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S.Fです  作者: コアラ
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最終話 ロング・ラブレター

『えーと、まずはお久しぶりです。でいいのかな?

 使い方はちゃんと説明されたんですけど、いまいち不安が……私機械音痴なんですよね。だからとりあえずこれの性能の良さを信じる事にします。


 お伝えするべき事はいくつかあるのですが、やっぱり最初はわたしの家族の話から。

 わたし達家族が地球に辿りついたとき、何もかもわからなかった一家を支えて頂いた事、心より感謝しています。わたし自身にほとんど当時の記憶はありませんが、父と母から状況を掻い摘んで聞きました。社会に溶け込めて何不自由ない生活を送ってこれたのは、全て御二人のおかげです。ちなみに当の父も母も、ついでに弟も無駄に元気一杯です。写真や映像でも送る事が出来ればいいんですけど、そこまでの機能はないんですよね。残念です。


 それから、息子さんの事ですが。

 ご存知とは思いますが、彼ってやたらに優秀ですよね。容姿云々は別としても、頭脳明晰でスポーツもばっちり、他にもマルチな才能オプション追加しまくりの、とんでもない人物です。だからわたしは彼の事を完璧人間だと、ずっとそう思ってました。まぁ人間の部分は厳密には間違いでしたけど。

 でも、最近になって気がつきました。それって違うんじゃないかって。

 だって地球で人間として暮らしていくつもりなら、そんな完璧ぶりを取り繕う必要なんてないじゃないですか。人間は誰だって必ず欠点なり短所なりを抱えているものなのに、むしろ怪しいですよね、あそこまで何でも出来る人って。おかげでほら、学校中の女の子達から大注目ですよ。わたしを見習って、地味に平凡にスタンダードに生きるべきでしょう?

 というわけで、昨日彼を問い詰めてみました。そうしたら衝撃の事実を白状してくれたのです。曰く、「好きな子の前では、格好つけていたいでしょ?」

 ……ああごめんなさい。ちょっと思い出して頬が緩んでしまいました。男の子って大変なんですね。


 んん? 何が伝えたいんだって? つまり今のところわたしと彼は仲良くやっています、という事です。ただこの心境に至るまでは、ちょっと揉めましたけどね。


 彼はわたしと御両親の天秤の間で長らく苦しんでいました。ずっと1人で抱えて悩んで、限界がくるまでわたしには何も教えてくれないんです。それでいて飽きもせずうじうじ背負いこんじゃって、思考が暗すぎますよね。

 まったく、答えなんてあるわけないのに。変なところで彼は悲観的です。

 とりあえずわたしが死んだら後追いなんてのは却下です。せっかく授かった命なんだから、天寿を全うして頂きたい。御両親にも失礼でしょう、親より先に死ぬなんて、こちらでは三途の川で石積みをさせられるらしいですよ。ああ怖い。

 でもわたしがいないと寂しいってのはわかります。それはちょっと、ううんかなり嬉しいです。けどどうしようもないじゃないですか。わたしは地球人と同程度の寿命で、彼は永遠に等しいくらいの時間がある。出会えた時間が重なった事だけで十分奇跡のようなものなのに。

 彼を置いてさっさと死んでいく、残す側のわたしだって泣きました。悲劇のヒロインを気取って、一度は彼を道連れにしようかとも思いました。でもそれは出来ません。だって彼の事がこんなにも大切なんです。

 だからお互い、腹を括りましょう。


 こうなる事がわかっていてもわたしを好きになったんです。そしてこうなる事を知ったわたしも彼から離れる気はありません。とりあえず生きている間は他人様に迷惑をかけずにうざがられるくらい、いつも一緒にいてやります。皺皺のおばあちゃんになっても必ず手を引っ張ってもらいます。そしてそれまでに野球チームが作れるくらい、子供も産んでおくんです。いつだって彼が笑顔でいられるように。

 そしてわたしが死んだら。偉そうな事を言ってもこれで終わりです。彼がその先どうなるのか、結局のところわたしにはわかりません。


 だからこの「声」を残しておきます。


 広大な宇宙の海に、わたしはこれからビュータを使って何千何万と彼へのメッセージを流します。今日の天気とか、夕飯のおかずとか、別にどうでも良いような事です。座標指定はしないので、何処とも知れない色んな空間へ飛んでゆく事でしょう。

 けれどそれがあれば、彼は生きていけるそうなんです。わたしがいなくても、何処かに漂っているわたしの生きている軌跡を辿れる事に意味があると。子供達の行き先を見届けたら、その声を探しながらいつか故郷へ帰るのも悪くはないと。本当はもうちょっと明るい方向性をと思ったのですが、頑として聞いてくれないからもういいです。浮気の許可だって出したのに、どれだけ愛されているの、わたし。

 でも。そう決めたからこそわたしはもう泣かないし、与えられた人生は前を向いて精一杯楽しく生きていくつもり。もちろん彼と一緒にです。


 あ。もしかして、こんな考えのわたしにちょっと呆れてしまいましたか? これでも結構一生懸命頭を捻ったんですけどね。

 そんなわけで、彼の帰りがほんの少し遅れる事をお許し下さい。そして、救難信号にこのような返答をする事も。


 最後になりますが彼のお父さんお母さん、わたしに彼を出会わせてくれてありがとう。彼がそちらへ着いたら、この声を聞かせてあげて下さい。長い時間を旅してきて、これが久しぶりに聞くわたしの最初の声だと思うから。



 ――ねぇ稜介、元気?

 これからわたし、貴方を口説きまくっちゃうからね。

 広い広い宇宙に向かって、色んな宇宙人に聞かれたら恥ずかしい事も言っちゃうかも。

 本当はわたしから貴方を見つけに行きたいんだけど、昔から探し事って苦手でしょ。

 大変だからゆっくりでいいの。立ち止まって、休んで、挫けそうなら逃げてもいいよ。

 たまには寂しくなるかもしれないし、涙が止まらなくなるかもしれない。それに他にやりたい事が出来たり、愛想を尽かされて気が変わってしまうかもしれない。そうしたら、そのときは自分が一番に思った事を優先してね。

 だけど心の片隅にでもわたしがいて、貴方がそれを忘れられないのなら。


 ずっと待ってるよ。

 だから最後までわたしを全部見つけてね。

 そんなの不可能だって? でも弱気は認めてあげない。

 大体、長い長い時間があるのにこんなのんびりしたわたしを見つけられないなんて、永遠の名が廃るじゃない。

 だったらきっと、永遠なんて短いね。


 それからえーっと……大好き。ずっとずっと。




送信者正式名称、エスドット・エフデス


ううん、ここはやっぱり地球式でいっとくべきかな?

じゃあまた、どこかで会いましょう。


藤倉小夜子 ――― S.Fです』


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