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夜を生きる  作者: 八折伏木
夜警団入団編
6/14

いよいよ始まる……前に。

こんにちは、八折伏木です。

あんまりこういうこと書くべきじゃないかもしれませんが、本来5000文字くらいに抑えて頻度上げようとしてるのに気付いたら余裕で超過してるんですよね……これが良いのか悪いのか分かりませんが、内容は少しでも読みやすく出来るよう努力しますので見守りお願いします。

それでは、本編の方へどうぞ。

登場人物

ユウ・・・幽夜ユウヤ

ラブカ・・・透鮫トオサメ 愛渦マナカ

レイン・・・霊場レイバ 照陰テイン

先生・・・豊巣トヨス メイ

ミツカ・・・三日香

ホノカ・・・灰香

夜警団団長・・・福音フクネ 未来ミライ

夜警団のメンバー・・・氷室ヒムロ 冷温レオン


 僕達は先生考案の特別授業を受ける日々を過ごしつつ、時折授業に来てくれた先輩達の話を聞いたり、組手をさせてもらったり、色々と夜警団入団後の為の準備を進めていた。乙何さんや呼不地さん、滅花さん……色々な人に色々な事を教わってきたけど、そんな日々ももう終わりが近付いてきている。数ヶ月経ち、気付けばもうすぐ僕達の期間修了の日だ。


「……いよいよ今日までで先生の授業は終わりかぁ、期間が終わればいよいよ……夜警団で活動していくことになるんだ。なんだか実感わかないな」

 僕は教室までの廊下を歩きつつ、数ヶ月前の事を少し思い返していた。今思えばポラリスで働くと決めたのは連れ去られていくホノカちゃんを見つけて……助けたのがきっかけだった。保護者であるミツカさんと出会い、そのミツカさんがたまたまポラリスの人事部で働いているいわば僕達の先輩で……。

「あ……そういえば」

 授業のことばかり考えていたけど……司さんのレストランでご馳走になって以降、ミツカさんとホノカちゃんに会っていない。

「僕達を夜警団に紹介してくれた人だし、やっぱり期間修了前に挨拶しておきたいな。今日で授業も最後だし……午後にレインとラブカを誘って行こうかな」

 しっかり感謝を伝えてから夜警団員としての活動を始めたい。なんとなくそう思った。多分、ラブカもホノカちゃんに会いたいだろうし。そんな事を考えつつ歩いているといつの間にか教室に着いた。なんだかいつもより早く感じたな……。

「おはようございます、先生」

「おはよう、ユウくん」

「おはよ、ユウ」

「あ、おはよう。レイン」

 ラブカは……まさか最終日まで寝坊する気だろうか。授業開始8分前、まだ教室にはいない。

「レイン、ラブカはまだ来てないの?」

「ん?うん。そういやいつも通りの事すぎて気にしてなかったや」

「いやまぁ……確かにいつも通りなんだけど……」

 最近少しづつ遅刻を減らして頑張っていたし、最終日も気合い入れてくると思ってたんだけどなぁ……。

「まぁまだ7分前だし。これから来るかもしれないよ」

「それもそうだね、待ってようか」

 少し経って開始1分前、教室の扉が開いたのでホッとした。

「遅かったね、ぎりぎりだ……」

「どうも、おはよう皆!元気してたかい?」

 教室に入ってきたのは乙何さんだった。最初の方に数回授業に来てくれて以降、忙しくしていたらしく姿を見るのは久しぶりだった。

「あ、えっ?おはようございます……」

 あっけに取られてしまったが、後ろをよく見るとラブカが引き摺られていた。

「おはよぉ〜……」

 ……明らかに寝起きだ……。もしかして遅刻を危惧して乙何さんが引っ張ってきてくれたんだろうか。

「あはは、今日君達の授業が最後だって聞いてね。時間があったから顔出しに来たんだけど、途中でよたよた頑張って歩いてる子を見つけてね。引っ張ってきちゃったんだ」

「うぅ〜……ありがとうございますぅ……」

 よっこいしょと立たせてもらってもまだしっかり目は覚めていないみたい。ぽやぽやしてる。

「きっと色んな諸先輩型に授業してもらったんだと思うけど、一応僕がトップバッターだったしね。先輩面しようってわけじゃないけど、見に来たくなって。邪魔はしないで見てるから、気にしないで!」

