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第9話:悪意の底。

 今回は無理矢理な性的表現アリ(ちっともいやらしくありませんが)。

 不愉快に思われる人は読まないでくだされ。

 次に花乃衣が気がついたとき、目の前にはひどく焦った表情の母親と、彼女の腕を掴んでいる男の姿があった。

 男は、華帝国皇帝しかまとうことを許されない禁色・・・紫の衣装を身につけている。

 その男の顔は・・・兄に、似ている。というか、うり二つ。


 「炎華帝・・・?」

 花乃衣がそうつぶやくと、彼女にまとわりついていた気配がざわり、とゆれた。

 急に、息苦しくなる。

 まるで・・・目の前の炎華帝を嫌っているような・・・?


 炎華帝は兄の父だ。

 兄が生まれる前から病に臥しており、皇帝宮の最奥・・・後宮から一度も出てこないまま亡くなって、兄は幼くして登極している。


 『賢帝』と称えられ、中原の華、と称された炎華帝は、その美しい顔を醜く歪めていた。

 麗花は炎華帝の表情のあまりの醜さに、体をこわばらせる。恐怖からだった。

 世の中のたいていのことに慣れ、醜い魔獣相手にも恐怖を感じない彼女が、初めて恐怖を感じるほど・・・炎華帝の表情は、鬼気迫るものがあった。


 「許さない」

 目の前の炎華帝の声が聞こえてきた。母は体をびくり、と震わせるが、体が、何かに締め付けられたかのように自由に動かすことはできないようだ。必死の形相でどうにか動かそうとしているらしく、額に細かな汗の粒が浮かんでいた。

 「貴方は私のものだ。その髪一筋とて、彼の者に渡すわけにはいかぬ」

 そう言うと、炎華帝はゆっくりと麗花を抱きしめた。


 花乃衣を包む力の一部が、炎華帝に向かって流れていく。


 そうか、母を拘束する力は・・・

 「あなた、だったのね、暗君・・・」


 ふるり、と闇が波立ったような気配がした。



 その後の光景は、ただただ炎華帝の一方的な暴力だった。

 動けない麗花の衣装を全て剥ぎ取り、その場に押し倒し、組み敷く。

 愛おしそうに彼女を見つめていたが、その瞳は狂気に染まっていた。


 母はただ、絶望的な眼差しで、天井を眺めている。

 そのきれいな瞳から、涙がこぼれていた。



 男女の営みなど30年近く生きていれば聞くこともあったが、こうも一方的な暴力行為のものを見せられて、花乃衣の心は麻痺してしまっていた。

 「ははさま・・・」


 目の前で、炎華帝は繰り返し、麗花を犯し続けていた。



 『なかないで・・・』

 昏い海の中で、花乃衣は膝を抱えていた。


 ふと気がつくと、目の前に男の子がいた。

 黒い髪・瞳・肌の色の少年が。

 花乃衣の顔に手を伸ばして、彼女の流した涙を拭こうとしていた。

 その手の動きは、とても優しい。


 「暗君?」

 『ごめんね、花乃衣・・・』

 麗花を、助けてあげられなかった、と、目の前のこどもはつぶやいた。


 本来は成年のかたちをとる彼ら竜族が、無理してこどもの姿をとったことに、花乃衣は暗君のなかの優しさを感じ取り、我知らず微笑んでいた。


 「暗君のせいじゃない・・・」

 ゆっくりと、昏い海の中で立ち上がり、花乃衣はつぶやく。

 「炎華帝に、邪法を教えた人間がいる」

 小さく、だがしっかりと、花乃衣は言った。

 その眼差しは、厳しく目前の光景に注がれていた。

 暗君は花乃衣のせりふにびくり、とした。

 身に覚えのあることだったから。

 神族にも連なる彼ら竜族は、人間よりも上位の存在であるにも関わらず、まれに、『邪法じゃほう』と呼ばれる方術に捕まることがある。

 暗君の力を利用し、麗花を捉え、その身を炎華帝に与えた人間がいる。

 その事実に、花乃衣は目の前が真っ赤になるほどの怒りをおぼえた。


 花乃衣は召喚師だ。

 だが、父方から魔族の血を引いたせいか、術の流れ・種類を感じることに長けていた。

 だから、この光景のなかで、炎華帝の中から邪法を感じ、その力が暗君のものであることがわかったのだ。

 人間の『邪法』のなかに、上位種族を呪縛し、その力を引き出すえげつない術があることを、花乃衣は知っていた。禁呪として神族により葬り去られていたはずなのに。

 「帝国の『闇』」


 目の前の光景から眼を逸らさず、彼女は呟いた。

 過ぎてしまったことなのだ。

 この結果、兄は生まれ、今なお、帝国の繁栄は続いている。

 だが。

 『邪法は、放ってはおけぬ』


 いつの間にか成年のかたちをとっていた暗君が、思念で花乃衣に訴えてきた。

 『我を、救ってくれぬか・・・悪意の底から』


 「暗君・・・?」

 暗君は闇を司る竜だ。

 「悪」として捉えられがちだが、本質は純粋に「静かなるもの」として、本来は生きとし生けるものに安らぎを与える存在・・・「聖」なるものなのである。

 だが、闇に近いため、「悪」に捉えられやすい。

 だから、ずいぶん前に光君と共に眠りについていたはずだった。


 しかし何者かが2竜を目覚めさせ、

 暗君を強制的に眠りにつかせるような扱いをした。


 「帝国の『闇』が関わっているのならば、放ってはおけない」

 いつかは、キツくお灸を据えてやらなければならないと思っていた。

 邪法を手に入れているとしたら、術師としてもどうにかしなければ・・・


 『どうか、我を開放してくれ』

 切なげなまなざしで、暗君は花乃衣に乞うた。

 『悪意の底から、開放して欲しい』


 「望むところよ」

 花乃衣はにっこり笑った。


 暗君の気配が、笑ったような気がした。

 そしてまた、花乃衣の意識は昏い海に飲み込まれ、何も分からなくなった。

 そして断片的に過去編が続くのです・・・

 もうちょっとで過去編オワリ~


 12/3 ちょびっと修正(ちょっと齟齬アリ)

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