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夜を生きる  作者: 八折伏木
夜警団入団編
7/10

入団、そして初依頼へ

こんにちは、八折伏木です。

今回もしかしたら過去一間が空いてしまったかもしれない……週一とか、もっと狭い感覚で書いてる人もいらっしゃるんですかね。ただただ尊敬です。とか言ってないでもう少し頑張れるようにしないとですね。

もっと書く事に慣れてきたら曜日を決めるとか、何かしら日程を決めて定期的に掲載する事にチャレンジしたいですが、まだまだ遠そうです。

では、本編へどうぞ。

登場人物

夜警団団員・・・幽夜ユウヤ

        透鮫トオサメ 愛渦マナカ

        霊場レイバ 照陰テイン

        氷室ヒムロ 冷温レオン

夜警団団長・・・福音フクネ 未来ミライ

八千代区学園の指導者・・・千夜チヨ

「機関」の監視者

謎の黒装束


 授業も無く正直暇な時間が多かった退屈な日々が2週間ほど続き、ついに夜警団の団員になりポラリスで働き始めることとなる日が来た。授業へ向かうのではなく仕事を始める為に起きる朝、というのは新鮮だったし緊張する……。なんだか不思議な感覚だ。

「さて、ラブカも流石に今日は起きてくれてるといいんだけど……」

 いくらラブカでも今日は入団式の日だし、普通に起きてくれてると思いたいけど。

「ちょっと心配だな……まだ時間あるし様子を見に行ってみようかな」

 僕とレインの部屋は近くにあるけど、ラブカは女子寮なので別エリアだった。色々な教室があるエリアを挟んで反対側にある女子寮へ向かう。ラブカのへやの前に着くと、レインが何やら冊子を読みつつ部屋の前で待機していた。

「あれ、おはようレイン。レインもラブカの寝坊が心配で来たの?」

「ん、おはよう。まぁ……そんなとこ。今日は大丈夫だろうと思いたかったけど一応ね」

 なんだかんだレインも友達思いというか……結構人の事を気にしてるんだよな……。とりあえずまだ少し時間はあるしノックしてみるのはもう少し待ってからでも良さそうかな。

「何読んでるの?ちょっとシワがあるというか……普通の雑誌とかではなさそうだけど」

「ん、これはレポートだよ。滅花さんの研究レポート。休み中に研究室に行ったら特別にくれたんだ」

「へぇ、滅花さんの研究の……内容は?」

「主に異霊についてだね。これまでに夜警団の先輩方が遭遇したものからデータを取ってるらしいんだけど、やっぱりまだそこまで多くの事は分かってないみたいだね」

「そっか……でもよくもらえたね、そんな資料。大事そうだけど……」

「自分で書いた物は全部覚えてるから問題無いってさ」

「ぜ、ぜんぶ……」

 他にも色々な資料がまとめられているであろうことを考えると想像する事もおぞましい記憶量だ……。でも覚えてるとはいえ、おいそれと渡せるようなものじゃないだろうし……以前の滅花さんの言動から察するにレインに期待してる部分があるのかな。

