見回り活動①
こんにちは、八折伏木です。
前回の投稿から早1ヶ月もの期間が空いてしまいました……もし楽しみにしてくださっていた方が1人でもいらっしゃったなら、申し訳ない限りです。
さて今回時間がかかってしまった理由なんですが、シンプルにどこで区切るかとか構成だったりで悩んでしまったからですね。結果複数話に分ける事にした訳ですが、それならもっと早めにこうしておけば良かったなぁと思っております……。次回同じような事があった際には活かしたいところです。
ともあれ、本編の方をお楽しみいただければと思います。今回は短めになってしまいましたが次話は気合い入れてますのでどうぞお楽しみに。それでは、本文の方へどうぞ。
登場人物
夜警団団員・・・幽夜
透鮫 愛渦
霊場 照陰
面幻 楓
迷子の女の子・・・柚菜
昨日は初任務として学園の管理者への挨拶を終え、謎の人物との出会いもあったものの無事にポラリスへ戻る事が出来た。初日からいきなり任務に行く事になり正直戸惑ったけど、レオンが色々教えてくれたし任務中の行動も頼もしかった。僕達と年はさほど変わらないのにあれだけ冷静に動く事ができるというのは尊敬する。
「僕もなるべく早く色々出来るようになっておきたいな。その方が仕事としても幅が広められて楽しいだろうし」
今日は集会所の方に連絡が来てて……ええっと、場所が指定されてる。それにしてもこの連絡をくれた人、知らない先輩だけど何の用事で連絡してきたんだろう。「団長命令だからちゃんと集合するように」って書かれてるけど……まぁ行けば分かるのかな。
「指定されてる場所……これ、ポラリスの近くにある茶屋だよね……なんでわざわざこんなとこに?」
とりあえず先輩のお呼び出しだし団長命令らしいし、行ってみよう。
ポラリスから徒歩3分程の周辺ではそこそこ有名な茶屋。……にカエデさんという先輩から呼び出されている。
「この茶屋……たまに話を聞くことはあったけど入るのは初めてだなぁ」
そもそも茶屋というものに入るのが初めてだった。ちょっと緊張しつつ扉を開け、中に入る。すると緑茶の香りが店内に充満しており、とても心地よい雰囲気だった。そういえば僕はそのカエデさんの顔も知らないんだけど、どうすれば……。
「おーい、そこの君。こっちこっち」
「えっ、あ、はい!」
少し奥の方から声をかけられ、振り向くとレインとラブカもいた。3人とも呼び出されてるって事は新人研修的なあれなのかな?
「初めまして、えっとカエデさん……ですか?」
「うん、僕がカエデ。面幻楓。よろしくね」
「よろしくお願いします。僕は……」
「幽夜くん、だよね。過去ある時期からの記憶を失っている……故に苗字等は不詳。で、合ってるかな?」
「え、はい……何故その事を?」
「集会所のプロフを見て確認しておいただけさ。あの自己紹介欄は基本的に事前に知っておいて欲しい事を書いてくれているものだろう?だから目を通しておいた、それだけだよ」
「そっか、事前にそこで確認しておけばウロウロせずに済んだんだ……」
「まぁ、まだ慣れない事も多いだろうし一つずつ使い方を覚えていけばいいさ」
さて、と前置きして席に着くようカエデさんが促してくれた。従って腰を下ろし、目の前に置かれたお茶を見る。
「あの、僕まだ何も頼んでないはずですが」
「いいんだよ、僕が事前に4人分注文しておいたんだ。僕のおすすめだ、遠慮無く召し上がれ」
「あ、ありがとうございます……後でお支払いします」
「何を言ってる、まだ学生上がりの子にそんなもの支払わせるわけないだろう。もう先に支払いは済ませてあるよ」
「……恐縮です……」
「気を使う必要は無いよ、僕の方が先輩なんだ。そういうとこは遠慮なく甘えてくれていい」
先輩に無駄な気とポイントを使わせてしまった気がしてしまう。
「じゃあ本題に入ろうか。今日君達にやってもらうのはずばり、見回りだ」
「見回り……っていう依頼なんですか?」
「いや、依頼がなくともやっている事さ。依頼が無ければ仕事が出来ないなら僕達はただのサボリになってしまうだろう?」
「ああ……確かにそうです」
「しかしいきなり新人3人でじゃあ行ってこい、なんて言われても何を見ていて何に対応していけばいいのか分からないだろう。だから今回は先輩がついてあげてくれ、と団長から僕があてられたんだ」