「乙何くん、わざわざ来てくれてありがとう〜!ふふっ、なんだかこの子達のお兄ちゃんみたいだね」

「お兄ちゃんって明さん……やめてくださいよ、そんな風に言われると恥ずかしいです」

「んふふ、私はほんとにそう思ってるんだけどなぁ」

 乙何さんがお兄ちゃん……いいなそれって思ってしまった。実際何度か会ってみて、とても優しくて面倒見がよさそうでお兄ちゃん感は確かにある……。ちょっと想像しちゃった。

「さてと、それじゃあ今日で最後になる授業を始めよ〜!締めにやる内容としては何をやるか迷ったんだけど……テーマはズバリ、夜警団の仕事内容!」

「えっと……それは前にもやりませんでした?基本的には依頼が来たものを解決して、時折コトダマ退治にも行くことがあるって……」

「うん、その通りだよ〜。前にやったその内容はあくまで大雑把なものだったからね。最後に詳しくどんな依頼があるのか、とか聞いておいた方が良いかな〜って!」

 言われてみれば、確かにさっき自分で言ったことくらいにしか聞いていなかった。

「じゃあまず……一番多いものから!燈郷の住民達から届いた依頼だね。これは最も数が多いのもあって内容はとっても色々あってね、人探し物探し・家財や道具の修理みたいな雑務だったり……時には催しのお手伝いなんかもあるよ!」

 催しのお手伝い……楽しそうだな。街でやっているイベントは外を歩いていると時々見かける。あの準備をするのか……。

「二つ目が対発現者の依頼だね。主に“司法隊”から直接依頼が来る事が多いかな。手に負えない無法者がいるから助けてくれ〜!って感じで」

 “司法隊”……政府直属の法務執行部隊だっけ。国が擁する部隊のメンバーでも解決しきれない事があるんだ……怖いな。僕達は街中で生活しているわけじゃないからあまり見た事がないだけでそういう事案は実は結構あるんだろうか?だとしたら色々首を突っ込んで無事に済んでいた僕達は運が良かったんだな……。

「そして最後に異霊に関する依頼だね。そもそも司法隊や見回りの人達がいるからあんまり街中で被害を及ぼす事はないけど……調査目的で研究所から依頼が来たりもするね。とても危険だから、基本的にこれに向かうのは先輩達になるとは思うけどね〜」

 チラッと乙何さんの方を見ると、相変わらず穏やかな表情で授業の様子を見ていた。乙何さんも異霊と対峙した事があるんだろうか……。

「主にこういう依頼がポラリスに届いて、それをこなしていく感じになるよ。一部のものを除いて、基本的には自由に選んで依頼に向かっていいシステムだから自分達の力量や能力に合うと思ったものをやっていこうね」

 そこら辺は自由にやっていいんだ……なんだか前にやった事があるゲームみたい。

「一部のものっていうのはさっき言ってた異霊関連の依頼ですか?」

「うん、それもあるし……そもそも依頼を受ける条件にクラスが設定されている事があるんだ。怪我人を増やさないようにする為の措置だね。あっでも……逆に指名される事もあるよ。依頼が来た時に最初から来てほしいメンバーを書いてくれてるパターンだね」