「ふぁ〜〜〜……あれ?2人ともおはよう〜……」

 レインとその資料を見ながらしばらく雑談しているとかなり大きくて長いあくびをしながらラブカが部屋から出てきた。

「おはよう、ラブカ。良かったよ、入団式まで寝坊しなくて」

「まさかそこを心配して2人ともきてくれたの〜……?あいがとねぇ……」

 相変わらずラブカは寝起きのぽわぽわ具合が凄まじい。なんで起きてる時と半分寝てる時のテンションにここまで落差があるんだろうか……。

「まぁとりあえず夜警団本部に向かおう。前に呼び出されて迷ったおかげで僕が道分かってるし」

「……迷ったの?」

「あはは、地図はちょっと苦手なんだ」

「そういや1人で出歩いてるのあんまり見なかったもんね……そういう事だったのか」

「ぶ、分析しないで……ほら、行こう」

 行こうとは言ったものの……ラブカがあまりにもふらふらしてて不安だ……。

「ほらラブカ、こっちおいで」

「ん〜〜……」

 ラブカがその辺に倒れたり誰かにぶつかったりしても困るのでおぶって行くことにした。

「たまにやってるけどさ、よく疲れないよね。それ」

「うん、まぁ……“力”の入れどころを工夫すれば案外大丈夫だよ。ラブカは軽いしね」

「そゆことか。じゃあ案内よろしく、ユウ」

「うん、行こう」

 ラブカをおんぶしながらポラリス地下の夜警団本部に向かって歩き始めた。そういやレオンはいるかな……2人に紹介しておきたい。ついでに会えるといいんだけど。


 エレベーターで地下に降りて若干入り組んだ通路を歩いて……本部前に着いた。この時間に呼ばれただけで持ち物とかは何も言われなかったけど……入団式ってどんなだろうか。

「ラブカ、着いたよ」

「ん、うん……ありがとう、ちょっと目が覚めてきた……」

「よかった。じゃ入ろうか」

 中に入ると、他が忙しそうにしている中やはり団長は反応が早かった。いや、初めからこっちを向いていたような気もするけど……気のせいかな。

「ようこそ、新しい未来達!ここがこれから君達の本拠地となる夜警団本部さ!私は福音未来、皆からは大体団長と呼ばれているけど、君達の好きに呼んでいいよ!早速だけど今日から君達は私達の仲間だ、だからその証をあげよう!平たく言えば社員証だね!」

 怒涛の自己紹介と突如差し出された僕達の社員証を目の前にして、レインとラブカは既に置いていかれていた。固まってしまっている。……僕は前に経験していたから、とりあえず社員証を受け取る事は出来た。

「え……と、よろしくおねがいします?」

「……よろしくお願いします」

 数秒間が空いて2人も社員証を受け取り、なんとか追いつけたようだった。

「うんうんよろしく!君は……愛らしい未来だね!そして君は……ふむ、聡き未来といったところかな!」

 あ、せっかく追いついた2人がまた置いていかれたのを感じる……。かといってこれを何と説明してあげたらいいんだろうか……。

「……団長は、他人の事を何とかの未来って呼ぶんだ。困惑するだろうけど、気にせず受け入れてあげて」

 どこから出てきたのかレオンがひょこっと現れて補足説明をしてくれた。

「わ、びっくりした……どこから出てきたの、レオン」

「何故かは分からないけど団長に呼ばれてたんだ。けど……ユウ達の入団式と被せて呼ばれてるって事は、そういう事なのかな」

「そういう事って……どういう事?」

「それは多分これから団長から説明されるよ。あ、そうだ……初めまして2人とも。ユウから話は聞いてるよ、これからよろしく」

「よろしくお願いしま〜す」

「……よろしくお願いします」

 レインはいつも通りの反応として……ラブカは少し目が覚めてきたかな?レオンは2人に紹介したいと思っていたしここにいたのはちょうど良かったけど、団長に呼び出されてるっていうのは何でだろう……。

「うんうん、予定通り来たね耀き未来!社員証も渡せたし、次の話をしようか!」

 団長は端末を取り出し、何かしら操作してからこちらに画面を向けてきた。

「さて未来達!このコードを読み込んで出てきたものをダウンロードして!」

 僕達は言われるままに各自の端末でコードを読み取り出てきた「夜警団集会所」というアプリを入れた。

「よし、出来たようだね!それは私達の連絡用兼依頼確認用のアプリケーションさ!機能はいくつかあるけど……説明は耀き未来に任せるよ!そして今日の本題だけど……君達には初依頼に向かってもらうよ!」

「……はい?」

 え、いきなり初仕事??まだ何も分かってないし、初めは研修とか受けるものかと思っていたけど……。

「驚いているね、新しい未来!無理もない……が!これが私達のやり方さ、慣れてくれ!それじゃああとは任せたよ、耀き未来!」

「はい、団長。……えーっと、まぁ疑問しかないだろうからとりあえず説明するけど……目的地に向かいながらにしようか」

 レオンが端末を開いて何か確認している。何かの画面を開いて見せてくれた。

「いきなりだけど集会所の機能一つ目、依頼の内容を確認する事が出来るんだ。目的地や依頼の中身は勿論、依頼人なんかも見れるから内容によっては話を聞きに行くのもいいかも。じゃあここに書いてある場所に向かうよ」

 依頼内容に書いてあった目的地は八千代区。ここポラリスは心宿区だから……お隣かな?なら普通に徒歩で向かえる範囲内……かな。

「八千代区なら徒歩で向かえますね。ポラリスは心宿の中でもそちらよりの立地ですし」

「そうだね。じゃ行こうか」

 僕達は団長に振り回されながらも隣の区である八千代区に向かいながらレオンから夜警団集会所、略して集会所と呼んでいるらしいアプリの説明を受けていた。

「……という訳でさっきも言ったように基本的には依頼確認用のものだね。でもメンバー登録をしておく事でここから依頼の受理・報告も出来るし、夜警団のメンバーを確認する事も出来るんだ。グループを組んで動きやすいように自己紹介欄に自分の“力”をある程度書いてる人もいる。例えば……」

