第10話:力あるモノたち。
はう~
なんとか物語の序盤が終了・・・
本日もお楽しみください~
花乃衣の目前に、今度は父親が現われた。
そして、おじさんも。
二人とも、とても緊迫した表情をしていた。
「暗君を抑えなければ、界を超えて魔族の領域が汚染される」
イルフレンはただ一人の血を分けた兄に、協力を求めた。
対する兄・・・ヴィルフレンは皮肉げな表情だ。
「人間どもがおのれの分を弁えず神竜の力を使い、あまつさえ制御できなくなったからその尻拭いをせよと?お前はそれを我が一族のモノたちに告げられるのか?」
冷たい声だった。
「我にはできぬ。だが、そなたには協力する」
我の唯一だからな。そういってヴィルフレンはイルフレンに近づく。
「しかし、このことによってそなたも我も相当の力をつかってしまうだろう・・・そうなれば」
「『永の眠り』につかなければ、力を回復することはできないだろうな」
ヴィルフレンは弟の言葉に同意した。しかし彼には分かっていた。麗花と離れるくらいならば、弟は永の眠りなど選ばぬことを。
その身に宿る力を使い果たしてしまえば、魔族は肉体を支えることは適わず、消滅してしまうだろうことは分かってていても。
それでも、弟は、チリになるその日まで、愛するもののそばにいることを、選ぶだろう・・・
「おじさんと父様は、貴方を封じるために、力を使ってしまったの?」
ぽつりと、花乃衣はつぶやく。
そばには、暗君が立っていた。
二人はまだ、暗君の作り出した昏い海の只中にいる。
また、父と叔父の姿が遠くなっていった。
『我から力を引き出す「道」を創ったものがその「道」を閉じること適わず、我の力が浮の世界に漏れ出した。
我の力は「闇」だ。光と闇は均衡を保たねばならないのに、闇の力が一方的に浮の世界で広がり始め・・・それを抑える術はなかった。
我は自分の力を制すること能わず、彼の狂気と共に、悪意の底に堕ちていった』
人間に勝手に利用されたうえ、暗君は炎華帝と共に・・・彼の狂気と共に堕ちていってしまったのだ。
花乃衣はそっと暗君に近づき、彼に触れようとした。だが、実体でないので触れることは叶わず、触れようとした手は、空を切る。その手を、花乃衣は握り締めた。
「絶対に、取り戻すから」
暗君を見上げ、花乃衣は力強く言う。
「光君と、暗君と、共にあるように・・・私、時間がかかっても、必ず貴方を、『悪意の底』から、連れ戻すから」
花乃衣はそう言いきると、にこりと笑った。
その彼女の表情に答えるように、暗君も微笑んだ。
そうして、暗君の姿は、昏い海に溶け込んでいった。
次に花乃衣が気がついたのは、蒼の目の前だった。
というか、蒼にお姫様抱っこされている。
花乃衣の意識が戻ったのに気がついて、安心したように微笑んだ。
蒼が無理矢理開けた扉は、再び固く閉ざされたようだ。
今度は何の気配も感じなかった。
蒼は少し緊張しているようだ。
元は自分が知りたいと願い出たことなのに・・・過去の出来事に、私を傷つけたのではないかと、心配してくれている。
花乃衣は素直に嬉しかった。
自分をこんな風に心配してくれる人がいるという事実に。
父様と母様。そしておじさん。
あなた達の守ったこの世界の均衡を、私は取り戻さなければ・・・
「叔父さんと父様は、魔族なんだろうけど・・・もしかして魔界大公の一族なの?」
「そうだよ」
「永の眠りについたおじさんは・・・目を覚ました?」
「うん。つい最近ね」
「え?」
蒼の腕の中にいながらその答えを聞いたとき、花乃衣は思わず彼の肩を掴んでしまうほど驚いた。
「だから、今まで君を探しあてることができなかったんだよ・・・実体で探さないことには、特に結界の強いところにいくのは不可能だからね」
蒼は腕の中の花乃衣を更に引き寄せた。30年近く生きてきた花乃衣であるが、兄以外の男にこんなに近寄られることはなかった。
なんだか頬が熱い。胸が、どきどきする。
花乃衣は蒼に対しては、他の誰にも感じない「何か」を感じるのだ。昔から・・・
蒼が、私を探してくれていた。そのことがとても嬉しかった。
ただ、その感情が「何」なのか、花乃衣はまだ知らない。
「父が眠っている間は、私が一族のメンドウをみていなければならなかったから・・・地上に出ることはできなかったんだよ」
「魔界は・・・大丈夫だったの?」
神竜である「暗君」の闇の力は絶大だ。
人間はひかりとやみの両方の精神を持つがゆえに、どちらの力もそれぞれ受け入れる器があるが、精神に及ぼす影響も半々なのでさほどの影響は無い。
だが魔族は、ほぼ「闇」の力でその身が形成されているため、暗君の力の影響を受けやすい。
母親を捉えるため行使された邪法の影響で、暗君の力が人間界のみならず魔界まで浸潤しようとしていたため、魔界大公の中でも最高位の「おじさん」とその叔父と同等の力を持つ父様、召喚師の母と光君たち神竜・・・『力あるものたち』がその身を顧みず、暗君の力を押さえ込み、あの扉から続く「悪意の底」へと封印したのだ。
これが、健康な父と母から、未来を奪ったことの原因である。
また、あの時感じた怒りがふつふつと湧き上がった。
「魔界は、私と母と残りの大公で結界を張った。・・・大公たちの力はあまり役に立たなかったので、母の力を借りねばならなかった」
蒼はそのときのことを思い出したのか、苦々しい表情だ。
「そのとき私の力も尽きようとしていたから、強制的に母親に眠らされたんだよ」
ぶすっとした表情で蒼がつぶやく。
何故?という表情で花乃衣が蒼を見上げると、彼はもう一度花乃衣を抱えなおした。
「すぐに人間界に行って花乃衣を助けなければ、と思っていたから。・・・それがこんなに遅れようとはね・・・」
はああ・・・と蒼はため息をつく。その表情がおかしくて、花乃衣はついふきだした。
心がこんなに、何かに沸き立っていることなどなかったのに。
花乃衣は無意識に蒼の胸のあたりにしがみつき、これからのことを思い、いろいろと思考をめぐらせた。
自分だけではなく、たくさんの人の力を借りなければならない。
母親のように、たくさんの力あるものたちに協力を得なければ・・・
花乃衣は改めて、まっすぐに先を見据えた。
たとえ行く道が困難だらけでも、きっと、達成するから。
だから、私を見守ってて・・・
母様、父様。
出口は、もうすぐそこにある。
蒼は、花乃衣を抱えたまま、地下を出た。
次回からはまたお騒がせご一行になります(苦笑)
お楽しみに~(えへ)
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