「そうだったんですね……では今日はよろしくお願いします」
「よろしく。まぁさっきあんな事を言っておいてなんだけど、正直見回りをやる事はあんまり無いよ。夜警団のようないわゆる何でも屋が他にいないからね、基本的に依頼が何も無くてやる事が無いなんて事はないと思っておいていい」
「学園の監視者達の見回りもありますし、そもそもの必要性があまり無さそうですしね」
「へぇ……よく知ってるね照陰くん。その通り、機関の人達が普段は見回りをしているから特に僕達が巡回する必要は無いんだ。ただ一つ例外があるのは、政府機関の人達が遠征調査に出ている時かな。その時は政府機関の方から市街地の巡回を依頼される事がある」
「ああ……なるほど」
「まぁそれもそう多くない。君達がどのくらい長く夜警団で活動するか分からないが……あっても数回だろう。まぁ依頼の中に適性のあるものがなさそうで自ら街中へ繰り出して色々と見て回る……というのも無しではないが」
「一応自主的に行っていいものなんですか?」
「問題無いよ。行ってみたい時は集会所のステータスを見回り中に変更するのを忘れずにね」
「はい、集会所のステータス変更を忘れずに……」
メモにちょくちょく書き込みながら先輩の話を聞く。
「よし、そろそろ話ばかり聞いていても飽きてくるだろう。後は歩きながらでも話そうじゃないか」
「あっ……はい!よろしくお願いします」
「おーいラブカ、起きて」
ラブカが妙に静かだと思いきやお茶を飲んで半分寝ていた。そこまで長話だった訳でも無いと思うけどな……。まぁいつも通りのラブカといえばそうかな。
「眠り姫もいるみたいだしね。尚の事外を歩こうか」
湯呑みに残っていたお茶を飲み干し、店員さんに挨拶して外へ出た。今日は朝から曇り空で、雨予報はないがどことなくどんよりした雰囲気だった。
「嫌な天気ですね。雨が降らないといいですけど……」
「そこは安心してくれていい。ほら」
カエデさんは黒い筒状の何かを僕達に一つずつ手渡してくれた。ボタンがあるでも無し、仕掛けがあるでも無し……にみえるけど何に使うんだろう。
「それは撥水層生成装置といって、雨が降った時に“力”を込めれば水を弾く膜を張ってくれるアイテムさ。簡単に言えば雨を弾くバリアを張ってくれるものだと思えばいい」
「へぇ……こんなものがあるんですね」
ラブカがこの前使っていた風を発生させるアイテムと似たような物だろうか。試しに筒に力を集中させてみると何かが出ているような感覚はあるが触れる事も感じる事も出来ない……そりゃそうか。水のある所で使わなきゃ効果を実感なんて出来る訳ないや。とりあえず用意してもらった事に対して礼を言い鞄にしまう。カエデさんはそれを見て歩き出したのでそれについて僕達も歩き出した。
「早速だけど見回りの際、気を付けて見ておくべき事は何だと思う?」
「注視すべき事……ですか?うーんと……人々の動き……とか?」
「ふむ……間違っちゃいないが、一番しっかりと見ておかなくちゃならないものは人々の表情だ。もっと言うとそこから『その人が何か手助けを必要としているかどうか』読み取ることかな」
「手助けを必要としているかどうか……」
「そう。例えば……」
カエデさんはふと立ち止まり、右前方に見えている子供をさした。
「あの子、特に泣き喚いたりおろおろした様子は見えないが……よく見てみると周りをキョロキョロと見回しては目を伏せてを繰り返している」
「あ……本当だ。それに周りに家族らしき人も見当たらない……」
「その通り。もしかしたら迷子かもしれない……僕ら見回り班の出番じゃないかな?」
というとどうぞいってらっしゃい、とでもいわんばかりに手をひらひらと振る。あまり小さな子と会話した経験は無いけれど……やってみるしかないな。
「行ってみます。……でも大勢で行くと怖がらせちゃうかな……どうする?レイン、ラブカ」
「……僕はやめとくよ。こういうの、あまり得意じゃない気がする」
そういう自覚はあったんだ……と思わず言いそうになってしまった。
「じゃああたしとゆーちゃんで行こうよ!2人ならたぶんだいじょうぶ!」
「目は覚めてたみたいで安心したよ。じゃあ行ってみようか」
