呂に入って何もしないなんて、あんた達ってホントに術オタクなの?」
そういって、思いっきり気にしていることを満に指摘された花乃衣だった。
「お話にならないわ」
女性としてどうかな?と思っていた花乃衣だったが、満の最後の台詞に、やっぱり女性としてはダメだったのか・・・となにやらよく分からない方向に思考が走ってしまったのだった。
次回は帝都です。
お読みいただき、ありがとうございました~(^-^)