 ……その後もいくつか質問したりしつつとりあえず一通り仕事内容の詳細を教わって、授業の内容としては区切りがついた。

「他には聞いておきたい事とかは無いかな?今日の内容に限定しなくてもいいよ〜」

 僕もレインもラブカも特に確認しておきたい事はなく、誰も手を挙げなかった。今日の授業はもう締めに入ろうとしているところで、先生が終了の号令をかける。

「それじゃあ3人とも、今日で私の授業は終わりになるけど……これでお別れって訳じゃないからね。何か困ったり悩んだりしたら、いつでも私の所へおいでね」

 先生はいつも通りの……いいや、なんだかいつもよりもっと優しくて穏やかな笑顔で……最後の授業を締めくくった。……あれ、気付けば乙何さんがいない。少しお話ししたかったのに……。

「皆〜また会う時まで元気でいてね〜!」

 僕達が教室を出る最後の時まで先生はにこにこ笑顔で見送ってくれた。何故か先生の笑顔を見ていると安心できる。


 午後になり、僕達は少し遅めの昼食を食べに来ていた。

「おぉ〜いいね!ミツカさんにご挨拶!ほのちゃんにも会いたいし!」

「うん、ラブカはそう言ってくれると思ってたよ」

「ごめん、僕はちょっと外に用があるから。また今度行くよ」

「そっか。ほんとは3人で行きたかったけど……仕方ないね」

 話は決まったので、とりあえずご飯を食べてレインとは食堂で別れた。ラブカと一緒に僕達は初めてポラリスのオフィスに向かった。人事部は……少し奥の方みたいだ。途中で事務員さんに場所を聞きつつ、人事部には着いたけどここだけでも結構広い。ミツカさんはどこだろうか。と、きょろきょろしながら歩いていたせいで誰かとぶつかって尻もちをついてしまった。

「あててて……す、すみません!ちゃんと前を見てなくて……あっ」

 ぶつかった女性には見覚えのある耳と尻尾がついていた。

「おう、こちらこそすまないね坊や……ってユウじゃないか、ラブカも。久しぶりだね、アンタ達。こんなとこに何か用かい?」

「おひさです!ミツカさん!」

「お久しぶりです、ミツカさん。今日はあなたに挨拶しに来たんです」

「アタシに?……ああ、そうか!アンタ達もうすぐ期間修了になる時期かい!すまないね、暦の節目の人事部は色々忙しくてね。頭から抜けていたよ」

「いえ、そんな……僕達はミツカさんに出会ったことがきっかけで夜警団に推薦してもらえる訳ですから。僕達が改めてお礼を言いたくて来たんです」

「そうかいそうかい。だがそのきっかけもアンタ達の行動あっての事だろう。アタシに礼なんて要らないさ」

「そういう訳にもいかないですよ。これ、大した物じゃないですけど……お菓子持ってきたので良かったらホノカちゃんと一緒に食べてください」

「ハハッ、挨拶に菓子折りとは。そこらの大人共よりよっぽど大人だね、アンタ達。ありがとう、ありがたく頂いておくよ。ホノカも喜ぶだろう……そうだ、もうすぐ仕事も一区切りつくんだ。ホノカにも会ってやってくれないか」

「はい、是非」

「やったー!会いたかったんです、ほのちゃん!」

 僕達はミツカさんの作業が終わるのを待って、一緒にミツカさんの部屋へ向かった。中に入るとホノカちゃんが飛んできた。んだけど……。

「やぁホノカちゃ……あれ?なんか大きくなってるような……?」

「ああそうか、アンタ達はこうやって見るのは初めてかい。アタシら亜人族ってのは見かけの成長は早いんだ。種族にもよるが特に犬系の亜人はね。前にアンタ達が見た時からもう4ヶ月ちょっとは経ってるからね、見た目が少し変わるくらいには成長するさ」

 ラブカは特に気にせずホノカちゃんを撫でている。

「ちょっとおっきくなったね、ほのちゃん!あいかわらずかわいいね〜……」

「ほら、ホノカ。兄ちゃん達がお菓子持ってきてくれたぞ、ありがとうは?」

「あ、わ……ありがと!」

「わぁ、前より少し流暢に話せるようになってる……!」

「まぁさっきも言ったように成長が早いのは見かけだけでね、中身の発達は見た目程早くはないのさ。人間で言えば見た目は4〜5才ってとこかな、だが言葉はまだそれほどちゃんと話せてない」