 レオンは左手で氷の結晶を作ってみせた。

「……俺は冷気を操れる。これはメンバー登録の時にプロフィールに書いてある」

「ほえ〜綺麗!あたしは消えれるよ!」

 ラブカはスウっと一時的に姿を消してみせた。

「へぇ……便利な“力”だね。汎用性も高い」

「……そういえばレオンの“力”は初めて見た。気にしてすらいなかったや……」

「……これからは発現者と敵対するような事もあるだろうから、“誰”が“どんな事が出来るのか”はなるべく把握しておいた方がいい。味方も、それ以外の連中の事もね」

「言われてみればそうだね……気をかけて見るようにしておく」 

 歳が近いとはいえ、レオンは2年分僕達より先輩だし……こういう事を逐一アドバイスしてもらえる事はありがたい。

「ちなみに依頼の受理と達成報告は忘れずに。ここから今夜警団ですぐに動ける人がどの程度いるのかも把握していたりするから」

「なるほど……人材管理も兼ねているんですね、無駄が無いな」

「そういう事。あ、それと連絡用のものでもあるって言ったけど……救援を求める事も出来る。基本的には自分の達成出来るレベルの依頼に行く事になるとは思うけど、想定外の事はあるから」

「そういう機能もあるんだ……それなら僕達新人でもある程度安心して依頼にあたれるね」

「そう、それに集会所に登録してから6ヶ月……半年間は最低3人以上かつ2年以上の経験者同伴じゃないと依頼に登録できないんだ。いわゆる研修期間だね」

 研修期間……確かにそうしないと分からない事だらけのまんま依頼に1人で行く事になってしまったりするかもしれないし、いいシステムだけど……半年間だけで慣れられるものなのかな。

「もちろん半年間の期間が終わったからっていきなり1人で行けって言われる訳じゃないから、ゆっくり慣れていけばいいと思う」

「そうだね、幸い僕にはもうレオンっていう先輩がいるしね」

「……あんまり、期待しないでくれ……」

 あれ、そういえば……。

(レオン、2人には敬語無しで話してくれって言わなくていいの?)

 こそっと小声でレオンに話しかける。

(うん、タイミング逃したし。また今度でいいよ)

(そっか)

「ユウ、氷室さんと仲良いんだね!トモダチつくるのはやいなぁ、もう〜」

「わっとラブカ……もうしっかり起きたんだから乗っからないで……」

「そんなこといわないでよ〜んふふ〜」

「まぁくっついてるのはいいけどさ……歩きにくいだけだよ?」

「君達こそ同期なだけあって仲良しじゃないか。先輩としては安心だな」

 話しながら歩いているうちに八千代区の紋章が入った標識を通り過ぎていた。気付けばもう隣の区だ。


 八千代区に入って少し歩いた所でレオンが着いた、と足を止めた。今回の依頼の内容は物資の運搬。依頼者はポラリスの関係者だった。特にトラブルも起きる要素は無さそうだし、多分そういう依頼で流れを知ってもらおうっていうことなのかな……。

「というか着いたって、ここって……」

「うん、八千代区の“学園”……政府機関の監視下にある施設さ」

「こんなとこに来て大丈夫なの……?」

「もちろん。僕達ポラリスと政府機関は少なくとも()()()敵対もしていなければ睨み合ってすらいないんだから」

「表面上って……なんか不安だな……」

「言わんとしていることは分かるけど、これはある一種義務なんだ」

「義務?」

「そう、政府機関の連中に『僕達がこれからポラリスで働く者です』って挨拶しに行くんだ。じゃないと政府未認可のまま君達発現者が動く事になるだろう?政府期間はそういう事に敏感だから。体面上、ってやつだよ」

「……それは、まぁ理解したけど……今回の依頼って物資の運搬じゃなかったっけ?」

「んーと、それはまたおいおい」

 レオンについて4人で政府機関の運営する学園に入った。入る際には理由の説明を求められたり、社員証を提示させられたり……確認作業で結構時間がかかってしまった。中に入ると、正直……思っていたよりも雰囲気は重たかった。曲がりなりにも“学園”と名のつく場所なのだから、外で駆け回っている子供達の1人や2人は見れる事を期待したんだけど……。背景を考えるとそうもいかないか。

