第11話:動き出す時。
さて、物語は再度動き始めます。
楽しんでいただければ幸いです(^-^)
花乃衣と蒼が再び居間に戻ると、そこには満と、満を膝の上に乗せている美男子がいた。
帝と充の姿はない。
「あれ?水君・・・」
「花乃衣・・・今朝はすまなかったな」
満の頭をなでながら、綺羅綺羅しい美男子は花乃衣の方を向いた。花乃衣を抱き上げる蒼の存在に気づいたとたん、眉をしかめる。
「おまえ・・・『東の魔女』の息子か」
「お初にお目にかかります・・・『水竜』様」
花乃衣を二人がけの椅子にそっと座らせ、蒼は水君に対して丁寧に頭を下げた。それから花乃衣にお茶を淹れるべく、陶器のポットのそばに歩み寄る。
「暗君に会ったのか」
まっすぐに花乃衣を見つめ、水君は彼女に問うた。対する彼女も、まっすぐに水君を見つめた。
「ええ」
「彼はどこにいる」
「『悪意の底』」
「っ!」
花乃衣の言葉に、水君は息を呑んだ。
「・・・暗君の不在で、だんだんと光と闇の均衡がおかしくなっていってる。光君の力を使うと、何てことない呪も、数倍の威力になってしまう。
光君も、近頃眠る間隔が長くなってる・・・水君に癒してもらわないと、回復も難しいし・・・」
「我の力も万全ではない」
水君がよっこらしょと満を膝から下ろし、蒼のほうに近づいた。
蒼はまだお茶を淹れている途中だ。
「魔族ならば、鍵となれる」
「『悪意の底』への?」
水君の言葉に、花乃衣は驚いた。
蒼はお茶を淹れ終わったのか、その手にコップを持ち、水君に向き直る。
「確かに、我らなら『悪意の底』への道を開けるかもしれませんが・・・其処へ至るまでに、神竜族の方々のお力が必要です」
「・・・そうだな。そなたらでは同化してしまう可能性がある・・・」
「そうですね。まあ、私は大丈夫ですが」
「確かに。お前はあの魔女の息子だからな」
水君が蒼を見てフッと笑う。対する蒼は神妙な表情をしていた。
「あと、これは満に教えて欲しいのだけれど」
花乃衣は満をまっすぐに見つめた。
「帝国の『闇』」
「・・・ええ」
「彼らのことを、教えてほしい」
満は密かに嘆息した。いつかは話さなければならないことであるが・・・
一人で話すことは、満には荷が重かった。
何せ、花乃衣の母親のことに関わることだから・・・
「私の母様に対する仕打ちについては、暗君が教えてくれたから」
花乃衣の言葉に、水君と満は驚愕の表情を浮かべた。
「だから、彼らを徹底的につぶしてしまいたい」
花乃衣は自身の両拳を握り締めた。
「絶対に、許せないの。母様と暗君への仕打ちを」
召喚師として。
心を通わせた、信頼ある神竜族への思いにかけても。
二人の心をもてあそんだ、その存在を認めるわけにはいかない。
「今後上位の種族に対して、自分の欲のまま邪法を使うことを許してはいけないのよ。
我々の世界を創り出した彼らの力・・・人間の手に余るものに、手を出させないように。
邪法を完全に、抹殺してしまわないと」
花乃衣は水君と満に訴えた。
初めて、彼女が進んで何かを願った瞬間でもあった。
その姿を眩しそうな目で、蒼がみつめていた。
満は結局、帝国の闇について語ることはなかった。
ただ、帝都に行かなければならない、そう花乃衣に告げた。
「帝都に?」
花乃衣は首をかしげた。
帝都ならば数回、行ったことがある。
華帝国の帝都、炎竜は華帝国のある大陸の南端にある。100万の人間が住む大都市だ。
人間が多すぎて、気が読みにくいというところではあるが・・・
「行く?花乃衣」
満が真剣な表情で尋ねた。
「行く」
花乃衣は即答した。
答えが予測できていた満は、小さくため息をついたが、花乃衣を見ると、にっこり笑った。
「じゃあ、早速行きましょう。明日には出発しないとね」
「え、そんなに急に?」
「ええ。早く行かないと、帝都はもうすぐ祭りの時期だからね」
「ああ・・・豊穣祭か」
花乃衣は煌びやかな帝都が更に美しく磨きたてられ、街中が花びらで一面染まる季節を思い出した。
そういえば。
花乃衣は今更ながら思い出した。
「帝たちは・・・何しに来てたの?」
満は唐突な花乃衣の台詞に、水君から淹れて貰ったお茶を噴出すところだった。
「その祭りに関することでしょ。ったく、毎年来てるんだから、いい加減一度くらい参加してあげたらどう?」
「・・・私に、この歳になって妖精になれ、と?」
花乃衣のジト目の表情も、見慣れた満には効果がない。カラカラと満は笑って、
「大丈夫よ~?花乃衣は少なくとも、見た目25歳くらいだし~?ひらひらしたお洋服にあうじゃない」
「いやよ!あんな動きにくい服装・・・ぞっとする」
豊穣祭に参加する女性の服装は、昔からたくさんの布を何枚も重ねた下衣に、これまた薄い絹をたくさん重ねた上衣であったので、毎年、帝に豊穣祭に参加を要請されても、一度たりとも「イエス!」といったことのない花乃衣である。
「だけど、今回は好都合だわ」
満がボソっとつぶやく。
「祭のドサクサで、皇宮の警備がかなり手薄になるからね」
「え」
花乃衣が満の台詞を考えているうちに、そばに座っていた蒼が、彼女につぶやいた。
「帝国の闇とは、皇宮の中にある・・・というか、存在しているのだと思う」
花乃衣の思考が止まった。
早速明日、帝都に向けて出発することとなった。
次は旅立ち。
花乃衣は妖精になるのか(笑)
読んでいただき、ありがとうございました~♪