 確かに、多分亜人族じゃない純人間だったらこのくらいの時には割と会話が成り立つくらいには話せてる気もする。

「んまぁそれはいいんだが……ユウ、アンタにアタシの方も用があるのを忘れてたよ」

「用?僕にですか?」

「ああ。今度……まぁ、いつでもいいから1人でホノカに会いに来てやってくれないか」

「僕が……1人で?なんでです?」

「別に話せないコトでもないが、まぁ内緒の方が良いな。理由は聞かずにで頼む」

「はぁ。まぁ……どうで今後授業も無いので時間はありますし、全然大丈夫ですけど……」

「そうかい、ありがとさん。あぁ、この部屋のアクセスコードを渡しとくよ。アタシがいないタイミングでも構やしないからさ、頼むね」

「はい、わかりました」

 なんでこんな事を頼むのか、意図は分からないけど……どうせ時間はあるし。明日にでも来ようかな。僕とレインはラブカと違ってまだホノカちゃんに受け入れられてる感じはしないし……僕達にも仲良くなって欲しいんだろうか。いやそれならレインと2人でって言われるかな……まぁまた来たら分かるかな?

「それじゃあ僕は行かなきゃいけない所があるのでこれで。ラブカはどうする?」

「んふ〜、私はもう少しほのちゃんと遊んでく〜」

「そっか。ではまた!」

「ああ!さっきの件、暇な時でいいから頼むよ」

「はい!」

 ミツカさんとホノカちゃんに会いに行く用も済んだので、僕は今日元々呼び出されていた所へ向かった。向かう先はポラリスの地下、夜警団本部。今日の授業終わり際に先生伝いに呼ばれていた。なんでそんな所に呼ばれたのかは分かんないけど……。


「ポラリスって地下も広いんだなぁ……この前の授業で政府機関と同じ位大きい組織だって聞いたけど、なんか納得だ」

 今まではポラリスの中を色々歩き回ってみる、なんてことしてこなかったから実感が無かったけど。改めて社内の色んな場所を見てみると本当にこの建物の中は広かった。地下なんて初めて来たけどここもすごい。人もいっぱいいる……この人達全員発現者なのかな……?

「それはそうと、広すぎてその本部がどこにあるのか分からない……」

 先生が用意してくれたマップはあるけど、あいにく僕は地図がちょっと苦手だった。

「う〜〜ん……」

 一度立ち止まって、位置を確認してみる。方向は間違ってないはずなんだけど……。

「ねぇ、君」

「わっ、えっと……はい?」

「ごめん、驚かせたかな。……道が分からないの?」

「あ、はい……本部に呼ばれているんですが、初めて来たもので場所が分からなくて……」

「そっか。初めてだと迷うよね……分かるよ。俺もそうだった」

 落ち着いて見てみるとこの人……僕と歳はそんなに変わらなそうに見える。もしかして最近期間修了した人だったり?