「あ〜めんどくせ……。オイテメェら、さっさとしやがれ。オレは眠たいんだ……」

「ご安心を、すぐに済ませますから」

 学園内を歩く許可は降りたが、案内が1人つけられる事になっているらしく怠惰全開のこの監視者がとても嫌そうについてきている。名前を聞いてみたがテメェらと喋る気はねぇよと一蹴されてしまった。白い外套に仮面を着けていてその全貌どころか顔すら見えない。監視者というのは全員こんな感じの格好なんだろうか……。とにかく言われた通りさっさとその学園の指導者に挨拶を済ませ、依頼を遂行することにした。

「それで、挨拶に来たのはいいけど依頼は何をしたらいいの?レオン」

「書いてある通りだよ……って言いたいところだけど実はアレ、書いてあるだけなんだ」

「書いてあるだけ?」

「うん、書いてあるだけ。ぶっちゃけた話、ここの指導者との顔合わせがメイン。実を言うとこの依頼、団長が未来さんになって以降毎回依頼内容の項目が違うらしいんだ。それまでは毎回、同じ内容で書かれていたらしいんだけど……何で一々違うものになっているのかは不明」

 団長が福音さんになってからこの初依頼の内容の項目が違う……何か考えがあるのかな。でも団長の振る舞いを見てるとなんか……気まぐれで変えられているだけというか、あの人の遊び心なんじゃないかと思ってしまう。

「一応、今回は物資の運搬になってるけど……特に何も運ぶものは無いし。案内人さんも眠たそうだから言われた通りさっさと挨拶を済ませて戻ろう」

 チラリと案内人の方を見たけど、相変わらずあくびをしながらついてきているだけだった。これなら別にこのひとがついてくる意味ないんじゃ……。そう思いつつ、この学園の指導者がいる部屋に着いた。レオンがノックして、中に入る。

「失礼します……ポラリスから来ました、氷室冷温です。今年の新規入団メンバーを連れてご挨拶に参りました」

「これはこれは、隣の区からわざわざ足労ご苦労様です。私はここ八千代区の学園にて指導者として管理を務めさせていただいております、千夜チヨと申します。以後お見知り置きを」

「初めまして、幽夜といいます」

「……霊場照陰です」

「透鮫愛渦です!」

「ふむ、今年は3人増えましたか。燈郷の民の悩みを取り除かんと立ち上がってくれた若者がそれだけいてくれるというのは非常に悦ばしい事です。私達は隣接した区に住む者同士、手を取り合う事も多くあることでしょう。その時はどうぞ、よしなに……」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。それでは千夜様もお忙しいでしょうから、私達はこれにて」

「ええ、それでは」

 僕達は挨拶を終えるとささっと部屋を出た。そして学園を後にしようと入り口に向かって歩いていた……が、何故か途中で監視者がいなくなっていることに気がついた。

「あれ……レオン、監視者の人が……」

「うん、それに何でか知らないけど……誰かが俺達をつけてきてる」

「僕も気になっていました。指導者の部屋を出てから……」

「え、出てからずっと……?気付かなかった……」

 急に先頭を歩いていたレオンが入り口に戻る道とは違う通路に入り、足を止めた。

「……一旦止まって、4人で背中を合わせて」

 僕達は足を止め、その場で背中合わせの体勢をとった。レオンは気を張って、周囲を警戒している。

(全員、このまま話を聞いてくれ)

 レオンが小声で僕達に告げる。

(恐らく今尾けてきてる奴は俺達を襲う気はない。だからこれから対話を試みてみる、けどもし俺の見当違いで襲いかかってくるようなら申し訳ないがそれぞれの裁量で対処してくれ。なるべく俺が気を引くようにはするけど) 僕達がこくりと首を縦に振って了解の意を示すとレオンは大きく声を張り、何処にいるとも分からない相手に話しかけた。