そういえば小さい子との会話はあまりした事はなくても、僕らはホノカちゃんと接した事はある。あまりあてにはならないかもしれないけど、思い出しながら対応してみよう。ラブカに目配せして僕達は怖がらせないよう注意しながらそっと子供に近付いて膝をつき、目線を合わせてから話しかけた。
「ねぇ、そこの君。さっきから周りをきょろきょろ見てるけど……誰か探してるの?」
「……お兄ちゃん、誰?」
よかった、少し怖がってはいるけど反応してくれた。これで事情を探れる。
「僕は幽夜。えぇっと、これ見て。ポラリスっていう所で働いてるんだ」
社員証を見せて身分証明……っていってもまだ小さなこの子には分からないかもしれないけど。少なくとも僕が嘘をついていない事はアピール出来る……と思う。
「ぽらりす……ゆーや?」
「そう、ゆーや。こっちのお姉ちゃんはまなか。わかるかな」
「まなかだよ〜。よろしくね!おちびさん、おなまえは?」」
「……ゆな」
「ゆなちゃんかぁ、よろしくね。それでさっきの話に戻るんだけど……ゆなちゃんは1人でここまで来たの?他の人……お父さんやお母さんはいないの?」
「いる。……どこかに、いる」
よかった、保護者は誰かしら一緒に来てるんだ。でもやっぱりはぐれてるのか……。
「どこか……この後どこに行くって話をしてたとか……覚えてない?」
「がくえん、に」
学園、という言葉を聞いて少し表情がこわばってしまった。学園にこの子……ゆなちゃんを連れて行ってどうするつもりだったんだろう。いや、もしかしてこの子は……。
「わたしを、あずけるんだって」
やっぱり、この子は発現者だ。
「そっ……か。ね、ゆなちゃん。僕の右手にさ、何か変なのって見えたりする?」
聞きながら、右手のひらに“力”を集中して掲げて見せる。
「……?うん、少しだけ」
本人は気付いてないっぽい……まだ発現したてかな。恐らく両親が何かしらのきっかけで気付いて、手に負えないと感じて学園に養成を頼むつもりだったのだろう。
「それが、どうかしたの?」
「ううん、何でもないよ。ちょっと聞いてみただけ。ゆなちゃん、一緒にお父さんお母さんを探してあげるから、僕達を信じて一緒に来てくれないかな」
ここで先に学園の人に見つかって“保護”されてしまえば、この子の未来は閉ざされた学園になってしまう。なんとか見つからないうちにここを離れ、ご両親を見つけて説得しなければ。
「……わかった。ゆーやをしんじる」
「ありがとう、ゆなちゃん。必ずお父さんとお母さんに会わせてあげるからね」
(ラブカ、カエデさんとレインにこの子が発現者だって事と学園に連れて行かれる途中だった事を伝えてくるから、ゆなちゃんと一緒にいてくれる?)
(お、わかったよ〜)
多分僕といるより同じ女の子であるラブカがいてくれた方が安心する……と思う。ゆなちゃんの返事を聞いてからちょっと待っててね、と一声かけてカエデさん達の元へ一度戻った。
「……そうか、少し厄介な事案になりそうだね」
事のあらましを説明するとカエデさんは表情こそ崩さないものの何か悩んでいるようだった。
「厄介、ですか?」
「うん。というのも……住民達は学園、ひいては政府機関の連中が発現者をどう扱っているかなんて知らないだろう?世間から見れば学園もポラリスも同じ“発現者養育機関”である事に変わりはないんだ。むしろ、政府直轄の学園の方が信頼度は高いと見るべきだろう」
「あっ……」
「気付いたかな?仮に僕達が先にご両親を見つける事が出来たとしても、僕達の話を聞いてくれるかは分からないんだ」
「そんな……」
「歯痒いが、こればかりは仕方がない事なんだ。表立って政府と対立するわけにもいかないからね」
そこまで説明した上でカエデさんは僕の肩を叩いた。諦めろ、と言われるのかと思いきや違った。
「だが、もちろん説得が成立する場合もある。まずはご両親が学園に捜索依頼等を出さない内に、見つけ出すことからだ」
「……っはい!」
そうだ、まだ決まった訳じゃない。僕達の動き次第でゆなちゃんの今後を少し良い方に変えられるかもしれない。顔を上げて、ゆなちゃんの所へカエデさん達も引き連れて戻った。
「……え」
……が、そこにはゆなちゃんも、ラブカの姿も無かった。
……雨が、降り始めていた。