「俺は氷室冷温ヒムロレオン。……よろしく」

「あ、僕は幽夜……です。よろしくお願いします」

「……幽夜、だけ?苗字は?」

「あ、えーっとそれは……」

「まぁ、いいや。話したくないことくらい誰にでもあるよね」

「すみません……」

「いいよ謝らなくて。それより呼ばれてるんだろう?案内するから本部に行こう」

「ありがとうございます」

 冷温さんの案内のもと、本部に向かって歩き出した。途中、冷温さんが話しかけてきた。

「……ねぇ、君いくつ?」

「14です」

「やっぱりそのくらいか。期間修了してこれから夜警団に入団するとこ?」

「はい!冷温さんは……同じくらいに見えますがおいくつですか?」

「俺は17。2年前に夜警団に来た代だよ」

 やっぱり結構近い。先輩の中でも歳が近い人に会えたのは嬉しいな。

「ねぇ、よかったら敬語無しで話してくれないかな」

「……え?」

「……実を言うとさ、俺には同期がいないんだ。それにここ2年間夜警団に入った人がいなくて。君みたいに歳が近い子が来てくれるのが嬉しくて」

 冷温さんは少し照れ笑い……なのだろうか。表情があまり動いてないけれど……多分。

「わかりま……」

 敬語で言いそうになって一度止まった。

「分かった、よろしく!」

「ありがとう、君は……いい奴だな」

「ユウでいいよ」

 そういうと冷温が目を見開いて……少し間があいて今度はしっかりにこりと笑ってくれた。

「わかった、ユウ。俺のことはレオンでいいよ」

 まだ夜警団に入る前だけど、レオンという友達が1人増えた。

「僕の同期があと2人いるんだ、今度紹介するよ」

「今年は3人も来てくれるのか……ありがとうユウ、嬉しいよ」

 雑談しながら歩いていると、レオンが突き当たりを指差してあそこが本部だよ、と教えてくれた。

「せっかくだし一緒に行くか」

「うん、ありがとう」

 本部の中に入ると、たくさんの人達が動き回っていた。けどその中で僕達が来るのを待ち構えていたみたいに、僕達が入った瞬間に歩み寄ってきて声をかけてきた人がいた。

「やぁ、新しい未来!耀き未来が連れてきてくれたんだね、ありがとう!」

「はへ、新しい未来……?」

「あ、言い忘れてた……団長は人のこと未来って呼ぶんだ。困惑するよね、最初は」

「な、なるほど……?というか……団長?このお姉さんが!?」

 驚いた。団長ってもっと威厳あるベテラン……って感じの人を想像してたけど大分予想外だった。

「初めましてだね!私が夜警団団長をやってる福音未来フクネミライ!大体団長って呼ばれてるけど何とでも呼んでくれていいよ!新しい未来の個性に期待するね!」

「とりあえず僕は新しい未来、なんですね……一応、幽夜といいます!よろしくお願いします!」

「……さっきも思ったけどユウ、順応早いな……」

「うんうん、いい返事だね!早速だけど今日君を呼んだのは私だよ!ちょっとお話しようか!」

「お話、ですか?」

「うん!それじゃ場所を変えよう!」

 レオンとはそこで別れ、団長に連れられて別の部屋に向かった。着いた所は団長の自室だった。

「さ、入って入って〜!適当に座って!」

「失礼します!」

 ……?何だろう、この部屋……既視感があるというか。来たことがある……?いや、そんなはずは無いんだけど。今日初対面の団長の部屋に来た事がある訳は無いし……。

「……さて、と!ちょっとだけ真面目モードでお話しようかな」

 団長の雰囲気がさっきまでとは変わった。言葉全てにビックリマークがついてるんじゃ無いかってくらい勢いのある喋り方だったのが少し落ち着いている。

「幽夜君、君はポラリスに来るまでの記憶が抜けているらしいね」

「……え、あ、はい。そうです。名前だけはかろうじて覚えていたんですが……」

 いきなり新しい未来、ではなく名前で呼ばれた事と急によく分からない威圧感が出た団長に対してびっくりしてしまった。

「他に覚えている事はほとんどありません。自分が発現者であるという自覚はありましたが……“力”を集中させることしか出来ませんし、自分にどんな能力があったのかも覚えていません。色々試してはみたんですけど……」

「そうか。まだ思い出せないか……」

「え?」

「いや、何でもないよ。その事に関して今日話す為に君に声をかけたんだ。君がこれから活動を始める夜警団には、様々な人達が所属している。だから積極的に色んな人に話しかけてみるといい。何がきっかけで何を思い出せるか分からないからね……色んな事を経験する事を心がけよう」