「今俺達を尾けてきてる奴、悪いがこちらは既に気付いてる!もし戦闘が目的じゃないなら、すぐに出てきてくれ!こちらも無駄に戦う気は無い!」

 レオンが尾行してきているであろう相手を挑発すると数秒の後、天井からするりと()()()()()()()。黒装束……というやつだろうか、全身真っ黒だ。

「降参だ。子供4人と思って侮ったが、やるじゃないか。もしや既に俺の領域に踏み込んでいる事も承知かい」

「い、今、天井から……!?」

「発現者……!」

 ユウとレインが思わず戦闘態勢をとったが、レオンに制止された。

「落ち着いて、降参だって言ってるだろ。少なくともここでやり合う気は無いらしい」

「ふむ、君が引率か。まぁ先程言った通りだ、私はここで事を構える気は無い。渡す物があって君達を尾けて機を伺っていたに過ぎない」

「渡す物?」

「ああ。君達の団長へ届けてもらいたい、構わんかね?」

 レオンは様子を伺っているようだった。しばらくして悪意はないと判断したのか手を出した。

「分かった。その依頼、受けるよ。届ける物は?」

「ふむ、よかった。それでは……」

 黒装束が右手を上げ、手のひらを上に向けると何も無い空間から正方形の箱が出てきた。

「……これを、届けてくれ。頼んだよ」

 レオンが差し出した手でそれを受け取ると今度は床に、まるで水面に落ちるかの様に黒装束は消えた。

「天井の次は床に……まぁとりあえず戦闘にならなくてよかった……」

「そうだな……この箱、このまま持ってると監視者に怪しまれるな」

「あ、それならあたしに任せてください!」

 ラブカが手で触れると、箱は透明になった。

「透明になっていてもあたしは知覚出来るので、あたしが持っておきますね」

「ああ、ありがとう。やっぱり良い“力”だね。これで心配事は無くなったけど、監視者とはぐれた事をどう弁明しようかな……」

 とりあえず今度こそ学園の出入り口に向かった。結局監視者とは合流出来ないまま、入り口付近まで来てしまった。

「あの監視者、どこへ消えたんだ……?」

「監視者がいないまんま戻ったら怪しまれるよね……でも、ありのまま話すしかないかな……」

「もうそれしかないな」

 どうしようもなかったので出入り口の警備員に事情を話した。

「まさかまたアイツサボってどっかで昼寝してんじゃねぇだろうな……。あぁ、別に君達を疑いやしないよ。君達の案内につけたやつはサボり魔でね。どうせまたどっかで寝てんだろう……」

 どうやら疑われずに済んだらしい。こっそり心の中でサボり魔の監視者にお礼を言った。おかげさまで思っていたよりさらっと学園から出られた。

「……普段からああって事か、あの監視者……」

「お陰で助かったけど」

「そうだね、ひとまず何の疑いもなく出られてよかった」

 怠惰な監視者のお陰でそのまま学園を出る事が出来たので、依頼達成報告をしてポラリスに戻った。


「依頼達成ご苦労様、耀き未来達!学園はどうだったかな?」

「思っていたより昏い所でした。背景が背景だけにしょうがないんでしょうけど……」

「……そうか、初めてあの施設を見た時の感想はやっぱり皆同じだね」

 なんだか一瞬、団長が僕と面談した時のあの感じになっていたような気がした。

「さて、ともあれ初依頼達成おめでとう!どんどんいろんな人達の未来を解決してあげてくれたまえ!今日はここまでにして、この後はゆっくり過ごすといい」

「あ、あのこれ……黒装束の謎の人物が団長に届けてほしいと」

「ふむ!謎の人物が私に?」

「はい、この箱です」

 今思えばこの箱……軽く振ってみても音もしないし、かといって中がぎっちり詰まっているような重みも感じない。何が入っているんだろう。

「そっか、それもまたご苦労様!初日から2つも依頼を達成してくれた子はなかなかいないよ、お手柄だね!」

 団長にお褒めの言葉をいただきながら、頭をぽんぽんと撫でられた。褒められた事は素直に嬉しいけど、やっぱり箱の中身が気になるな……。まぁ気にしても仕方ないか。僕は特にする事もないし部屋に戻っておこうかな。


「ええっと、名前の欄……苗字分からないけどいいのかなぁ……」

 みんなと別れて部屋に戻ってきてから、改めて機能の確認もしたいと思ってまずは登録をしていた。

「自分の“力”……よく分かってないんだよな……下手な事書いてそれを基準に考えられても困るし、今は書かないでおこうかな」

 その他、いくつかの項目の入力を済ませて登録は完了した。色々触ってみたけど説明された主要なもの以外にも結構色んな機能があった。

「そうだ、メンバーリスト見てみようかな……お、ラブカとレインも登録したみたい。もう反映されてる……ん?」

 リストを眺めているうちに、ある人物のプロフィールを見つけて手が止まった。

「あの和服のお姉さん……赤村刀香セキムラトウカさんって人だったんだ。あ、クラスとかも載ってるんだ……」

 僕はクラス欄を見て思わず端末を落としそうになってしまった。そこに書いてあったクラスは……“鬼冠”だった。

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