「分かりました……分かりましたけど、何でわざわざ僕とこうして個人的に面談する機会を作ってくださったんですか?」

「それは……」

 団長の雰囲気が、気付くと先程までの明るい雰囲気に戻っていた。

「君達一人一人に向き合うのが、団長の使命だからさ☆」

「……ありがとうございます」

 何となく、これ以上何か聞くのは無駄な気がした。


 次の日の朝……なんだか不思議な気分だった。本来授業に向かう曜日なのに、行かなくていい。朝から自由時間なんて。ラブカにとっては夢のような期間だろう。

「さて、顔を洗ってホノカちゃんの所に行こうかな」

 昨日ミツカさんに頼まれた1人でホノカちゃんに会いに来て欲しいという頼み。モヤモヤしたままホノカちゃんに会うのも良くないけど……団長がなぜ僕と個人的に話をしたがったのかやっぱり気になる。でも去り際に他言無用って言われたし、誰かに相談するわけにもいかない。う〜ん……。

「……考えても分からないし、ホノカちゃんと向き合ってる間は忘れよう。そういやホノカちゃんと1人で会ってくれって言われた理由も分かってないし……」

 結局モヤモヤしたまま、部屋の前に着いてしまった。

「着いちゃった……まぁいいか」

 とりあえずノックしてみる。反応が無いことから、どうやらミツカさんはいないらしい。もらっていたアクセスコードでドアを開け、中に入る。ホノカちゃんは相変わらず入った瞬間にぴょんぴょんとこちらに飛んで来てくれた。

「おはよう、ホノカちゃん。えーっと……」

 そういえば、何を話そうかなんて何も考えてきてなかった……!どうしよう、ラブカくらい仲が良ければ言葉も必要なかったのかもしれないけど……。何を言えばいいのか迷っていると、ホノカちゃんの様子が少しおかしい事に気付いた。耳は垂れているし、顔が赤い。尻尾は……元気そうだけど。

「ホノカちゃん?お顔が赤いよ?」

 しっかり確認しようとしゃがんで近付こうとすると、尚更耳まで真っ赤になってしまった。

「まずいね、真っ赤っかだ……熱があるのかな……いや、もしかしたら僕が知らない亜人族の特徴かもしれないし……ええと、とりあえずミツカさんに連絡を……」

 一度廊下に出てミツカさんに連絡しようとすると、後ろからホノカちゃんがしがみついてきた。

「いかあいで……」

 若干涙ぐんでいる。

「……いかあいで……“行かないで”……?」

 そうか、今は周りに僕しか人がいない。今は一緒にいて安心させてあげた方が得策だろうか。今思えばドアを開けたらすぐに飛んで来るのはあまり1人でいるのは得意じゃないからだろうし……。

「大丈夫、どこにも行かないよ。安心して」

 ホノカちゃんに向き直ってぎゅっと抱きしめて頭を撫でてあげると落ち着いたようで、顔はまだ赤いままだけど泣いてはいなさそうだった。良かった……。

 その様子を扉の外から、三日香が腕を組んで見守っていた。

「うん、やっぱりユウはあの子の良い番になってくれそうだ。予想通りホノカはユウに惚れてるみたいだしな」

 三日香はそっとその場を離れ、オフィスへ向かった。

「今後はメンタルケアも兼ねてユウにたまに来てもらうか……」

 その後しばらくホノカちゃんを抱きしめてあやしていたが、大分落ち着いたようでしっかり掴んでいた手を離してくれた。

「もう大丈夫?落ち着いたかな」

 ホノカちゃんはこくこくと頷いてくれている。様子を見ている限りもう離れても大丈夫そうだったのでそっとその場を離れてまた来るね、と声をかけて部屋を出た。

「ふぅ……結局何の為だったんだろう……」

 よく分からないままだったが、とりあえず外でも歩こうかと歩き出した。色々とよく分からない事も多いけど……まだ入る前なのにレオンっていう友達も出来たし、なんだかんだこれからが楽しみだった。

「僕の夜警団員としての活動……もう少しでいよいよ始まるんだ……」

 外に出ると気持ちのいい春風が吹いていた。もう桜の咲く時期が近付いていた。


 

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